ブルテリア女子と戦闘服

私は犬が好きなのだが、幼い頃特に好きだった犬種の一つに「ブルテリア」という犬がいる。

1990年代に放送されたアニメ「平成イヌ物語バウ」のモデルにもなった犬、と言えばイメージが湧く方もいるだろうか。絵本が好きな方なら島田ゆかさんの「バムとケロ」のシリーズのバムで分かっていただけるかもしれない。

バウやらバムやら名付けられるのはその見た目の印象も大いにあるのではないかと個人的には思っている。小さくて離れた目、間延びした鼻先。なんだか拍子抜けしてしまうような愛嬌のある、ひょうきんな顔をしているのだ。 

その見た目からは少しアホっぽくて(良い意味で)、人懐こい犬なのかと思いきや、そうではない。かつて闘犬としても活躍した歴史があるくらい、活発で闘争心の強い勇敢な犬らしい。警戒心も強く、家族以外には懐きにくいため小さい頃にしっかりと躾が必要だというから驚きだ。ハードボイルド系のカッコイイ犬なのだ。

人は見た目じゃないというが、犬だって見た目じゃないわけだ。
本質的なところは見た目だけでは分からないことも多いものだが、そう理解しているつもりでも、つい見た目の印象に左右されてしまうことはある。

「私の中身を好きになってくれる人なんて現れないんじゃないかって気がしてきました。」

20代後半、いわゆるアラサー世代に入って絶賛恋活・婚活中の後輩の話だ。

彼女はモテる。華やかな顔立ちにスレンダーかつ健康的な体型、明るく社交的でコミュニケーション能力も申し分ない。

しかしここ数年彼氏と呼べる存在はできていないし、その前に付き合ってきた人達を振り返ると、なかなかにパンチのきいた泥沼の別れを繰り返している。

「ずっと前の元カレに、別れ際「お前の顔以外どこ好きになったらいいの?」って言われたの未だに心にひっかかってます。
みんな顔で入って性格で逃げるんですよ。」

不満げに話す彼女には申し訳ないが、聞いている私はつい笑ってしまった。

本人は納得のいかない様子だが、彼女はブルテリア的なのだ。見た目と中身のギャップが激しい。

白やピンク、花柄やリボンが大好きで、髪は上品なストレートかゆるふわカールが彼女のデフォルトだ。この時期なら柔らかい素材のニットのアンサンブルに膝丈スカート、襟元にファーのついたベージュのコートを羽織っているだろうなというのが容易に想像がつく。きっとそのコートのボタンはキラキラのビジューだ。

だが、ゆるふわな見た目とは対照的に、その性格は格闘家みたいなのだ。負けず嫌いで筋の通らないことが大嫌い、納得のいかないことを正すためなら争いも辞さない構え、それが彼女だ。

かつて一緒に働いていたのだが、当時の彼女は大学を卒業したての新社会人で、右も左も分からない中たくさん苦労していた。
人の少ない休憩室で涙する彼女をなぐさめたことも何度かあったが、その涙の質はやっぱりゆるふわではなかった。大きな目に怒りと悔しさをたっぷりためて、それが溢れてしまわないように歯を食いしばりながら、自分の不甲斐なさを反省したり、社会の理不尽さに抗ったりしていた。 

分かる、分かるよ男性諸君。
これまで彼女に惹かれ、去っていった男性たちの気持ちは手に取るように分かる。
「こんなやつだと思わなかった」「騙された」くらいのことを考えただろうことは想像に難くない。

よく知らない相手のパーソナリティを探るとき、見た目は何よりも雄弁な情報だ。服装や髪型、背格好、姿勢や立ち居振舞いなど目から入ってくる情報が第一印象を大きく左右する。

営業職の人がきちんとスーツを着ていたり、CAさんがぴっちりとまとめた髪に赤い口紅をつけていたり、ニュースキャスターがTシャツではニュースを読まないことも見た目の影響の大きさに配慮してのことだろう。

身だしなみを整える時、基本的には自分の好きなものを着て、好みの髪型やメイクをすればいいと思う。ただ、時と場合によっては、自分自身を誤解なく表現する重要なツールとして考えることも必要なのではないだろうか。鏡に映った自分の姿を見て、客観的な印象がどんなものになるか認識しておくだけでも違うかもしれない。

例の彼女の場合、頰に古傷を作って肩にいかついトゲとかつけとくくらいで丁度いいと思う。

そんなことを提案したら
「見た目で判断する世の中が悪!!」
とまた噛みつかれた。

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