ICAO航空英語能力証明二次(実地)試験の概要
二次(実地)試験の実施方法は、試験問題が公開されていないため、最近の受験者から状況を尋ねるしかありません。ここでは国土交通省の試験会場で近年行われてきた実施方法についてご説明いたします。
2020年の試験から新型コロナウイルス感染症対策のため、試験官と受験者の間に畳1枚ほどの大きな横長のアクリル板が設置される事がありました。感染対策上やむを得ない処置ですが、アクリル板には絵カードをやり取りするための細長い横穴がテーブルとの隙間に開いているだけなので、充分よく聞こえない可能性があります。
実地試験が始まる前に1分ほど英語で雑談する時間がありますから、その時に聞こえずらいなと思ったら、試験官へその旨を直ぐ伝えるのが適当です。試験中に(聞こえないので)もう1回言って下さいとお願いすると、理解力で減点される恐れがあります。特に試験官が高齢の方ですと、声に張りがないため、聞き取りにくい可能性があることを承知しておいて下さい。
<導入:Warm Up>
最初の雑談時間には、どこから来たかとか、どんなルートで到着したかなど他愛もない英会話をします。充分大きい声で、出来れば普段より低めの声で、ゆっくりハッキリと話をするよう努めましょう。
何を言うのか話しながら考えるのではなく、話す内容をある程度思い浮かべてから会話する事です。そうすることで、Aha…とかWell…といったシラーをなくすることが出来ます。
堂々とした態度で落ち着いて会話できるよう、姿勢にも気を付けて下さい。試験官へも時折りアイコンタクトを忘れず、心象よく本試験を開始出来るようにしたいものです。
<1コマの絵カード①>
それでは試験に入りますと宣言されたら、落ち着いて試験官の指示に従います。まずは1コマの絵カードを手渡されます。問題の絵に文字は大抵書かれていません。その絵だけから状況を推測し、それを説明します。10数秒ほど暫く考える時間が与えられますから、ここでは集中して絵カードの隅々まで目を凝らしましょう。例えば絵の上の方に小さく機体が描かれていたり、滑走路の絵の先に消防車が待機していたりと、よく見ないと状況把握が不充分な解答となってしまいます。状況が分かったら、頭の中を整理して、きちんとした英語で説明します。ボソッと一言、”It’s snowing…so difficult to see the runway.”では不充分です。まず最も重要なことを言います。次に絵カードに描かれている他の状況についても説明します。その際に、前に述べた事柄と関連付けて、適当な接続詞を付けながら説明していくことが大切です。そのようにストーリー展開することにより、全体的な状況を隈なく話すように努めましょう。
一通り状況説明が終わると、次にそれへの対処法などが尋ねられます。例えば強い横風での着陸でのcrabingやwing lowの方法、燃料切れでのditchingを行う状況だったら、波のうねりにどう合わせるか、自分の搭乗する機体ではこのように操作しますと順序だてて説明します。操作手順の詳細が技術的に正しいかどうかよりも、淀みなく英会話が出来るかを採点されます。この操作をしながらどの時点でmissed approachへ入るとか、管制へ状況を伝えてトランスポンダを7700にするなど、専門用語を使ってprocedureが次々に説明できると高評価になるでしょう。
<1コマの絵カード②>
ATCのやり取りが上手に出来るかを判定するため、試験官が管制官役になって、ATCの模擬交信とディスカッションをします。まず架空の航空会社の国内線用飛行計画を読み上げさせられ、更に1コマの絵カードを見ながら、ATCの模擬交信を交わし、事態がより詳細に分かってきます。このような状況だったらどうするかとか、同様なエピソードを経験したことがあるか等、更に突っ込んだやり取りが英語で行われます。自分が直接体験したことでなくても、そのような状況になりそうになったとか、たまたま他機で目撃した等、なるべく対話を盛り上げる努力をすべきです。自分のlogbookを見直して、話題になりそうなエピソードがあったか、思い出しておくと良いでしょう。
<数コマの絵カード>
次に4コマもしくは6コマのイラストが描かれた1枚の絵カードを手渡されます。各コマに番号が振っていないのが普通なので、まず順序を確認してください。大抵は横長にイラストが描かれており、上段を左から右へ、次いで下段も左右へストーリー展開している筈です。この絵カードでも、文字はあまり書かれていませんから、状況を想像する必要があります。コマ数が増えてくると、イラストをゆっくり見ている暇は更にありません。しかしその分、1つずつ状況を説明していけば、自ずとストーリー展開が説明出来るようになります。なるべく全体をさっと見て、どういう状況のストーリーなのかを判断し、その上で1つ1つのコマを説明します。十数秒を超えてあまり長く考えていると、試験官から説明をせかされます。多くのストーリーは事故かヒヤリハット事象なので、そのような状況となった原因が描かれている場面は細かく説明すべきです。例えば、滑走路上の除雪は出来ていたが水たまりがあり、氷結していた可能性があるとか、誘導路への出口が滑走路に直角となっており、加えて機体の大きさに比べて幅が狭いなど、色んな可能性を付け加えて、状況説明しながら解説も出来ると高評価になるでしょう。ここでも質問が投げかけられて、ではどういう手順でやれば良かったかとか、このような状況になった際に、どういう事柄に気を付けるべきか等々、更に踏み込んだやり取りを英語で求められます。
どのような問題であっても、黙り込んでしまっては評価の仕様がありませんので、何か話をすべきです。その際に話す英語の内容が、実地試験記録の裏面にもある、共通の評価項目で採点されて行きます。自分の英語力を客観的に顧みて、どこの部分が特に弱いか、意識して直すべきかを、この一覧から自己評価してみましょう。場合によっては、仮想の問題で録画(または録音)してみて、自身がどのようなスタイルで返答しているか見直してみるのも良いでしょう。自分が何を話しているのか良く分からないような内容では、試験官も低く評価するのはやむを得ないと納得できる筈です。
<終結:Wind Down>
一通り質問事項が終わると、試験はこれで終わりです。今日はこれからどうされますか?など儀礼的な挨拶をして試験は終了します。この部分は冒頭と同様に採点対象とはなりませんが、試験官に好印象を与えて試験を終えられれば、採点へ得とならなくても、損にはならないでしょう。