京都のとあるバーで眠り猫に出会った話
そのバーは、先斗町の路地が龍馬通りに抜ける角にある。
洒落た階段を上がった2階にあるバーだが、今夜のバーホッピングの二軒めの店だから、まだ足はしっかりしている。
ドアを開け、店を見渡すと立派な一枚板のハイカウンターが迎えてくれる。
そして壁のオブジェのように嵌め込まれたボトルと箱が洒落ている。
いい酒が飲めそうな予感がする。
カウンターには、バーテンダーと客を分ける結界のように、ぎっしりとウイスキーのボトルとボックスが並べてあり、呑んでくれと訴えてくる。
立ち飲みができそうな位高いそのハイカウンターに合わせた高いスツールは、酔っ払い避けの呪いだろうか。
時間が早いせいか、自分が口開けの客のようだ。
さて、何を頼もうか?
話しかけやすそうなオーナーバーテンダーに、声を掛けてみた。
「前の店で、マティーニ🍸をひっかけてバーホッピングの二軒目だから、ウイスキーで行こうかな」
あれこれ話しながら、彼の知り合いの北海道のバーが20周年記念で製造元に発注し、オリジナルラベルを貼ってもらってたというシングルモルトウイスキーに決めた。
居眠りしているトラ猫の上の方をネズミが駆けているラベルだ。
こいつ、なかなか洒落てるじゃないか。
味と香りを楽しみたいので、とりあえずストレートで貰い、加水の水も用意してもらった。
彼の説明の通り、「フルーティな香り」が鼻腔をラベルのイラストのネズミのように駆け抜けていく。
味わいは、22年寝かせたせいか
「まろやか」だ。
ん?
いや違う。
彼女は始めは甘い香りとともに甘く囁きかけてくるのだが、油断してはいけない。
舌に残るビターな後味はしっかりと成熟し艶っぽい大人の悪女の味わいだ。
彼女を加水して毒けを薄め、再び口に含んでみよう。
うん。
魅力が増して、なかなか素敵な淑女になったじゃないか。
バーテンダーにも一杯奢り、自分は酒を変えてソーダ割にして、年寄りの乗馬談義に付き合ってもらううちに若い客が入ってきた。
彼にも一杯奢り、暫く話しをした。
だいぶ席を温めたからそろそろ潮時だろう。
さあ、階段を降りれるうちに、次へ行こうか。
バーに新しく客が入ってきたときに、すぐに会計に入るのは野暮と言うもの。
その客が落ち着くまで待って、頃合いをみて支払いをオーダーしよう。
ショップデータ
支払いはキャッシュオンリーなのでご注意を