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中堅・中小企業が過剰なIT投資を回避するには?

 システム投資の投資対効果を把握できないで、頭を悩ませている経営者やIT部門の責任者は多い。投資対効果を考える時重要なのは、どのようにして効果を計るのかという問題と、投資額自体が適切であるかという問題である。今回は適切な投資額について考察してみる。


 ITサービス業者の“売らんかな”と言う姿勢から、過大な機能のシステムを買わされた企業も多いだろう。例えば、本来ならば安価なパッケージソフトで十分なところを、顧客側がITに疎いことを良いことに、大げさで高価なオーダーメードのシステムを買わせる。逆に競合他社を出し抜くために、本来必要なシステム機能やカスタマイズ事項を取り去り、見掛け上は安価なシステムを売りつける。そして、後で別途費用でそのカスタマイズや機能追加を要求し、結局は高価な買い物を強要する。今は少なくなったと思うが、このようなITサービス業者の悪質な行為の犠牲になってしまい、過大なシステム投資を行なってしまった会社があるのも事実だ。

●顧客側の姿勢にも問題が

 一方で、顧客側の姿勢に問題がある場合も多い。ユーザー自身の趣味としか思えない要求や、使う機会は年に数度しかなく、手作業でも容易に処理できる作業なのに、あった方がよいとの理由で組み込まれた機能や、統合ビジネスソフトという名のパッケージソフトの抱き合わせ販売で、必要な機能だけでも買えるものをわざわざ高価な総合ソフトを買ってしまう例(ワードとエクセルしか使わないのに、わざわざMSオフィスを買うようなもの)等々、ムダ使いとしか思えないようなシステム投資を良いと思い込んでやっている会社も多い。

 よくある話だが、グループウエアを導入したものの、使っているのはメールとスケジュールと掲示板だけと言う状況も実に多い。ソフトを導入する時は、あれもできる、これもできると、機能が多いことを評価してそのソフトを選んでも、結局は限定された機能しか使わないで宝の持ち腐れにしてしまう。これも一種の過剰投資と考えるべきだ。メールとスケジュールと掲示板だけで良いのなら、わざわざグループウエアを買わなくても、フリーソフトを数本集めれば同じ機能を手に入れることも可能である。

 最近の電卓や携帯電話、家電製品は実に多くの、決して使用することのない機能が搭載されている。コンピューター用ソフトも、こういう無駄な機能が沢山搭載されていることを知ったうえで、購入を検討することが重要だ。

●なぜIT投資だけ無駄使いが減らないのか

 これがシステム投資ではなく、工場などで使う生産設備だったらどうだろうか? おそらく、趣味で必要も無い機能を追加したり、年に数度しか行わない作業や、手作業でも容易に行える作業のために高価な機械を導入したりはしない。これは投資対効果を考えるまでもなく、ムダ使いであることが明白だからだ。しかし、システム投資ではこのようなムダ使いが横行してしまっている。これは何故だろうか?

 ひとつ、大きな理由として考えられるのは“ITの分かり難さ”である。IT技術の変化の激しさや、同じ目的でもそれを解決するITツールが多彩に揃っていること、また、ユーザーの業務の特殊性や業務推進に対する会社の考え方、作業する人達のスキルレベルなどによっても“最適なITツール”の姿は変わってくる。

 少しばかりITに対する知識があっても、素人では自社に最適のITを選び出すのは至難の技である。実際、プロである我々ITサービス業者にしたところで、日頃からの努力を些かでも怠れば、最新情報を取り損ねて時代に乗り遅れてしまう危険を常に感じながら、自己研鑚を重ねているのだ。ITの世界は努力を怠れば、専門家と言えどもすぐに通用しなくなる世界なのである。

 では、最適な投資額はどのように判断すれば良いのか。第一歩は、現場の状況検証する習慣をつけ、ムダな買い物をしないための判断ができる力を身につけることだ。簡単なことなのだが、IT投資に関しては、実際の利用、活用状況から投資の妥当性を検証するという単純な作業を怠っているケースが多い。例えば、販売管理システムを事例に説明すると、導入当初は10の機能が必要だと考えて実装したが、一年後に利用、活用している機能はわずか6機能に過ぎないという事実を検証しないがために、機能の絞り込みができないまま、次期バージョンアップ時やリプレース時に同じ失敗を繰り返すといったことだ。

●ITベンダーとは別にアドバイザーを確保しよう

 私がもう一つ推奨したいのは、第三者に判断してもらうことだ。つまり、目利きの出来るプロのアドバイザーに相談するということである。やはり素人には的確な判断は無理だし、ITツールを売ろうとしているITサービス業者に相談しても、公正な判断を引き出すことは難しい。また、自社のことを何も知らない第三者の一般論では、システムの使い勝手の考察は無理である。

 私が推奨するのは、IT導入と運用に絞り込んだアドバイスの専門サービスを提供している、ITサービス業者だ。建築業界を例にとると、建築設計事務所と建築施工業者を別々に契約することがあるが、この考え方に近い。建築設計事務所では“最適の建築設計”を行ない、施工現場の監理までをやってくれる。顧客としては自分の思い通りの建物を設計できるし、施工業者が手抜き工事などしないようにプロのお目付け役までが手に入るということだ。

 これと同じように、“顧客にとって最適のIT”を計画し、必要ならばシステム開発の要所要所で、プロの技術者が開発のやり方そのものを監査してくれる・・・このようなサービスを行なう業者がここ最近は増えてきているので、ぜひ利用を検討してみていただきたい。

 もちろん、アドバイス役を雇うには相応のコストが掛かるが、結果的に投資総額を低く押さえることができる場合が多い。何よりも、不明朗な投資をしていないという納得性が得られる。分かり難いITを目利きし、自社に最適で投資総額を低く押さえることを可能にするアドバイザーは、今後のIT活用型企業にとって不可欠な存在となるだろう。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第73回 中堅・中小企業が過剰なIT投資を回避するには?」として、2004年5月10日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト