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【読書記録】辻村深月『ぼくのメジャースプーン』

"復讐"とは、一体誰のためにあるものなのだろうか。

自分の辛さをわかってほしいから。
自分の腹立たしいこの気持ちを消化したいから。
自分がされたひどいことを相手にも施し、もう二度と同じ思いをする人を出さないようにするという、正義を実行するため。

正解はないのだと思う。
ただ、復讐には相当なエネルギーや時間が必要になる。そしてそれらは、復讐する相手のために費やすものである。
そこまでして復讐をしたいか。そこまで相手と関わっていく覚悟があるのか。
この物語は、そういったことを考えるきっかけを私に与えてくれる。

「ぼく」は、ふみちゃんのためではなく、自分のために復讐したいと思い、自分の力を使う決断をしたかもしれない。
「自分のせいでふみちゃんがこんなことに」という、罪の意識に耐えられずに。

その思いは、決して独りよがりなんかじゃない。
相手を、相手の人生を真剣に考えていなければ、思い至ることのない気持ちであるし、実際に自らの命まで賭けた。

「ぼく」が市川雄太に発したセリフを読んだ時の衝撃は忘れられない。
ふみちゃんに一生懸命向き合った「ぼく」の姿に、胸がきゅっと締めつけられる思いがした。

私は、誰かにこんなに真正面から向き合ったことがあっただろうか。
今後、そういった機会がはたして訪れるのだろうか。

いずれにしても、万が一「復讐したい」という感情が湧き上がってきた時には、まずこの物語を読み返そうと思う。

久しぶりの辻村作品、やっぱり最高!

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