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2023年を振り返って

少し早いですが、今年を振り返って。

論文「『歎異抄』を浄土信仰の流れに位置づける」

 春に論文「『歎異抄』を浄土信仰の流れに位置づけるー蓮如本錯簡説を踏まえた読み直しー」が明治学院大学教養教育センター紀要『カルチュール』17-1に掲載されました。

  『歎異抄』は極めて有名で、日本で最も読まれている仏教書のひとつですが、私にとってはわからないところの多々ある本でした。
 有名な「悪人」も、どういう人かという具体的な説明がなく、読む人がそれぞれのイメージを投影している状態です。
 『歎異抄』という題名は、親鸞から教えを受けた唯円が、親鸞の没後、自分と同様、親鸞から教えを受けた人たちが、親鸞が言わなかったようなことを説いていて、自分が生きている間は訂正できるが、自分が死んだら、何が本当の親鸞の教えかわからなくなってしまうだろうと、泣く泣く「異」を「歎」いて記したことに由来します。
 そのように、教えが正しく理解されていないことを嘆いた唯円が、読む人読む人が自分の考えで自由に解釈できる、「異」を生み出すような書き方をするかな、という疑問がありました。
 現行の『歎異抄』は、室町時代の蓮如の書写本を祖本としていて、親鸞語録→異義条々(親鸞が説かなかった内容の批判)からなっていますが、それは『歎異抄』の原形とは大きく異なるという説(佐藤正英『歎異抄論釈』青土社)があります。
 以前、慈母会館というところで勉強会をやっていた時、『空海に学ぶ仏教入門』(ちくま新書)になった空海『秘蔵宝鑰』の勉強会のあと、『歎異抄』を取り上げました。
 かなり気合を入れて、浄土七祖(親鸞が挙げるインド・中国・日本の七高僧。龍樹・天親・曇鸞・道綽・善導・源信・法然)の教えを紹介したうえで、『歎異抄』に取り組んだのですが、力不足で、詰め切れないところが残ってしまいました。
 これではいけないと、昨夏、集中して『歎異抄』に取り組み、論文を書き上げました。
 佐藤説では、『歎異抄』の原形は、異義条々→親鸞語録の順だったというのですが、そう読むことで、「悪人」が誰のことを言っているか明確になりますし、それだけでなく、親鸞が関東の門人たちに説いていたことが、善導~源信~法然という浄土信仰の流れに基づくものだったことがはっきりします。
 どう評価するかは読まれる方の判断されることですが、私としては、「これしかない」という所まで詰めることができました。
 無事、形になり、ほっとしています。(佐藤正英先生は11月9日にご逝去されました。ご冥福をお祈りします)

日本倫理学会・日本思想史学会大会のシンポジウムでの発表

 10月に日本倫理学会大会、11月に日本思想史学会のシンポジウムで発表しました。別々にお話をいただいた時、日程的に近く、二か月続けては厳しいとは思ったのですが、年齢的に学会でお話しさせていただくのはこれが最後の機会かもと思い、引き受けさせていただきました。

 日本倫理学会第74回大会は、神奈川大学みなとみらいキャンパスで開かれ、共通課題(=シンポジウム)「ケア」で、「仏教とケア」という題で発表させていただきました(10月1日)。

 日本思想史学会2023年度大会は、東北大学川内キャンパスで開かれ、シンポジウム「語られる「始原」ー開祖の宗教史」で、「日本仏教はじまりの物語としての聖徳太子伝ー伝記の「成長」ー」と題して発表させていただきました(11月11日)。
 近代歴史学の誕生以来、聖徳太子伝やその著作とされるものに対して批判的な検討が加えられてきました。「聖徳太子非実在説」はマスコミで取り上げられ、話題になりました。
 しかし、そもそも開祖伝は、その人の歴史的事実を伝えるためのものではありませんし、少なくとも思想史研究においては、歴史的事実ではない=価値がない、ではありません。伝記の「成長」自体、思想的展開として捉えられるのではないか、という観点から、聖徳太子伝を取り上げました。

http://ajih.jp/event/2023program.pdf

 どちらも、来年の『倫理学年報』、『日本思想史学』に内容が掲載されるはずです。

『日本人なら知っておきたい日本の伝統文化』(ちくま新書)

 『日本人なら知っておきたい日本の伝統文化』(ちくま新書)を書きました。12月7日頃書店に並ぶ予定です。

 ちょっと変わったタイトルになりましたが、それには理由があります(編集者のアイデアです。私は「日本の宗教と文化」を提案したのですが、却下されました(笑))。
 これはいくつかの大学の共通科目(昔の一般教養)で、「日本文化論」「日本思想史」「日本宗教史」などの題目で、お話ししてきた内容です。
 実は以前から、執筆の提案をいただいていたのですが、コロナでいろいろあわただしくなったりで、延び延びになっていました。
 今年の前半、本にすることを意識して授業をして、それを元に下書きを書き、夏休みにそれを掘り下げて本にする計画だったのですが、授業内容をまとめてみて、「これはこれでアリかな」と思いました。
 共通科目なので、正直、「私の話を聞きたい」「日本の伝統に興味がある」という理由で授業を取る学生ばかりではありません。
 そのため、関心を持ってもらうことに努め、ひとつひとつの内容をあまり掘り下げることはできなかったのですが、その結果、全体の構造を見とおしやすいものになりました。
 これをさらに掘り下げると、むしろ全体像が見えにくくなり、ごちゃごちゃいろいろな内容を書いているものになってしまうのでは、と感じました。
 すでに日本の伝統文化に関心を持っている方のための本というより、日本の伝統なんて自分には関係ない、よくもわるくも高尚なもので手を出しずらいと思いこんでいる方に、「そうではない」と感じてもらうための本になったので、上記のタイトルになりました。
 写真や図版も多くいれ、約200ページという、内容も厚さも重厚なものが多いちくま新書のなかでは、比較的手に取りやすい内容になっていると思います。
 出版社の都合で刊行がひと月はやくなり、ふたつの学会シンポジウムの間に校正作業がはいってしまい、大変でしたが、なんとか作業を終えることができました。
 あとは、印刷、製本され、書店に並ぶのを待つだけです。

序章 日本人の知らない日本の伝統
第一章 神のまつりと日本人
 1 民俗学が目指したもの
 2 柳田国男と折口信夫
第二章 仏教と日本――古代から中世へ
 1 仏教の伝来と展開
 2 神仏習合と中世の文化
第三章 新しい知の到来――近世・近代
 1 中世から近世への転換
 2 明治維新から現代にいたるまで

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