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“現業”対“管理”の対立を克服しよう

 中小企業といえども、業績の良い会社というのは、経営の基本機能である営業・技術(またはサービス)・管理の三つのバランスがとれているものだ。この三つの経営機能は、それぞれが重要であるのは言うまでもないが、企業の経営革新をお手伝いしていると、三本の柱各々のレベルというよりも、大抵はバランスの狂いが壁となって立ちはだかる傾向がある。今回は、この問題を考えてみよう。

 業績が芳しくない、売り上げが減少傾向である、あるいは会社そのものが不安定である企業の特徴として、管理機能の部分が必要以上に肥大化していることが多い。ここで言う肥大化とは、第一のポイントとして、管理に関わる社員の数が必要以上に多いと言うことだ。原価構成で言うと、概ね一般管理費の部分が肥大化している状態である。もう一つ重要なポイントがある。管理機能そのものの力がやたらと強い状態であることも問題であると言える。

 一見、管理が強いと、経営状態は良好ではないかと思いがちだ。会社の活動は、PDCA(Plan Do Check Action)の基本行動の繰り返しであるとも考えられ、その前提では、管理機能は概ねCheckの部分の機能を担う事になる。人間は怠惰な動物であり、組織も放置すれば堕落しがちだ。したがって、PDCAのうち、Cを疎かにすることは、飛行機でいうならば計器類が正常に作動していない状態であり、それだけ経営リスクが増大することになる。社長としては、自ずと管理力の強化に目がいきがちだ。

●現場と管理のバランスをどこに求めるか?

 ところが、“管理が強い会社”を客観的に分析してみると、相対的に営業や技術の“生命力”が失われているのが実状だ。そして、こういう状態が続くと、経営環境の変化に応じて組織が変化していく能力まで衰えてしまう。経営革新の必要性に迫られていても遅々として改革が進まない会社に多く見受けられるのが、管理系以外のスタッフが管理系のスタッフの尻に敷かれ、自主性や自発性を奪われている状態である。逆に、現業の力が強すぎて、管理系が日陰者になっていても駄目である。

 PDCAの仕組みがきちんと企業内で循環し、経営環境の変化に柔軟に対応していくためには、管理系と現業の力のバランスはどうあるべきなのだろうか? ある企業が顧客対応の業務フローを見直そうとしたケースを基に考えてみよう。

 ある住宅設備の修理サービス会社では、伝票を正確に記入するという課題の克服に一年以上も費やしてしまった。本来であれば、二、三ヶ月で改善しなければならない課題である。

 改善前の実状を簡単に説明するとこうだ。修理サービスを主に営んでいる会社だが、受付窓口が、日々修理依頼を電話などで受け付ける。受付は「修理依頼伝票」に必要事項を書き込み、修理サービス課にまわす。通常の業務フローであれば、20名いる修理サービススタッフのために、修理サービス課の事務方の責任者が伝票を区分けして渡す(即対応の緊急案件は、別途緊急対応フローなるものが存在する)。伝票を割り当てられたサービススタッフは、伝票の記載に従って作業に行き、修理作業を実施し、結果報告を報告書に記入して提出。併せて「作業完了報告伝票」を提出するといった極めてシンプルな業務フローだった。

 我々がこの会社に行った支援は、総じて言うと、業務改善を通じての従業員の満足度向上である。それも管理系だけではなく、現場部門での業務改善も含まれていた。

 現場ヒヤリングの際に露呈した事務方社員の不満は、「修理サービススタッフが伝票をきっちり提出してくれない」「記入漏れがある」「紛失もたまにある」「日々の業務の締めに支障をきたすし、ストレスも溜まる」等々…。一方、修理サービススタッフに聞くと、「確かにできていない時もあるが、それぐらいは勘弁してほしい」「俺たちは忙しいんだから、事務方がカバーしてくれるのが当然だ」といった具合。なぜ、事務方のストレスがたまっているかの認識がなく、両者には大きな溝があった。実際の仕事場では、事務方から毎日矢のような催促が届き、現場のほうが被害者意識を持っている始末。ペナルティなどの強制的な手段も導入して、ようやく改善が見られるというていたらくだ。逐一注意されないと伝票処理がまともに行えない、組織のタガが緩んだ“ぬるま湯のゆで蛙”状態だ。

 こうした基本動作が定着していないケースは、実は、中小企業の現場にはありがちだ。これは、明らかに三位一体のバランスが崩れている状態なのである。放置しておくと、確実に企業の力が減衰し、組織的に問題の虫に蝕まれていくことは疑いない。

 それでは、こうしたケースでは、管理スタッフを増員し、管理強化を図れば解決するのだろうか? そうではない。このケースはどこが問題かというと、修理サービスのスタッフが、会社の仕事の意味を理解できていないことにある。目の前の仕事さえこなせば、給与が会社から自動的に出てくるという発想でしか動いていないのが、最大の問題なのである。

 言うまでもないが、伝票が正確に迅速に処理されなければ、事務方の人件費も含めた経営コストが浪費されるわけだし、最大の問題は、お客様からキャッシュの回収に支障をきたす可能性があることである。こうしたことが理解されていないのは、管理系と現業が必要以上の役割分担をしすぎており、チーム全体のまとまりがなければ、お客様への迅速なサービス提供、アフターサービスの向上も実現できないという事実が肌身に染みていないからだと思われる。そもそも、現金を回収してはじめて商売が成り立つという経営のイロハが現場に浸透していないのは、彼らが“会社の業務サイクル”という発想さえ持っていないことを示している。

●会社は一つの生命体であることを理解させる

 これをPDCAの話で言うと、“自発的なC”が機能しているのではなく、“受け身のC”しか機能していない状態だと説明できるだろう。管理系だけを強化しても、このままでは“受け身のC”であることには変わらない。まして、この状態でIT化を図っても、“受け身のC”の自動化にしかつながらない。これでは、かえって受け身の姿勢を強化するだけかもしれない。

 管理は、野放図な現場を押さえつけるために実施するのではない。一つの生命体である企業が、全体としてのバランスを保ちながら、よりいきいきと活動していくための手段なのである。そのためには、管理と現場それぞれが、生命体を支える“器官”であることを理解させ、チームとして一致協力させる施策をとらねばならない。そして、管理というツールは、管理部門だけが担うのではなく、生命体全体が使いこなしていかねばならない。そうすれば自ずと、管理対現業のバランス・オブ・パワーといった問題も克服されるはずだ。業務のIT化は、その次のステージとして考えたほうが、投資効率も高くなるというものである。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第54回 “現業”対“管理”の対立を克服しよう」として、2003年7月22日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト