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エミー賞受賞ドラマ【Shōgun】を見たら日本語のセリフが7割で震えた件
ディズニープラスで作品を見てみた
エミー賞の各部門賞を総なめにしたネット配信ドラマSHOGUNをDisney+で見始めたら一気見してしまい、1日で見終わった。
(あくまでも個人の感想のメモですが、一応公開しておきます)
第76回エミー賞が2024年9月16日に発表され、
ニュースになったので、この作品を知らない人は少ないだろう。
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念のため、作品の概要を紹介
この映像作品は、イギリス出身で後にアメリカ合衆国に帰化したジェームズ・クラベルの小説「Shōgun」(1975年発行 )に基づいている。
実はこの小説は1980年にアメリカのNBCにより一度ドラマ化されていたのである。
最初の映像化では、
リチャード・チェンバレン、三船敏郎、島田陽子、ジョン・リス=デイヴィスが出演した。
このドラマは、1980年に編集された映画版が日本でも上映されていたようだ。そして1981年にこのテレビシリーズもエミー賞、ゴールデングローブ賞を受賞した。
記憶は定かではないのだが、自分はこの1980年制作の作品を上映館か予告編かなにかで見ている気がする。
2024年配信のShōgun
今回受賞したリメイクの作品は、アメリカFX制作のドラマとして、2021年から撮影が始まった。なんと40年ぶりのリメイクである。
ストーリーの概要を日本で配信しているディズニープラスのサイトから引用しておこう。
徳川家康ら、歴史上の人物にインスパイアされた「関ヶ原の戦い」前夜、窮地に立たされた戦国一の武将<虎永>と、その家臣となった英国人航海士<按針>、二人の運命の鍵を握る謎多きキリシタン<鞠子>。歴史の裏側の、壮大な“謀り事”。そして、待ち受ける大どんでん返し。SHOGUNの座を懸けた、陰謀と策略が渦巻く戦国スペクタクル・ドラマシリーズ。
時代劇のドラマなので馬に武士が乗ったシーンが随時に出てくるので楽しみにしていたが、騎馬武者の合戦シーンは多くない。従って今回フォーカスしたいのはそこではない。
重厚な質感のテレビドラマ
この作品を何と表現すれば良いのか迷うのだが、全体の質感が日本の時代劇のドラマや映画作品と比べてとても重厚で高品質なのだ。( 表現が月並)
地味だが高級な燻銀の工芸品の様な質感?
配信用に制作されたドラマなのに、映画の迫力と重厚感を持っている。
セリフの70%が日本語のドラマ
この重厚さの理由として劇中のセリフの70%が日本語である効果は大きいと感じた。
サムライを登場させ、「将軍」(征夷大将軍)の成立を題材にするドラマでリアリティを追求しようとするなら、日本語での会話が必要なのだ。
無理に英語を話すキャストを増やす演出をするとバランスが崩れてしまう。主役の虎永を演じ、制作にも関わった真田広之氏は、芝居の緊張感や空気感を自然に醸しだすめには、日本人のキャストが日本語で台詞を話すことは必須だと考えたのである。
だが、そんな作りをすれば、英語ネイティブの視聴者に受入られないリスクは高い。
このリスキーな決断を受け入れ、日本語の比重の高い台本を承認したプロデューサー等制作陣に拍手を送りたい。
この作品と対比されるべき映画として浮かんだのはトム・クルーズ主演、制作のラストサムライ(原題 The Last Samurai )だと思う。
この映画は上映館で見たことがある。映画の迫力があり、ガイジンが制作したサムライ映画としては重厚で優れている作品だと思った。
だが、東洋人の顔をした出演者たちが劇中英語で話す状況は、よほど台本を工夫しないと設定に無理がある。
英語を話すサムライは、英語ネイティブの外国人にとってはすんなりと理解できる魅力は大きい。だが英語が飛び交う時代劇では、その劇の時代の空気感が薄まり、迫力を感じにくい作り物っぽい映像にながれやすい。
外国人もホンモノを求める時代
外国人が沢山日本を訪れるような時代になって、リアルな日本を体験する人が増えた影響か、日本人が登場するドラマや映画を観る視聴者も変わってきたのかもしれない。
海外公演もこなす、落語家の知人から聞いた話がある。
海外で落語の公演をする際に、外国人の客の中には外国人向けに翻訳された落語よりも、原語である日本語で演じられたものを聞くことを好む通がいるそうだ。
Netflixの配信作品を見ても、韓国語やタイ語などアジア圏発の現地語の作品は多くなってきている。作品のリアリティを追求するために、キャストに無理に英語で喋らせるのではなく、字幕で対応している作品が増えたのだ。その流れの中で視聴者も字幕に慣れてきているのだろう。
字幕の工夫
そしてSHOGUNでは字幕の付け方も工夫されているようだ。
字幕の英語版CCを確認してみると、字幕の語数が極めて少ないのだ。
字幕を解説的な語数の多い英訳表現を避け、超訳に近いような短い表現にすることで、視聴者が字幕を読みながら画面の芝居に集中できるようなキャプションにまとまっている。
このような字幕のおかげで、英語ネイティブなアメリカの視聴者もストレスなく映像と音に没入し、ストーリーを追いかけることができるのだと思う。
アメリカの配信ドラマの予算✖️日本人ドラマ制作陣
アメリカ🇺🇸の配信ドラマは、どんな作品も金がかかっている。リアリティ度では負けるのが日本のドラマだ。オープンセットにしても、特殊効果にしても、アメリカのドラマ作りの世界ではリアリティの追求の度合いが違う。
作品名は控えるが、この数年で、Netflixから出資を受けた日本映画やドラマが話題になることが増えた。
最近ではNHKが制作した大河ドラマの「どーする家康」は、かなりFXに力を入れた作品ときいた記憶があるが、制作費の違いか本作「SHOGUN」と比べると、大変失礼だがお恥ずかしいくらい薄っぺらくて比較にならない。
( 従来のイメージを崩してへタレな家康像に挑んだ手法は評価するとしてもだ)
主演の真田広之氏が制作にも関わり、細部に拘る作品にするためにかなりの数の日本人制作陣を集め、アメリカっぽい骨太な予算を注ぎ込めばこんなに凄い作品ができるのだ、という見本だ。
🎥
日本発信のアニメやマンガが世界中で人気であるのは知られていることだが、今回のSHOGUNの成功を機に、日本人の映画制作人がアメリカでもっと活躍してくれたら嬉しいと思う。
次のシーズン制作の予定も発表されたようなのでエミー賞を受賞して話題になった作品だからと言う動機で観るのもいいが、是非この作品を観て応援していただければと思うのだ。
🎞️
機会があれば、テーマや原作と映像化の関係にも触れたいと思う。
追加
本作品に対する批判について思ったこと
note の他の方の記事で、この作品に関する批判的な感想を散見した。
あながち間違いではないのだが、この作品が1975年発行の英国人ライターが書いた小説「Shōgun」 に基づいている作品であることを忘れないで欲しいと思うのだ。
私も漂着した船員を生きながら釜茹での刑に処したシーンを残した演出は、日本人として変だと思った。変なシーンや台本を批判し始めたらキリがないと思う。
しかしbased on the novel "SHOGUN" と作者の妄想で描いたフィクションである原作に基づく映画であるかぎり原作のもつ不正確さや、曖昧さはどうしても作品に反映されてしまうのだ。
勿論、脚本を書く段階で、不自然な描写の部分をストーリーから外したりすれば、もう少し日本人からみてもマシな作品にできたかもしれないという残念な思いはある。
約半世紀前に日本史研究家でもないライターによって書かれたただのフィクションに今更ケチの付けようがないのだ。異世界もののマンガやアニメ、実写映像に正面きって文句を言うのも大人気ないのと思うのと同じであろう。
(2024.10.1 に加筆 )
以下、エミー賞の受賞部門
プライムタイムエミー賞では
ドラマシリーズ部門 作品賞
ドラマシリーズ部門 主演男優賞(真田広之)
ドラマシリーズ部門 主演女優賞(アンナ・サワイ)
ドラマシリーズ部門 監督賞(フレッド・トーイ)
クリエイティブ・アーツ・エミー賞では
キャスティング賞
撮影賞
映像編集賞
ゲスト男優賞(ネスター・カーボネル)
メインタイトルデザイン賞
ヘアスタイリング賞
メイクアップ賞 時代劇&ファンタジー
時代劇衣装賞
プロダクション・デザイン賞
補綴メイクアップ賞
サウンドミキシング賞
サウンドエディティング賞
視覚効果賞
スタント・パフォーマンス
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