四月莫迦の話 作:☆
あたしは一つ、嘘をつきました。……ってまあ、宣言したところで「何が?」って話なんだけど、できればそこは突っ込まずに聞いてほしい。
「ケーキ食べる?」
兄にそう問うと、彼は眼鏡を拭きながら、顔をほころばせてうなずきました。兄は甘いものに目がなくて、小さいころからおやつが出てくると、あたしの分まで食べちゃうような人でした。
兄はとても喜んでいました。あたしも甘いものが好きなのですが、兄に一度も、甘いものがあるとき、声をかけたことがなかったのです。
あたしは兄の目の前に、ケーキを置きました。それは茶色の上にビビットピンクっぽいゼリーが乗った、かわいらしいものでした。
兄はフォークをそっと刺して、ケーキを食べました。
————そして、兄はなんと、怒ってしまったのです。
あたしは兄に一つ、嘘をつきました。それが世間で嘘というのかはわかりませんが、あたしは兄を傷つけました。兄がもう、ケーキが食べれなくなってしまうような嘘を。悪気はなかったんです。ただの、遊びのつもりでした。それに、よく考えたら嘘だと見抜けるようなことだったんです。
あたしも、甘いものが好きです。そしてあたしは、兄に一度も、甘いものがあるときに声をかけたことがありませんでした。それなのに、私が今日、四月一日に兄にケーキをあげた。……おかしいことだとは思いませんか?
あたしは兄に言いました。
————そのケーキが甘い、だなんて、あたし、一言も言ってないけど?