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航空機事故から学ぶ:燃料が詰まった⁉︎②

燃料に化学物質が混入して詰まった:2010年4月13日、インドネシアSurabaya発香港行きCX780便(Airbus A330型機)は、順調に飛行を続け、到着地の手前165NMでFL240から降下を開始したところ、異常音と振動を生じた。FDMにEngine 2 stallの表示が出たため、機長はthrottleをidleまで落としたところ、異常は消失した。機長は香港approachにPAN PANで緊急通報した。150NM手前で今度は左側エンジンが同様な表示となったため、両エンジンともidle positionとなり、高度維持が出来なくなった。throttleを入れても推力が上昇しないので、あと60NM地点の7,500ftで副操縦士はMAYDAYを宣言。不時着水に備えてditching check listを確認した。前年に(Hudson川の奇跡と称される)着水事故の成功事例があったものの、白波が立つ南シナ海で成功は困難と思われた。
機長は左エンジンのthrottleを、mm単位で優しく押し上げたところ、これが奏功してfull throttle positionで推力74%まで回復できた。5,500ftで水平飛行となり不時着水は免れたが、今度はthrottleをidleまで戻しても、推力が74%のままで固定してしまった。空港の5NM手前でVFE196ktを上回る230ktも出ていたが、機長は果敢に着陸を強行。17時43分に通常より100kt速い速度でバウンドしながらRWY 07Lに機体を接地させた。逆噴射は左側エンジンしか作動せず、必死のfoot brake操作で、機体を長さ12,500ftある滑走路端直前で停止させた。機体停止後、主車輪のブレーキディスクが1,000℃まで過熱して火災の危険が生じたため、機長は緊急脱出を指示。全員を乗客を機外へ退避させた。
事故調査は香港民航部と英国AAIBから派遣された調査官らで進められた。main metering valveほか全ての燃料系統から微細な白粉が検出され、これは空港の給油車に装備されているsuper absorb powder (SAP)と判明した。
Surabaya空港の給油車にあった濾過器を調べたところ、筒状の中央部に凹みがあり、筒内にはSAPに塩結晶が混在しているのが認められた。新品の濾過器に塩水を通したところ、同様な凹みと破損が生じ、ここからSAPがジェット燃料と共に燃料系統へ混入したことが示唆された。同空港は海岸近くにあり、燃料パイプ工事の際に配管が一時外れた状態だった。この時、燃料タンクに海水が混入したものと考えられた。

何が起こったのか全く解らない状況で、緊急事態下の乗務員の態度は、事故の結末を大きく別けるのだと知らされます。こうような状況では、機長は"thinking rationally"と関係者へ口述したそうです。特に印象的に感じたのは、PAN PANやMAYDAYの発出が他の事故事例よりずっと早かったこと。副操縦士がditching check listを直ぐに読み上げたのも手早かった事でしょう。二人は豪州・NZの出身で、トラブルに関して英語でのやり取りも問題なく、先手必勝で前向きに対処するcrew coordinationがうまく機能していたようです。
空港の5NM手前で推力が固定してしまったのに気付いたので、そのまま高速着陸を強行しましたが、これは大きな賭けでした。ひょっとしたらtraffic pattern上でタイミングを合わせて片方だけでもエンジンを停止させ、減速してで着陸する方が安全だったかも知れません。とにかく最後は、長い滑走路と海風が見方してくれたので、結果オーライです。

ところで、この重大事故に至ったメカニズムは一応理解できましたけれど、何故CX780便にだけ発生したのか、釈然としません。ジェット燃料に塩を混ぜるくらい造作もない事でしょう。テロの可能性はなかったのでしょうか?将来、破壊工作のヒントになってしまわないか?そういう懸念も、ふと心に浮かびました。


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