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馬と鹿の親子との出会い おとなのための童話②
リリィは人を乗せて野山を移動するのが仕事でした。
山間部のとある乗馬クラブがリリィの家。
そうです。リリィは乗用馬。
今日も、仲間の2頭の馬たちと一緒に、小川沿いの道を行くトレッキングの仕事に出かけました。
リリィにはグループを先導するガイドさんが乗っています。
山の麓の森に入ってしばらく進むと、小さな小さな川があります。
その川を渡るためには、小さな橋をわたらなければなりません。
他の馬たちはこの橋を渡るのが苦手。
橋の手前で止まり、イヤイヤをする子がほとんどです。
理由は橋の板を踏むと、バンバンと大きな音がするからでした。
でもリリィだけは違います。
彼女は、橋の板をそっと踏んで、大きな音を立てずに橋をわたることができるからです。
この場所でのリリィの責任は重大。
なぜなら、リリィがこの橋を渡れば、他の馬たちが付いてくるからです。
リリィは橋いつものように橋をを渡ろうとしました。そのとき、動物の匂いに気がつきました。
「んー、これは鹿の匂いだ」
リリィが顔を上げて眼をこらすと、道の10メートル先ぐらいのところに鹿の親子がいて、じっとこちらを見ています。
母親鹿が2頭の子鹿を連れて、移動していたようです。多分、急に現れた馬と人間の匂いに驚いて立ち止まったようです。
子鹿は今年生まれたばかりの幼い鹿のようです。
リリィは母鹿に話しかけました。
「私たちは、あなたたちに危害を加えないから、早く引き返して林の奥にお逃げなさい。あなた達が道を塞いでいたら、私たちは進めなくて困るのよ」
鹿に馬の言葉は通じないようです。鹿たちは、固まったまま動けないでいました。
リリィは鹿を怖がってはいなかったのですが、隊列の後ろにいる馬たちは、鹿が急に動き出したら驚いてどんな反応をするかわかりません。
だからリリィは止まったままで様子をみることにしました。
お互いが見合ったまま、しばらく動けないでいたので、ガイドさんはリリィが鹿を怖がって動けないのだろうと考えました。
リリィから降りて、手綱を引き、少しずつ橋をわたるようにリリィを促しました。
リリィは進みながら「さあ、動かないでいると、人間があなたたちに近づくわ。早く逃げて!」といななきました。
鹿たちは、ようやく方向を変えて、林の中へ入ると一目散に逃げて行きました。
ガイドさんは、リリィに乗るとゆっくりと道をすすみ始めました。
他の馬たちもリリィに従って進み始めました。
鹿たちの匂いは薄く残っていましたが、遠くへ逃げてくれたようです。
ガイドさんがリリィの首を撫でてくれました。
「リリィ、怖がらなくて偉かったね」
そんな風に褒めてもらえたようで、リリィは嬉しくなり、少しだけ足を早めました。
おしまい
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![大村義人(ペンネーム )/じーちゃん](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/147333579/profile_0653b57674f02b0621f1be80c7d07b97.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)