ぺんだんと 第六章 作:Erin

望月君の家庭教師になって2か月、中間はあまり上がらなかったことで落ち込みながらも必死に勉強する望月君。「期末は絶対あげるぞー!!」と言いつつ学校はさぼっている。

「期末一週間前になったら学校は絶対さぼらないこと! 家帰ったらすぐ勉強するから」

「めんどい——」

「家庭教師になってくれって言ったの誰だっけ」

望月君を上から見上げてドヤ顔する。望月君は一瞬戸惑ったけどまた机に向かった。

そんなこんなで期末テスト返し……

私の点数は下がっていない。逆に上がっている。人に教えた方が自分も勉強になることは本当だったらしい。一年生からは、影が薄くなったのかだれも私を気にしなくなっている。

ただ、由梨とよく目が合うようになった。なにか言いたそうな目でいつも……。

 昼休み、裏庭大きな木の下で望月君のテスト用紙を確認した。

「すごいじゃん、全部平均点だよ!」

「俺はやればできるんだよ」

望月君は親指を立ててあたしにニコッと笑った。

まさにYDKで『自称真面目』も通用してきた。

「あんたを教えた甲斐があってよかったよ」

「ほんと、ありがとな。あ」

何かを思い出したようにガサガサとポケットをあさる望月君。ポケットから取り出した手には、キラキラと光る銀色の星のペンダント。

「教えてくれたお礼」

「え……これいくらかかったの!?」

母が金持ちなせいもあるが、ペンダントの見た目でいくらか判断する事ができる。
中古の物ではないとわかったが、中学一年生がこんな物を買えるの!?

「秘密」

「ええケチ!」

そう言いながらもペンダントを受け取り、じーっと眺めた。
少し重い。百均で買ったものでもない。本当いくらかかったのだろう。

あ、でも

「もう家庭教師はこれでおしまい?」

今の調子なら望月君の成績はもっと伸びる。それなら家庭教師は続けた方がいい。
本当はもっと一緒にいる時間が欲しいだけだけど。

「え? 何言ってんだ? 卒業するまでやってもらうけど」

「あ……そうなんだ」

よかった。でも卒業までか。……まだまだ先だし気になくていいっか。

うれしくてぼーっとしていると手が軽くなる。

「え、なに?」

望月君はペンダントを私から奪い、ニコッと笑った。

「なんかおまえ落としそうだからつけてやる」

「え?」

立ち上がるのかと思えば、望月君の顔が一気に近づいてきた。

ちょっと待て——!!! 近すぎる!

望月君息が耳にあたってくすぐったい。そしていつもより心臓がバクバクなっている。
まさか心臓爆破数秒前の速いカウントダウンが始まってるの!?

この気持ちはいったいなに?

「よし、できた」

望月君は私から離れ、気づけば首元にペンダントが下げられていた。

これは初めて望月君からもらったプレゼント。
自分は特別だと思うくらいうれしくて胸がいっぱいになった。

「ありがとう、大事にするね!」

「夏美!」

帰り道、走ってきたのか息切れした由梨が私に声をかけた。

すごい申し訳なさそうな顔をしている。今更謝るつもりなのかな? 

「ちょっと……いい……かな……?」

私達は近くのファミレスで話す事に。あの日から一回も話してないからなんだか気まずい。
私達はファミレスで今限定のアイスレモネードを注文して窓際のテーブルに座った。

「あ……あのね……」

先に口を開いたのは由梨。ものすごく緊張している。

「あたし、拓斗と付き合うことになったの」

ーーーーー

最初に思ったこと。 ふーん、で? 今の私にはそんな報告されてもどう何が変わる?

あたしは腹黒なのか、そんな気持ちを隠して無理やりにこっと笑った。

「へー、よかったじゃん、おめでとう! ……とでも言ってほしいの?」

やっぱり隠せない。

このとき、あの時の由梨との思い出がよみがえってきた。

拓斗と付き合ってると言った瞬間、いじめられた。それだけで……たとえ強気でいてもーー。

「……なに」

私はアイスレモネードをグイッと一気飲みして、怯える子犬のような由梨に素っ気なく答える。

「い……いじめて……ごめんね……」

そんな由梨は涙をながしながら謝る。この状況、私が悪者みたいなんですけど。

バン!

この嫌な空気が耐え切れなくなり、思いっきりテーブルをたたいた。

あまりにも強くたたいたもんで、手がひりひりする。

そして他のお客さんや店員さんも音の衝撃で私に視線を向けている。

……申し訳ない。

「もういい、かえる」

テーブルに千円札を置いてファミレスを出ていく。

「夏美、待って! まだ話が!」

その言葉は、あたしの耳には届かなかった。

休み時間、自分の席でいつものように読書をしていると、1組の扉に意外な人が立った。

私に用があるのかと席を立とうとしたが、

「由梨!」

その人も意外な人の名前を呼んだ。

「あ、瞬だ。はいはーい」

しかも下の名前で呼んでいる。

二人はCDのようなものを交換し合い、曲の事を語り合っているのか笑い合っている。
どういう関係なの……?

その光景を見て、胸が苦しくなった。苦しくて苦しくてもう見てられない。

私はわざと二人の間を遮って教室を出た。

「夏美!?」

「日高!?」

二人の声が重なった。足を止めようとしたけど、身体が言うことをきいてくれなかった。

ガタン!

走ってたどり着いた場所は屋上だった。

昔、ここで飛び降り自殺した生徒がいるという噂がある。

そのため本当は立ち入り禁止。なはずなのに思わず入ってしまった。

そもそもなんで扉が開いてるのよ。

キーンコーンカーンコーン

授業の始まるチャイムがなった。なんだか私は戻りたくない気持ちに駆られる。

「もういいや、社会なんて教科書読めばわかるし」

ぽすんと扉に近い屋上の床に座る。

生まれてはじめて授業をさぼってしまった。

「夏美!」

と思っていると屋上の扉がバンッと開く。予想通り出てきたのは由梨。
私を見ては「誤解だよ誤解だよ!!」と何回も叫んでいる。

その前に由梨ちゃんもサボってしまったね。

そんな事はどうでもいいのか、由梨が私の隣に座り、「あのねあのね」とあわてて言う。

「いとこなの、だから誤解だよ!」

「……え、何が?」

「だから、あたしと望月君は従兄弟同士なの!」

え……そうだったの!?

驚いたと同時に、心の中のモヤモヤもスッと消えていったーー。