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航空機事故から学ぶ:どうにもシップが止まらない1️⃣

2024年12月29日、韓国南西部の務安空港で済州航空のB737型機が胴体着陸してオーバーランし、179名もの乗員乗客が亡くなる重大事故が発生しました。大事故が発生すると、第三者が色んな事故原因を語りますが、憶測に基づいた言わば空論です。事故調の調査結果が公表されるまでは本シリーズでは取り上げず、過去に調査された滑走路オーバーラン事故の原因を振り返ってみます。

片側の逆噴射装置が故障していたTAM航空3054便オーバーラン事故:2007年7月17日、TAM航空3054便(A320型機)は乗員6名と乗客181名を乗せて、ブラジルのPort Alegre空港からSao Paulo空港のRwy 35Lへ強い雨のなかアプローチしていた。滑走路は一時閉鎖されていたが、53歳の機長と54歳の副操縦士は上空で待機して風雨が収まるのを待ち、2,000m弱しかないRwy 35Lへ午後7前に着陸することとした。
地上の風は330°/7ktで、滑走路面はslippy, breaking condtion: poorの状態であった。同機は右エンジンの逆噴射装置が故障しており、操縦士らは手順を確認し合って18:51に着陸した。機長が左reverserを作動させfoot brakeを作動させたものの、機体は左へカーブし始めて滑走路端を飛び出し、道路を飛び越えて飛行場の下方にあるTAM航空ビルの地上階にあるガソリンスタンドへ突っ込んで止まった。TAM航空ビルは衝撃と火災で倒壊し、道路を走行中の車両3~4台を巻き込んで、燃え尽きた。
この事故で、乗員乗客187名と地上で巻き込まれた12名の199名が死亡した。
ブラジル空軍事故調査委員会(CENIPA)の調査官は、火炎が残る事故現場からblackboxを回収し、解析のため米国NTSBへ送付した。
事故機は右エンジンのreverserが4日前に故障しており、左エンジンだけで逆噴射させて制止する運航を続けていた。それでは何故、今回だけオーバーランしたのかを検証するため、FDRとCVRが解析された。同型機は接地後に左エンジンをreverseにするとauto throttleは終了し、右エンジンの出力は固定される。ところが事故機の機長は、右エンジンのスロットルをCL(88%推力)から落としていなかったため、滑走中は右が前進で左が後退と、ちぐはぐな設定になっていた。更に右エンジンにCL推力が入っていたため、spoilerとauto brake機能は働かなかった。
またRwy 35L上でハイドロプレーニング現象が発生した可能性も調査された。この滑走路は事故の1か月前に舗装修理を実施ところで、排水用の水切り溝(grooving)が施されていなかった。しかし他の着陸機は正常に停止出来ており、主原因とは考えられなかった。但し、この空港の狭少さを鑑みて、事故後groovingは直ちに実施された。

Congonhas空港はSao Paulo市中心部にあるため、利便性が大変良く、今日まで国内線のハブとなっています。しかしRwy 35Lは1,940mしかなく、Rwy 35Rに至っては1,435mと更に短いため、ジェット機は離着陸に相当神経を使うのです。更に小高い丘を均して造成した空港のため、滑走路を逸脱すると崖下へ転落する危険性があります。今回の事故以前にも旅客機の「オーバーラン転落事故」が度々あり、B737NGとFokker100型機は制動力不足で運航が不可となっていました。今回の事故では、不幸にも転落した先にガソリンスタンドが営業していたため、大災害となったのです。
CENIPAは操縦士が誤ったthrottle操作を行った理由は明らかに出来ませんでしたが、片方のreverserが故障した際の昔の手順で、機長らが混乱した可能性を指摘しています。事故当時の手順では、故障したthrottleも一緒にreverseするよう推奨されていましたが、昔の手順は両方のthrottleをidleにして、正常なthrottleのみreverseにするよう指導されていたのです。それでも事故機の機長が右エンジンをCLに入れたままだったのは、明らかに誤操作です。auto throttleが右エンジン推力を自動制御してくれるものと錯覚したのかも知れません。
事故翌年の2008年に国際便は近隣空港で運航され、Congonhas空港ではnarrow bodyの国内線だけが運航されるようになりました。

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