ぺんだんと 第三章 作:Erin
「~♪」
鼻歌を歌いながら学校に向かう。
色々とスッキリしたせいで、逆にテンションが高くなってしまった。
ドサ!
「いったー」
案の定、門から少し離れたところで誰かとぶつかって転んでしまった。
「あっ、わりぃ。大丈夫か?」
ぶつかった相手は今学校で噂の不良、望月(もちづき)瞬(しゅん)だった。
私とはクラスが離れていて、よく知らないけど、問題をよく起こすという噂は聞いた。
おまけにモテる。不良なのになんでモテるんだろう? 前からずっと疑問に思っていた。
しかも、不良のくせに金髪ではなく黒髪で理系男子にいそうな髪型だ。
「だ、大丈夫です」
「次は気をつけろよ!」
望月君はそのまま門の中に入った。
立ち上がろうとすると、望月君のハンカチが落ちているのに気づく。
「あ、 待って!」
呼び止めようとしたけど私の声は届かなかった。
「また会ったときに返そう」
※
ガラガラ
いつもの調子で教室の扉を開けた。
いつもなら私が入った瞬間教室の空気が悪くなり、女子に嘲笑われるのに、
何も起こらない。
もしや拓斗と別れたからいじめがなくなったのか? それにしては情報早すぎない?
まあ、収まったのならどうでもいいか。
久しぶりに聞く賑やかさの中、私は席に座った。
※
1時間目からいきなりテスト返し。
「日高さん」
「はい!」
名前を呼ばれ、テストを受け取る。すると先生が気持ち悪いくらいの笑顔で私を見る。
「日高さんおめでとう! 学年トップだよ」
「え、うそ!?」
解答用紙を見てみると、なんと100点! うれしさのあまりにやけてしまう。
4時間目までテスト返しが続いた。しかも全教科、オール90点代だった。
「日高さーん、テスト見せて~」
璃子たちが紙を勝手にとる。だけどそれを見た瞬間、隣で見ていた美雪たちも目を丸くした。
「ぜ、全部90点代!?」
「えええええええ!?」
クラスのみんなも目を丸くして私を見た。
「あのさ」
女の子たちがニヤニヤしながら話し出す。
「なんか、いままでちょーバカだと思ってたけど見直しちゃった!」
「え、ああ、ありがとう」
皮肉っているのか褒めているのかよくわからないけど、とりあえずお礼を言った。
こいつら絶対裏で何か企んでる……。
昼休みになり、裏庭で食べに行こうとすると璃子たちに呼び止められた。
「一緒にお昼食べよー」
「あ、うん」
咄嗟に了承したけど、どういう風の吹き回し!?
なんか今日のこいつら気持ち悪い。
結局教室で一緒に食べ、会話にも自然に馴染めたが、由梨は私に目も向けず話してくれない。
まず会話の内容が先生の悪口というのがタチ悪い。毎日こんな話題なのだろうか……。
ああ、裏庭で食べたい。
※
「2学期から専門委員が変わりますので決めたいと思います」
5時間目、委員会、係決めの時間。1学期は理科係をやった。仕事もそんなにないし楽だから。
(次は数学係にでもなろうかな……)
「委員長決めは推薦にする。推薦したい人いるか?」
ぼーっとしていると先生の声が耳に響いた。委員長か、私には関係のないことだ。
そう思って机にかまぼこ状態になろうとした。
「誰もいないのか? じゃあ先生が推薦しよう。日高、委員長やってみないか?」
「え!?」
突然先生に推薦される。断りきれない空気になってしまい、受け入れてしまった。
「他の推薦がないので委員長は日高に決定しました。じゃあ次は——」
なんて勝手な……。
※
掃除の時間、女子が私の周りを囲んだ。
「テストが全部90点代だったからって、いい気になってんじゃねえよ!」
「委員長になったからって偉そうにしやがって、 あんたが推薦された理由はね、点数が高かったからなだけなんだよ!」
女子どもは性別にしては荒っぽい口調で言い、私を突き飛ばした。転んだ場所はぬれていて、制服が汚れてしまった。
わーなんて勝手な(2回目)。誰も反対していなかったのに。さっきまで一緒にお弁当食べてたのに。
やっぱり、何か企んでいたのね。
「うわーっ、だっさ!」
みんなは笑いながら去っていった。その群れの中に璃子、美雪がいた。
ほかのみんなと一緒に私を見ながら笑っている。
ほんと……女って恐い。
とりあえずトイレで汚れた制服を脱ぎ、体操服に着替えた。
家に帰る前に気持ちを落ち着かせるため、裏庭に向かう。
「ハァー、疲れた」
あの大きな木にもたれ、溜息をつく。やっぱり心の奥底では悔しかったのか怒りが収まらないのか、涙が頬をつたっていく。
ドサッ!
「え!?」
突然上から男子が落ちてきた。二階からだけど、低めの高さで死んではいないのだろうけど心配になり、恐る恐る近づいてみる。落ちてきた男子は朝ぶつかったあの望月瞬だった。
「イッテー。ったくあいつらぶっ殺す!」
「だ、大丈夫ですか?」
心臓をバクバクさせながら声をかけてみた。すると望月君は起き上がって私をじーっと見つめる。
「な、なんですか?」
「おまえも大丈夫? 泣いてたみたいだけど」
「あ、」
素早く涙を拭う。
「ちょっと、色々あって」
「ふーん」
「あ! そういえば」
私は朝、望月君が落としたハンカチをポケットから取り出した。
「これ、ぶつかったときに落としてったよ。ちょっと汚れてるけど……」
「いや、元から汚れてたし、サンキューな」
「おーい瞬——、大丈夫か?」
上から望月君を呼ぶ声が聞こえた。上を見ると、望月君といつも一緒にいる藤原君がいた。
拓斗の名字も藤原だからちょっとドキッとしてしまう。
藤原って名字はいっぱいいるけど、なんか雰囲気似てるし親戚かもしれない。
いや、気のせいか。
「じゃあ、俺行ってくる」
「ああ、うん」
望月君はそのまま木に登って窓から教室に入った。
この大きい木のせいで、藤原君から私は見えなかった。一緒にいたらなんか噂されそうだし……。
「さてと、帰ろうか」
私は立ち上がって背伸びをした。
あと2年。そう、2年なんかあっというまだ。私なら絶対、越えられる。