他責回路は可燃ゴミ【人間観察】
ソーシャルネットワーキングサービス。いつかのバルカン半島よろしく、極めて引火性の高いバーチャル火薬庫である。電子化した偽善や同調圧力の充満する世界では、思想に僅かな摩擦が生ずれば、忽ちにして燎原の火の如く言の葉が燃え広がり、その炎は鎮んでも消えることはない。投稿文は常に火種となる可能性を孕んでおり、この世界の住人は背負い切れるはずのない責任と隣り合わせで指を動かす。一度引火すれば最後、悪性のバイラル効果は自分以外の全てを槍に変えてしまう。故に、デジタル言語の使用者は最低限のリテラシー、乃ち、“人並みの想像力と自制心”を有するよう無条件に矯正されるものである。
しかし、この世界の成立条件と最悪の相性を持つ、ある“回路”の埋め込まれた者たちは、謂わば招かれざる暴徒、健常者を脅かす癌細胞、健やかな眠りを妨げる害悪な羽虫として、屡々誰にも看過することのできぬ大災害を齎す。
奴らの思考回路は実に単純である。あまりに単純であるが故に、矛盾の海に溺れ、助けをも拒む自家撞着のスパイラルへと迷い込むのであるが、それはつまり、他責__己以外の全てを仇なす究極的自己都合主義に起因する。通常、故意にしろ事故にしろ、言葉の摩擦を起こしてしまった者は、その収縮速度に程度の差こそあれ、ただ一点__最もそこから先は各人の背景や経緯に左右されるのだが__謝罪という形に落ち込む。しかし、信じられぬことに、奴らには謝罪という選択肢が初めから備わっていない。故に、罪悪感や良心の痛みは周り一切への敵愾心へと変容し、そして膨張し、火消しの風を鞴の送り風へと変化させる。
噂の炎は消えない。最適な火消しは光る板から手を離すことである。しかし、奴らには、それができない。蒔いた種は想像を遥かに超えた成長速度で育ち、新たな自暴自棄の種を植え付けるのだ。