航空機事故から学ぶ:些細な手抜き整備から
整備を手伝って貰ってミス:Continental Express 2574便(Embraer 120型機)墜落事故:1991年9月11日、同便は米国テキサス州のLaredo空港から同州Houston空港へ向けて順調に飛行を続けていた。若手の機長と副操縦士は9,000ftまで高度を落として飛行中、突如機首が下がり、2,000fpmで急降下に陥った。錐揉みで左翼が破断して出火し、250km/hrでEagle Lake付近の畑へ墜落した。機体は粉々となり、14名全員が死亡した。
NTSBはブラックボックスの回収を試みる一方、爆破事故の可能性も考えられたため、FBIも操作に加わったが、それは否定された。
CVRを解析すると、事故直前にATCから方位050°から030°へ変更され、急速に降下に入っていた。副操縦士が"Pushing to descend making a space shuttle..."と冗談交じりに語られた直後、物が飛ぶ音があり、プロペラが唸りを上げていた。その後は、操縦士が発声することなく、墜落していた。
事故機の残骸にはT型の水平尾翼が含まれていなかったため、周辺を捜索したところ、200m離れた位置に落下していた。しかし、破断面に錆は出ておらず、金属疲労による判断とは考えにくかった。また水平尾翼の前縁が、付いていなかった。この部品はなかなか見つからなかったが、牧場の柵の下に並行になって落ちていた。一瞥して上方の取り付けネジの穴は無傷で、下方の穴は裂けていた。上方のネジを止め忘れたため、急降下中に千切れて外れたと考えられた。シミュレータでの再現でも、この前縁が外れると墜落することが確認された。
事故機の整備記録を観ると、事故数日前に防氷装置(deicing bladder)を取り換えており、その作業に関わっていたのは、26歳のスーパーバイザー、25歳のインスペクター、それに29歳の準夜スーパーバイザーであった。10時間かけて左右の防氷装置を交換する予定であったが、右側の交換が終わったのが22:30で、左側は翌朝までに交換できる時間がなく、替えなかった。ところが作業開始時点でインスペクターが手伝っており、左側のscrewも合計40個外していた。これが適切に申し送りされていなかったため、左側の前縁部が半分ネジ留めされないまま翌朝の運航に入ってしまったと分かった。
事故当日の最初のフライトでは降下速度が通常程度であったが、2回目では操縦桿を押し込んで40ktも早い260ktであったために前縁が外れたと結論された。
この事故調査に参加した調査官は、"small deviation from many people"が事故につながったと語っていたそうです。申し送りの大切さが身に染みる14名の死亡事故でした。
T尾翼は地上からかなり高い位置にあるため、操縦士が飛行前点検でネジの締め忘れを発見することは難しかったでしょう。高翼やT尾翼の目視点検は、双眼鏡でも使わないと見て分からない欠点があります。
手を突っ込んで交換してミス:Emery Worldwide航空17便墜落事故:2000年2月16日、Emery17便(DC8-71F型、N8079U)は18枚のパレットを搭載できる貨物便で、衣類を搭載して米国California州Sacrament空港からOhio州Dayton空港へRWY22Rから離陸を試みた。離陸した直後から機首が急速に30度上昇し、同時に機体が左方へ傾いた。機長、副操縦士、航空機関士は必死で機体を空港へ引き返そうと試みたが、同便は1NM東の駐車場へ墜落した。
NTSBの調査官は、まず残骸がDC-8か車のものかを分別するところから調査を開始した。墜落地点が広大なためグリッド化して効率よく捜索し、早期にFDRとCVRを良好な状態で回収した。貨物パレットを固定するベアクローズに墜落時の衝撃痕が見られないのを問題視し、積み荷の搭載方法に問題なかったかを考えた。同社の同僚機長を立ち会わせてCVRを再現したが、操縦自体に異常はなさそうだった。この3年前にFine Air貨物航空がMiami空港離陸時に同様な墜落事故を起こしており、離陸中の荷崩れによるC/Gの移動以外の原因も検証された。
事故機の水平尾翼の残骸には、push rodと接続部品が接合していなかった形跡が見られ、同社のDC-8型機でelevator rodを外して、同様な現象が認められるかを検証した。すると離陸時のような振動を与えると、rodが接続部品と噛み合って動かなくなることを見出した。これが事実であれば、事故時の機首上げ時にelevatorが固着して操縦不能となった可能性がある。事故機はTenessee州の整備会社でオーバーホールの重整備を受けており、事故の12週間前にelevatorのダンパー部品が工場に残っていたことが確認された。調査官が立ち会って作業を担当した若手整備士に整備状況を尋ねたところ、週末に上司の監督なく作業を行ったと答えた。同社の操縦士らは会社に対して、運用機の整備状況に普段から不安を訴えていたことも判明した。elevatorの整備後に整備士がピンを入れ忘れたため、Sacrament空港着陸時にelevator rodが外れ、その後の離陸で接合部が噛み合ってelevatorが動かなくなったと結論づけられた。この事故を受けて、FAAは整備手順の見直しを徹底するよう通知を発出した。
航空機の運航で定期的な整備は不可欠ですが、その作業中にミスが発生することは常にあり得ます。自分自身も耐空検査が完了した機体を受領する時に、エンジンルームにばね部品が落ちているのを見つけて、ぞっとしたことがありました。部品点数が数万に及ぶ大型航空機では、乗務員がいちいち細部まで点検していられないのは当然です。だからこそ整備士の作業を監督・記録するスーパーバイザーの存在が重要となるのです。こうした些細なミスへの備えを怠ると、大事故が直ちに起こることを、これらの事故は証明しているのです。
沖縄での中華航空120便火災事故でも、同様なブラインド整備が原因で事故につながりました。