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小説 ハグ屋の慶次 2章②追跡者

慶次は駅へ走った。

ゆっくり歩いても10分かからない距離だが、商店街の細い道で、しかも駅までは角を何度も曲がる必要がある。

駅前の幅の広い道に出ると駅の改札の前で不安げに立っている菜美が見えた。今まで誰ともすれ違いはなかったが、駅前の広い道路は車も人も行き交っていた。

菜美が慶次を見つけて、手を振っている。

「お待たせ!」と声を掛けた。
菜美が涙声で
「マスター。すいません。ホントにごめんなさい」と言う。
「うん。いいよ、いいよ。とりあえず家まで送ろうか」
「ホントにすいません。もし家までついてきたらと思ったら、怖くなってしまって。。。」
「まだ、誰かに見られてる感じがある?」
「多分、大丈夫だとは思うんですけど。途中、誰かがついてきてる気がして」
「わかった。こうしよう。一度、店に戻って、戸締りを済ませてからタクシーで家にいこう。
家に戻ったら車で送っていくから」

こうして、2人はカフェノワールまで戻ってきた。
「マスター、本当に申し訳ありません。私が神経質すぎるのかもしれないんですけど」
「うん。大丈夫。どの辺りからつけられているような気がしたの?」
「お店を出てすぐに、駅の方向からきたひととすれ違ったんです。そしたらその人が方向を変えて戻ってきたみたいで」
「え、すれ違ったあとに急に引き返してきたんだね?」
「ええ。なんだか気持ち悪くて、角を曲がるたびにチラッとみて確認したんですけど。駅の方に向かって、つけられているみたいな気がして」
「まあ、何か忘れてものでもしたから駅に引き返す、というのも可能性がないとは言えないけど。やっぱり不自然だよね」
「私もそう思って、駅まで速く歩いたんですけど、相手も足を早めてきていましたし」
「駅までの間、追跡してきていた疑いはあるな。それじゃ、店を片付けてから、タクシーを呼ぶから待ってて」
慶次は、書類を片付けパソコンを鞄に仕舞い、電話でタクシーを呼んだ。

タクシーの中では追跡者の話は避けた。菜美の不安を掻き立てると思ったからだ。
「明日のシフトは予定通りでいいですか?」
「夕方のシフトだよね?明日は誰かに代わってもらっても構わないよ」
「いえ、明日もちゃんと来ます」菜美は強張っていたが、自分に言い聞かせるように答えた。

自宅に着いた慶次たちは、起きて待っていた母に声を掛けてから車で出発した。ナビに菜美から聞いた住所を入力した。
「住所は大丈夫だから、着くまで寝てていいよ」
菜美は起きていようと努力していたようだが、安心したせいか寝てしまった。

慶次は、追跡者が誰なのかを考えていた。
店の客の可能性はある。あとは、菜美の学校関係者。菜美のクラスメイトや友人。ゆきずりの人間。。。
菜美は、その誰かがすれ違ってから引き返して追ってきた、と言っていた。なぜ追跡してきたのかも謎だ。

それにしても、菜美にとっては不気味で不安だっただろう。

アパートの前で車を止めて、声を掛けると、菜美はすぐに目を覚ました。
「店長、ご迷惑をおかけしてすいませんでした。気をつけて帰ってください」
「念のため、部屋に入って異常がなかったら、電話して貰えるかな」
「あ、そうですね。大丈夫だと思いますけど、そうさせてもらいます」
菜美はアパートに入って、部屋から電話をかけてきた。
「もしもし。店長ありがとうございました。部屋に異常はありません。送っていただいたので、安心して眠れます。おやすみなさい」
「うん、それじゃ戻るね。おやすみ。また明日」
「あの。。。」
「ん?どうしたの?」
「あ、明日で大丈夫です。本当にありがとうございました。おやすみなさい」

つづく


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大村義人(ペンネーム )/じーちゃん
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