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小説 ハグ屋の慶次 2章の④と⑤ストーカーの性格分析

2025.2.20

前回の話は👇から

第二章 その④

慶次は彼女に話しかけてみた。
「差し支えなければ、お名前を伺ってもいいですか?」
「あ、はい。古畑結美ふるはた ゆみと言います。結美は、髪を結うの結うという字に美しいで、ゆみと読みます」
「綺麗な名前ですね。あ、自分の方から名のらなくて失礼しました。私は店長の真壁と申します」と、名刺を差し出した。
「ありがとうございます。頂戴します」
「ところで、うちのスタッフのことは、どうしてご存知だったんですか?」
「はい、入学してすぐの頃に、キャンパスで先輩を見かけたんです」
「そうなんだ。良かったら、彼女が帰って車までの間に詳しく話してもらえませんか?実は、彼女があなたのことを、ストーカーと勘違いしちゃって、怖がっていたんです。誤解を解いてあげたいから、事情を知りたくて」
「はい。そうですね。先輩を怖がらせるつもりはなかったんですけど、私の行動が変だったから。。。ぜひ説明させてください」
そう言ってから、結美は話し始めた。


結美は、学園祭の時に菜美を初めて見かけた。そして先輩としてほのかな憧れを抱くようになった。その後、菜美を学内で時々見かけることがあったが、自分から話しかける勇気はなく、学内で姿見ることだけを楽しみにしていた。



しかし、見ているだけでは気持ちが抑えきれなくなってしまい、学内で菜美について調べたり追跡するようになっていった。

菜美が受ける講義に潜り込んで、密かに最後部の席から菜美を見た。講義が終わると、学内のカフェテリアまで跡をつけて、菜美の視界にはいらない席で、菜美が同級生とおしゃべりしている様子を見ていた。

結美はこんな自分の行動が、菜美に執着していて、おかしい事だと自覚していた。だが、菜美のことをもっと知りたいという欲望に逆らえなくなっていた。

結美のストーキング行為の範囲は、ついに学外にも及ぶようになる。そして菜美を追跡しているうちに、カフェノワールで働いていることを知った。

結美はそこに行けば、菜美との距離が縮められそうな気がして、店に入ってみたかった。だかさすがに菜美が働いている時間帯に店に入ることはしなかった。

昨夜、たまたまカフェの前を通ったところで、結美は菜美を見かけた。そして、自分でも理由がわからないまま、引き返して菜美を追って駅までついて行ってしまったのだった。その不自然な行動が菜美に違和感と不安を抱かせたのだ。

結美は菜美が駅に着いた時に、そのまま電車に乗るのだと判断して、引き返すつもりだった。だが、駅の改札で誰かを待っている様子だったので、駅の自転車置き場の陰から菜美を見ていた。
そして結美は、ひとりの男性が菜美を迎えにきたのを目撃してしまった。二人は恋人どうしには見えなかったが、親密な関係に思えた。
結美は急に疎外感を感じて、そっとその場を立ち去った。



結美の話を一通り聞いてから
「そうだったんだ。事情がわかり、安心しました。菜美さんには、僕が買い物を頼んで、わざと席を外してもらっていたので、これから呼び戻しますね」
「お願いします。私、ちゃんと先輩に謝らなくちゃいけないと思って」
「そうですね。それじゃ戻るまで、コーヒーを飲んで待っててもらってもいいですか?」


慶次は結美に話しかけず、カウンター内で作業をしながら、彼女をさりげなく観察した。結美は、化粧っ気がなく、見かけはボーイッシュで気が強そうに見える。だが、慶次の印象では、意外に繊細な少女なのだと思えた。追跡者が菜美に害を及ぼすような存在ではなさそうだと判断した慶次は、菜美にメッセージを送った。

慶次《菜美ちゃんのストーカーさん(笑)の正体は、君と同じ学校の学生さんだったよ》
菜美《え、そうなんですか?》
慶次《心配なさそうだから、戻ってきて》
菜美《はい、バターと砂糖は買いましたから、今から戻ります》



菜美がもどるまでの間に、慶次は昨夜のことを結美に話してやった。
「で、ね。菜美ちゃんすっかり怯えてしまったから、僕が店長の責任で菜美ちゃんを家まで送ることになっちゃったんだよ」
「え、そんな事になっていたなんて。。。お二人にご迷惑をお掛けしてしまって、本当にごめんなさい」
「まあ、僕の方は大丈夫だけど、菜美ちゃんには、きちんと謝ったほうがいいと思うな。あ、帰ってきたみたいだ」

菜美が戻ってドアが開いた。

振り返った結美は、立ち上がり、菜美に向かって深く頭を下げた。
「昨日は、すいませんでした」
「ああ、やっぱり、あなただったのね?」菜美は硬い表情で言った。

「まあ、菜美ちゃんも掛けてよ。買い出しご苦労さま。それ、こっちに貰うから」
菜美が買い出し用の袋を、慶次に渡してからカウンターの席に座る。

結美は立ち上がると「誤解させてしまって、本当に、本当にすいませんでした」と深く頭を下げた。
菜美は、結美の様子を見て、どうやら危険な人物ではなさそうだと少し安心した様だった。
「結美さん、座って話さないか」と慶次が座るように勧めた。

菜美は「ごめんなさい、私はあなたのこと知らなかったんだけど、あなたはどうして私の事を知ってたの?」と、結美が座ってから聞いてみた。
「あの。。。4月にあった学園祭の時に、先輩の事を知りました」
「学園祭?ああ、新入生の勧誘を兼ねたイベントね」
「はい、あの時の先輩のサークルのブースで」
「ああ、あれね」

学園祭の時、菜美たちの心理研究会は、新入生勧誘のための出し物の「行列のできる性格診断所」を開いていた。心理学を応用して、性格占いをするブースだったが、かなりの人気で、常に2、3人が待っていたので、「行列のできる」の看板には偽りはなかった。

「あの時、あなたも、来てくれたの?」
「いいえ、私は友達に付き合って行っただけで、外から見ていただけでした。でも、先輩が相談に来た新入生たちに、とても丁寧に対応していたのが印象に残ってました」

結美はその様子を眺めていただけで、「性格診断」を受けなかったので、菜美の印象に残らなかったようだ。

「古畑さん、良かったらあなたの性格診断をしてみたいな。今日は忙しいの?」
「いえ。今日は何も予定はありません」
「それなら、いま、性格診断をしてみない?私を怯えさせたこと、申し訳ないと思うなら、そうさせて」と菜美がたたみ込むように言った。
「はい、それならお願いします。でも、お店の邪魔になりませんか?」
「今日は暇そうだし、マスター、いいですよね?」
「ああ、構わないよ。僕も結美さんの事がちょっと気になるから、一緒に聞いてても構わないかな?」
「はい」
「それじゃ、決まりね。先ずはあなたの家族や、子供の頃のことを話してみて」と、菜美からのインタビューが始まった。 



結美の両親は健在で、二人の兄がいて、兄妹の末っ子だった。両親は二人で飲食店を経営していたので、不在なことが多く、兄妹3人で留守番させたり遊ばせていた。

男の兄弟の影響で、結美は小さい頃から男の子に混じって育った。その影響か、服装も女の子らしい物を好まず、動きやすいジーンズを履いて野山を兄や兄の友達にくっついて走り回っていた。

中学、高校は女子校で制服があったので、仕方なくスカートで通っていたが、家に帰ると直ぐにジーンズに着替えた。時には、ジーンズとパーカーを持って学校に行き、帰りに駅のショッピングセンターのトイレに行って、制服と着替えて遊ぶこともあった。

結美は同級生の女子たちからは浮いていた。
結美は、男子のグループと連んでいるほうが気が楽だったのだ。別に自分の性別に違和感を持っている訳ではなかったが、同性の仲間と居ると、過剰に気を遣ってしまい、緊張してしまうことが多かった。

結美は、それが、兄達やその友達たちと育ったことに原因があるのではないかと自己分析していた。そして、もし自分に姉が居たら、本来の自分になれるような気がしていたのだ。

菜美を初めて見た結美は、「こんな人が自分のお姉さんだったらいいのに」と、菜美に興味を持った。最初のうちは、菜美の姿を見れるだけで幸せを感じていたのだが、もっといろいろ知りたいと思うようになった。

そして、菜美が受講していた心理学の講義に潜り込んだり、学校から跡をつけてバイト先を調べたりした。

菜美は、結美の話を聞いて、混乱したが、結美の生い立ちを聴きながら、結美の性格や心理を分析してみた。

人間は社会的な生き物だと表現されることがある。そして幼少期の人格形成期には、周囲の大人や友達の影響を大いに受ける。
身近に兄妹がいれば、兄妹の性別やその中の序列の影響は大きい。結美の両親は自営業だったので、家に不在のことが多かった。このため、
結美は、両親からの影響よりも、兄たちから受けた影響が大きかったようだ。

「あなたは、お兄さんたちから受けた影響が大きいような気がするわ。あなたから見たお兄さんたちは、どんな人なのかしら?」
「ええと、上の兄、正弘といいます。兄は、責任感が強くて、正義感も強くて、何事にも慎重なタイプです」
「長男、長女さんの典型的な性格タイプね。では、次男さんは、どのような人?」
「下の兄、直人は、ひょうきんで、面白い人ですね。いつも面白いことを言って、人を笑わせるタイプです」
「人の繋がりの中心にいるっていうタイプかな?」
「そうですね。クラスの中でも人気者みたいです。友達も多くて、その兄を中心にした仲良しグループがあって、そのグループのリーダーに長男が担ぎ上げられてるみたいな感じですね」
「じゃ、あなたは、そのグループのマスコット的な存在じゃなかった?」
「ええ、そうでした。グループの中で、私一人だけ女だったけど、兄たちに守られていたし、皆んながお兄ちゃんみたいな感じで接してくれてたと思います」
「やっぱり、そうだったのね」

菜美は、十字架を思い描いた。
縦の線は古畑兄妹だ。
トップには長男の正弘、クロスする部分に居るのが、次男の直人。
その下が、結美となる。

直人が人間関係の中心になって、直人の同級生のグループがいる。それが十字架の横の線になる。

結美がもし男だったら、この関係は安定して続いたことだろう。だが、直人の同級生たちが結美を女の子として意識しはじめると、微妙な関係が生まれる。

「お兄ちゃんたちとつるんで遊んでたのって、中学生くらいまでだったのでは?」
「え、菜美さん、どうしてわかるんですか?」
「うふふ、わたしの分析によれば、そうなるのよ」
「その通りでした。中学に入ると、兄たちと学校も違ったし、勉強も忙しくて。。。自然に」
「そして、長男さんとは年が離れてるから、距離が出てくるしね」
「次男の直人さんとは、お家では仲が良いのよでは?」
「そうですね。正にぃは、父親っぽい感じなので、近寄りにくくなってきて、その分、直にぃに相談したり、話したりすることが増えました」

あとは、両親と結美の関係がポイントになると、菜美は考えて居た。


お待たせしていました。
ようやく、物語が進行しはじめました。
二つに分割して短くするつもりでしたが、このまま④、⑤としてまとめて公開します。

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大村義人(ペンネーム )/じーちゃん
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