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航空機事故から学ぶ:CALのA3002️⃣誰が飛ばしてた!?

中華航空676便着陸失敗事故:1998年2月16日、インドネシアのBali空港から台湾の中正空港へ向かっていた中華航空676便(Airbus A300-600R型機)は、乗員14名と乗客182名を乗せて順調に飛行を続け、到着地のRwy 05Lの25NM手前で、着陸に向けて針路360°、高度25,000ftへ降下を開始した。49歳の機長と44歳の副操縦士が操縦担当だったが同便には機長の妻と子供たち家族が同乗していた。飛行経歴は機長が7,226時間、副操縦士が3,550時間で、中堅キャリアのペアだった。
降下中に異常のサインが表示された。”TRIM TANK SYSTEM FAULT. CTR TANK FEEDING. FUEL X FEED. TRIM TK PUMP 1 AND 2. TAT 26t. FUEL TK 24t. T.FUEL 11.4kgx.”の内容だったが、機長は特段の対処をしなかった。むしろ副操縦士がカンパニー無線で到着ゲートの情報を取ろうとしてATCの周波数で呼びかけた事に苛立ちぎみだった。
降下するにつれて雷雲が立ち込めて、稲光が見られるなか、同便は滑走路手前3NMでFlap 20°を入れて、機長は風が強いと云って操縦桿を押し込んで機首を下げた。20:04に地上高1,300ftまで降下した段階で、機長はアプローチ高度が高すぎるとして着陸やり直しを決心。エンジン推力を上げたところ、機首はどんどん上昇して、空港管制官から”Confirm go around?”と確認された。そのうちstick shakerが作動し、操縦士らは異常姿勢に気付いたが、操縦桿を押しても失速状態から回復することなく、滑走路北側の住宅地へ墜落。地上にいた7名を含む203名が死亡した。
台湾の航空機事故調査委員会は、まず調査員らが実地調査を行って、両方のエンジンは墜落まで正常に作動していたこと、flapは着陸時の20°に設定されていたこと、空港管制官に尋問してwindshearは発生していなかったことを確認した。その後blackbox2つとFADEC (Full Authority Digital Engine Controller)も回収され、前者は豪州のBASiへ、FADECはNTSBの斡旋で米国コネチカット州の施設で解析が進められた。するとFADECのデータから両エンジンはsurgeの状態になっていたことが分かり、この事はBASiへ情報提供された。エンジンサージに陥る原因としては、バードストライク、燃料過給、空気過少などが考えられた。
FDRを解析すると、着陸やり直しから15秒後にピッチが通常15°のところ、40°を超えていた。BASiの調査官らは、操縦士が慌てて機首を押し下げたものの、低速で充分な揚力が得られないまま地上へ叩きつけられるように墜落したと結論した。操縦士の剖検で、二人からはアルコールや薬物は検出されなかった。
CVRを再生すると、機長は副操縦士に苛立っており、その業務に不信を抱いていて、一人で業務を行おうとしていた。副操縦士の方は、機長に恐れを抱いていて、雷光が走るなか緊張が高まっていた様子だった。機長が着陸やり直しを決断する6秒前に自動操縦OFFの通知音が鳴ったが、二人とも言及せず、気付いていなかったと思われた。機長が着陸やり直しを告げた後も、副操縦士が”Gear up or down?”と機長に確認すると、機長はそれに答えず”Flaps!”叫んでおり、連携作業は出来ていなかった。

Airbus A300-600R型機では、コンピュータプログラムの書き換えが行われており、33ポンド(15kg)以上の力が操縦桿に加わると、auto pilotは自動的に解除される方式となっていた。二人の操縦士はgo aroundが自動的に作動するものと思っていたため、結果的に11秒間誰も操舵していなかった形となって、極端な異常姿勢に陥ったと結論付けられた。
事故調査委員会は乗員のより良いコミュニケーションを確立するために、CRM訓練を積極的に導入するよう中華航空へ勧告した。

前世紀末の中華航空には「華航四年大限」という悪いレッテルが貼られ、この事故の4年前の199442日には名古屋空港で同型機が同じような着陸失敗事故を起こして、264名が亡くなっています。この事故から4年後の2002年5月25日には、B747-200型機が、日航123便墜落事故の同様な尻もち事故後の杜撰なダブリング修理で、澎湖諸島沖で空中分解して225名が死亡。2007820日にはB737-800型機が那覇空港着陸後に着陸装置を主翼内へ収納しようとした際に、外れたボルトが燃料タンクを穿破して全焼する事故(乗客乗員は全員脱出して生存)を起こしています。会社全体で運航態勢が脆弱であったと思われ、この企業体質は台湾社会から強い非難を受けて、その後徹底的に改善されて行きました。
この事故で一点はっきりしないのは、着陸前にFMDに表示されたTrim Tank Systemの故障が、着陸復行後の急激な機首上げに果たして全く影響なかったのか?という点です。実際水平尾翼に残っていたジェット燃料は1,140kg程度であり、それなら重心位置に多大な影響を与えるとは考えにくいですが、FMDの表示自体がシステムの故障で間違っていた可能性もあります。いくら機長が苛立っていて、副操縦士が委縮していたとしても、機首が40°も上がるまで何もしなかったとは、何とも考えにくい事だからです。

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