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Jリーグの「中心」は誰だ?2024年末編

概要

  • Jリーグでの同僚関係の距離を1年ぶりに再計算してみた.

  • グラフの中心性の指標をいくつか計算してみた.

  • その結果,あのレジェンドからあのレジェンドにJリーグの「中心」が動きました.


本編

この記事はこれら↓の続編です.なんやかんやで5年目.記事名のネタは枯れました.

元ネタはtkqさんの名作↓.

エルデシュ数の説明は面倒くさいので上記の過去記事をご参照ください.また,self-containedとするために以下の記述は重複が多いです.過去バージョンに見覚えのある方は「結果」までお進みください.

ネットワーク上での「距離」や「中心の度合い」

今年の記事では2021年以降のバージョンを踏襲し,ネットワーク内での「中心の度合い」を計測する指標を複数計算し,それらから総合的に「Jリーグの中心」は誰か?という疑問に定量的にこたえたいと思います.

ネットワークと距離の定義

ネットワークとして,「同一年に同一クラブで出場経験がある」関係の選手間を結び,その距離を1とします.2選手間の距離はその間の最短経路の長さで定義します.

元データはJリーグ公式(J.LEAGUE Data Site)のみを利用しました.したがって,ほかのリーグでのチームメイト関係は反映されていません.

データサイトにエントリがあり,かつ公式戦出場経験がある選手が6508人(2023年末:6250人)記載されていましたので,全員とすべての組み合わせに対して距離を計算しました.

中心性の指標の数々

  • 平均距離(mean distance):ある選手から他の全員への距離を計算し,その平均を取ります.この値が小さいとJリーガーとの同僚関係で中心に近いのではないか?という指標です.

これ以外にもネットワークの中心にいるかどうかを示す指標はいくつか提案されています.その中でも有名かつMATLABで用意されている指標をいくつか計算します.

以前試合中のパス数で計算してみた記事もあるので,関心のある方はこちらもぜひ.

  • 媒介中心性(betweenness):betweennessは「任意の二選手間の最短経路を選択した場合に経路上に選ばれる頻度」です.「その選手を経由しないと他の選手に最短距離で近づけない」ような選手が上位に来る指標です.

  • 次数(degree):その選手との同僚関係にあった選手の人数を表します.「次数」はネットワーク科学での用語で,今回の場合は「チームメイト数」を意味します.

  • 固有値,ページランク(eigenvalue, pagerank):いずれも「ネットワーク上をランダムウォークしたと仮定したときの滞在確率」の説明を意図していますが,pagerankではリンク構造と無関係にランダムにノードを選ぶように修正されています(Googleの検索アルゴリズムに組み込まれたことで有名な指標です)

これら5個の指標それぞれで順位をつけ,それらを一つの総合順位にまとめます.値の分布や大きさが全く異なるので,順位を重要視し,それぞれの指標での順位の積を採用することとしました.順位の積はスポーツクライミングで採用されたことでも有名ですね.

結果

さて,大変前振りが長くなりましたが結果です.総合ランクトップ20選手を示します.


Jリーグ中心性ランキング2024年末版

「Jリーグの中心」ランキング,2024年末の首位はあのレジェンド山瀬功治選手でした!3連覇していたレジェンド三浦知良選手を抑えての戴冠です.

山瀬選手は2024年J2リーグに2試合出場し,チームメイトを増やして(本手法では公式戦に1試合以上した年のみ「チームメイト」と判定しています)平均距離で1位を獲得.その他の指標も2位,4位,5位と軒並み上位でした.

その下に目を向けると,若手選手では鈴木武蔵選手が総合3位(2023年8位)と躍進.1994年生まれでまだ30歳ですが,J-22(2014,2015のみ)を含み複数のクラブで出場したことが反映されているようです.特にJ-22は複数クラブから多数の若手選手が出場しており(手元の集計で2014年98人,2015年108人),彼らと「チームメイト」となれたことの影響が大きいようです.(次数(チームメイト数)上位にはJ-22経験者が多く含まれます).

そのほかにも,今年引退を発表した本間幸司選手伊東輝悦選手なども上位に名を連ねています.本間選手はJ2水戸でのみ出場記録がありのですが,他の上位選手が複数クラブで出場しているのとは対照的です(本間選手の次数(チームメイト数)はそこまで多くない).選手間の最短距離を求めると本間選手が最も頻繁に現れる(媒介中心性で1位),というのはとても興味深いです.

2020年の記事で平均距離が最小であった土屋征夫選手ですが,総合で9位を堅持しています(2023年9位,2022年8位).ちなみに,マルキーニョス選手の総合ランクは304位(2023年251位,2022年206位)でした.

最後に,約6000人から構成されるネットワークの図を提示して本稿を締めくくります.色は総合指標値に対応しています(青:高順位,黄色:低順位).おおむね,総合順位が高い選手ほど中心に配置されやすい設定で描画しました.選手間の同僚関係は非常に薄い青線で描画しています.昨年と本当に微妙に違いますので,違いを味わっていただければ.


Jリーグでの同僚関係のグラフと中心性(2024年終了時)

また来年,その気になったら更新するかもしれません.それでは!

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