論文が出版されました:「対比較法を用いたパークファクター推定方法」
論文が出版されました.2023年2本目です.やったぜ.
Spoana #14で宣伝した論文のうち1本です.
主著者は卒業研究で実際に手を動かしてくれた卒業生,第二著者が私,の構成です.テーマは「野球のパークファクター推定方法をより適切にしよう」です.
パークファクターとは何で,何が課題となっているのか?
野球は試合会場(野球場)の大きさが厳密に規定されていません.球場の形状やフェンスの高さに自由度があり,それにより試合結果に影響がありえます.わかりやすい例だと,外野フェンスがホームベースより遠かったり高かったりするとホームランは出にくいです.日本のプロ野球の本拠地だと,バンテリンドームナゴヤ(ナゴヤドーム)がホームランが出にくい球場として有名です.
結果に対する球場の影響を定量化する値としてパークファクターが提唱されています.しかし,現在広く使われている定義は試合単位の回数に着目したものであり,かつ選手の能力を分離することができていません.ホームランが出やすい球場では1試合当たりの打席数が増えるので,1試合当たりのホームラン数はより多くなりえます.また,各球場で投手とホームプレートの距離は明確に規定されているにも関わらず,フォアボールの既存パークファクターは球場ごとに大きく異なり,また同じ球場でも年度ごとに異なります.
こういった既存手法の欠点を克服するために,以下の改善を試みたのが本論文です.そもそもパークファクターを数理的に解釈する学術発表はほぼ見当たらず,この問題に取り組んだことそのものが本論文の新規性の一つです.
具体的な分析方法の主なアイデアは以下の通りです.
打席単位で評価する.
打席を,「打者」対「投手(と守備)」+「球場」の対戦と解釈する.
「打者」「投手(と守備)」「球場」のそれぞれの影響を,各打席の結果を用いて分離して推定する.
その結果,以下が確認できました.
データはパリーグ5年分,約14万打席の結果に基づく.
提案手法では年度間のパークファクターの変化が小さい.改修工事などが無ければパークファクターは一定であるべきなので,この点で提案手法が好ましい.
提案手法ではフォアボールのパークファクターはより1に近い.投手とホームプレートの距離は統一されているので,球場の影響が大きいとは考えづらい.まだ,フォアボールは投手の責任に帰すべきとの現行のセイバーメトリクスの解釈と一貫している.
また,打者や投手の能力も併せて分離して抽出できるため,球場の影響を取り除いた選手評価が(副産物的に)可能となりました.
発表資料も公開済みです.できれば論文をご購入いただきたいのですが,試し読みしたい方はまずこちらをご参照ください.
↑本論文の直近の外部発表資料です.発表時間が短いためコンパクトな資料ですが,概要はご理解いただけると思います.
↑MLBでチーム単位での分析も行っていますが,査読付き原稿としては未出版です.
今年の論文1本目はこちら.↓