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台語を壊す「火星文/華星文」はやめてくれ!

火星文/華星文とは?


ここ10-20年ほど、台湾の一部で使われてきた「火星文(hóe-chhiⁿ-bûn)」というもの、知っていますか?
簡単に言うと、当て字スラング、みたいなものです。中でも、台湾語を書くときに華語(つまり中国語)の読みで漢字を当てたもの、を指すときは、「華星文(Hôa-chhiⁿ-bûn)」と言ったりします。
(※ただ、この用語はまだそこまで浸透していない印象なので、この文章では「火星文」の方で揃えます)
日本語に置き換えれば、「宜しく」を「夜露死苦」と書く、という現象が近いかと思います。
 
これ、実はすっごく、悩みの種なんです。
どう問題なのか。大別すると、3つ。
1) まず意味が通らない漢字になっている。音訳なので。
2) 台湾語は華語よりずっと音素が多い。有声音(濁音/lô-im)・入声・鼻音などは華語には無い。台湾語は声調も7種あり転調もするのに対し、華語は声調は4つしか無いし転調もしない。ゆえに華語で台湾語を表しきることはもちろんできないし、これが広まることで、台湾語の大切な音を発音できない人が増えてしまう
3) ただの当て字なので、規範化されているわけではない。人によってマチマチである。体系だった書面語ではないため、実際にこれで文章を綴ることは不可能である。すでにある系統だったきちんとした台湾語表記法が普及するのに、妨げとなる

→結論からいって、火星文は、台湾語の発展を阻害するものである。
 
じゃあ、実際どんなものか、見てみましょう。
 



ね!まず意味が通らない。全然違う。音素も違う。入声は抜け落ちる。声化韻は表せない。きちんとした、真面目に学習した人間なら、漢字では99.9%こう綴る、という字が確定しているのに。いたずらに混乱させるわけです。

火星文が生まれた背景


じゃあ、なんでこんなものが生まれてしまったのか? その背景をご説明します。
他の動画でも話しましたが、台湾語というのは、日本時代の50年、中華民国国民党独裁政権下の40年、合計90年にわたって、書き文字としての発達を妨げられてきた歴史があります。1990年代になって初めて、学校教育の中で、台湾語を教えることが可能になり、徐々にメディア内でも使うことが可能になっていったのですが、それまではあくまで家庭内で、口頭で話すもの、という地位に貶められていたわけです。
それが、やっとこの35年位で、書き文字としての地位を向上させ、表記法をきちんと広めようという運動が広がり、ようやく雑誌や文学、論文などが台湾語で綴られるようになってきたところなんです。

つまり、台湾語を書き文字として習ってこなかった、という世代が未だにかなり多いんですね。こうした中で、「正式な表記法を学ぶほどじゃない、でも台湾語で書いてみたい」という層が増えたのが、火星文が生まれてきた一番の要因だと思われます。
もう一つの要因。それには、華語と台語で同じ漢字になってしまう場合に、あえて火星文を使うことで、「これは台湾語だよ」と分からせる、マーキング的な役割があります。たとえば、選挙の際によく使われる「当選」。華語(dāng xuǎn)でも台語(tòng-soán)でも同じ「當選」と書くのが正式です。でもこれでは、ぱっと見ではどちらなのかわからない。だから「凍蒜」と当てる。これはまあ、ある種意義のある使い方だと思います。

でもね、先程申し上げたように、火星文は、正しい台湾語の表記法をどんどん壊し、台湾語の音韻を正しく継承するのにとって、ものすごくデメリットが大きいんです。だから、安易に使ってほしくない。がんばって台湾語の保護継承運動をしている人は、皆そう思っています。
だから、日本の方にも、このことをちゃんとわかってほしいし、いたずらに火星文を二次生産してほしくない、と私は強く思っています。
 

火星文を使わずに、台湾語らしさを出すことって簡単にできるよ!



もし、「ぱっと見で華語じゃないってわからせたい」なら、ローマ字を使えばいいんです。表記法の動画でもお伝えしましたが、台湾語の表記法は、現在、漢字ローマ字交ぜ書きが主流です。「Beh去大學愛án-chóaⁿ 行 ?」、「你這馬帶佇tó-ūi?」こうした文章でしたら、ぱっと見ですぐ「あ、華語じゃない、台湾語だ」ってわかるんです。それでいいじゃないですか。台湾の方がもっとローマ字に慣れ親しめば、一気にこの問題は解決します。

また、台湾語の一部の漢字は、明らかに華語ではほぼ使われないものです。たとえば、按怎 (án-chóaⁿ),个 (ê),啥物 (siáⁿ-mih),攏 (lóng),𨑨迌 (chhit-thô)。これらの漢字は、ぱっと見ですぐ「あ、台語だ」と台湾関係者にはわかる文字です。
むりやり火星文を使わずに、正しい台湾語表記を使っても、充分「台湾語らしさ」は伝わるものなので、ぜひきちんとした表記法を学んで使っていただきたいと思います。
 

台湾語は書き文字としても発展してきているよ


台湾語は、すでに、書き文字としても、立派に発展してきています。「台湾語って、しょせん文字がないから、書けないから~」(そもそもこれが間違いで、台湾人は90年間、そう思い込まされてきたわけですが)という時代ではないのです。
確かに、台湾語には、漢字由来ではない語彙が20-30%もあります。
が! 逆に言えば、70-80%は漢字で表すことにあまり無理のない語彙といえるわけです。そしてそれを表す漢字は、ある程度標準化しており、書き手ごとにめちゃくちゃに違っていたりはしません。
正しい台湾語の表記は、こんな感じです。


こんなふうに、漢字とローマ字を混ぜて書くんですね。これは、もう数十年続いている雑誌『台文通訊BONG報』の一部です。漢字はもちろん、ローマ字表記だって、すでにきちんとしたものが確立されています。
(詳しいことは、「台湾語の表記法」という動画を作ってあるので、そちらも御覧ください:)


真剣に、マジメに、人生をかけて、台湾語を復興・発展・継承しようと心を砕いている方々が、台湾にはたくさんいらっしゃいます。國立臺灣師範大學には臺灣語文學系という学科がありますし、台南の成功大學には台文研究所という専門機関があります。そこでは、多くの人が台湾語の復興継承のため日夜研究を重ねており、論文も全て台湾語で(華語じゃないですよ!)書かれている、そうしたしっかりした学問機構まであるわけです。
 
そうした方々の足を引っ張るような火星文、絶対広めてほしくありません。

まとめ



台湾語を華語の漢字で当てる火星文、それは、台湾語の音を正しく継承する妨げにもなるし、台湾語の正しい表記法の普及の妨げにもなります

正しい漢字・正しいローマ字表記を知りたい方は、教育部の辞書(https://sutian.moe.edu.tw/zh-hant/)や、Chhoe Taigi(https://chhoe.taigi.info/)という日本語からも引ける素敵なWEB辞書もあるので、そちらをぜひ御覧ください。
 
なお、All台湾語にはなりますが、この件について論じられているムービーがYouTubeにありますので、そちらも参考になさって下さい。https://youtu.be/pj_jEXxgokc

また、台湾の有識者がこの問題についてきちんと解説し、憂いている記事もあるので、こちらもリンクを貼っておきますね。:https://today.line.me/tw/v2/article/ErJvD2

それでは、今日の記事はここまでです。
Kám-siā ta̍k-ke (感謝逐家),chài-hōe(再會)!
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Uninang, miqumisang ! Na moqnang basaduu, Baibai~!



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