中堅・中小企業で情報共有が機能しない真の理由
“情報共有化”はほとんどの経営者の重大な関心事の一つとなっている。某経済紙の記事によると、大企業にIT活用の最大の目的は何かと問うたところ、現在では情報共有化がトップ来るとのこと。情報共有化は奥が深いテーマの割には効果測定が難しく、経営責任を担っているトップにとっては、永遠のテーマと言っても過言ではない。
ある中小企業の現場でこんな場面に出会った。この会社の社歴はかなり古く、社内の様々なやり方を変えることへの抵抗は根強いものがあった。先代の社長の娘婿の立場の専務は、こうした現状に強い危機感を感じていた。そこで、近い将来の経営のバトンタッチに備え、IT活用による経営革新を推進することにした。とりわけ情報共有化をIT投資の大きな目的として掲げ、グループウエアの導入を進めた。情報共有化の目的や意義、効果などを古参役員も含む経営幹部に徹底的に説明したうえで、全社員にも公開し、情報共有化の実現のために全社員を巻き込んだグループウエアの運用を開始した。専務は、現場の情報がグループウエアを通じて経営トップに、あたかもさらさらの血液が循環するごとく還流することを願って、期待して待っていた。
●派遣社員が社内情報の交通整理をする奇怪な光景が…
ところが、一向に情報共有化は進まない。ITインフラの運用に関しては、あるソフトウエア会社からサポート要員として常駐のスタッフが派遣されていたのだが、そのスタッフにいろいろと事情を聞いてみて、私は愕然した。派遣スタッフのA君によれば、「私がいなかったら、この会社の情報共有どころかコミュニケーション自体が成立しない状況です」と言うのである。
現場では、A君が情報を発信すべき人の基にいちいち出向き、「この情報は役員の誰それに伝えてください」「この情報は大切ですから、全員で閲覧する必要があります。グループウエアで発信して下さい」と、毎日のように孤軍奮闘中とのこと。A君一人で、会社全体の情報共有化を徹底するのに限界があるのは当然である。
大企業でグループウエアを導入した場合、割合と短期間にグループウエア本来の使い方が役員も含めてほとんどの社員に浸透するケースが多い。ところが、中堅以下の企業だと、どうして上のような事態が頻発してしまうのだろうか。それは、普段のコミニュケーションのやり方、内容が貧しかったからとしかいいようがない。
大企業の社員は、曲がりなりにも良いか悪いかは別として、大企業のヒエラルキーの中に巻き込まれて、自分なりに会社、部署の中で自分が握っている情報の位置づけを判断し、それを巧みに振り分ける自律的な基礎能力を身に付けている。だから、グループウエア導入を機に、むしろ個々の社員の自律的な能力が開花して、組織が活性化する場合が多いのだ。もちろん、セクショナリズムや中間管理職などの問題は深刻であるが…。ところが、こう言うと身も蓋もないが、中堅・中小企業の場合、大企業以上に組織が硬直し、新しいやり方への抵抗が強く、社員の自律的能力が死に絶えてしまっている場合が多い。だから、いくらツールを入れても、まったく機能しないわけである。
中堅・中小企業において情報共有化を図る場合は、ITツールがどうのこうのと言う前に、まずは普段の報告・連絡・相談が、社長を頂点とするトップダウン的な流れだけでなく、部署単位、同僚単位の並列的な関係の中で生き生きと行われているか、そうした行為を助長する雰囲気があるかどうかをチェックし、そこに改善の手を加えていかなければならない。そうしたアナログベースでのコミュニケーション技術を向上しない限り、本当の情報共有化の実現は有り得ないのだ。
(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第24回 中堅・中小企業で情報共有が機能しない真の理由」として、2002年5月14日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト