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航空機事故から学ぶ:足が出ぬまま葦の沼へ

1972年12月29日の新月の晩、Eastern Air Lines401便L1011型機(N301E)はNew York JFK空港からMiami空港に向かってアプローチ中だった。機長は入社30年超で総飛行時間3万時間目前の超ベテランで、副操縦士、航空機関士、それにMiamiへ移動中の整備士が操縦席に陣取っていた。機長がGear-downを指示したところ、Nose gearが緑に点灯せず、同機はMiami Approachへ2,000ftでのCirclingをリクエストした。

N301Eは同年納品された新鋭機であり、自動操縦装置が導入されていた。高度2,000ftで自動操縦をセットした。Gearの出し入れを繰り返しても緑ランプが点灯しないため、電球切れを疑って外してみたが、電球に異常はなかった。機長はたった20セントの電球ごときでバタバタせねばならぬとは!と憤慨しながら、航空機関士へHell holeと呼ばれる操縦席直下の覗き窓へ降りて、gearが出ているかを確認するよう指示した。着陸灯を点灯していなかったため、新月の晩では外は何も見えず、機長は点灯して再度確認するよう指示を出した。

TCAは同機が900ftまで高度を落としているので、状況はどうなっているか?と問い合わせたが、Radarの精度が当時は精密ではなかったので、高度が低過ぎとは指摘しなかった。方位180°で最終アプローチへ向かうよう指示された時、機長らは初めて高度がひどく下がっていることに気づいた。機長はHey, hey, what's happening here!?と叫んでthrottoleを全開にしたが間に合わず、23:42に同機は空港外れの湿地帯へ着陸するように墜落した。

墜落当時に地元の漁師がは湿地帯で漁をしていて、401便が超低空で上空を横切り、その後墜落したのを目撃した。直ちに現場へswamp用のboatで急行し、生存者を救出しながら、国境警備隊のヘリに懐中電灯で墜落位置を知らせた。墜落現場は燃料の滑油で油まみれで、ムシやワニが生息する。生存者は過酷な環境にも耐えねばならなかった。機長は操縦席内で生存していたが、I'm going to die...と言葉を発して絶命したという。
乗員乗客176名のうち99名が死亡したが、生存者のうち8人が湿地帯に生息する嫌気性菌でガス壊疽を発症し、高圧酸素療法にも拘わらず更に2名が亡くなった。

NTSBの調査官らは事故機のauto-pilotシステムを取り外して別の同型機へ装備し飛行させてみたが、異常は見られなかった。先行機のNational航空607便操縦士からも、着陸に当たっての支障は何らなかったと証言を得た。回収されたCVRからは、設定高度±250ft超(即ち1,750ft)で警告チャイムが鳴っており、A/Pが正常に作動していたことが確認された。

事故から2か月後、EALの操縦士が、操縦席でchartを落とした時、操縦桿を気付かぬままに押してしまい、作動中のA/Pを切ってしまったことがあると公聴会で証言した。FDRを詳しく見ると、23:37:20に高度が下がり始めており、その時刻のCVRを聴取すると、機長が機関士へ振り返って話しかけていたことが分かった。恐らくその際に、機長は操縦桿を腕で操縦桿を軽くbumpさせたと想像された。

事故機のnose gearは実際展開しており、それを表示する$12の電球が切れていただけと判明した。NTSBは、担当する機体が指示通りに飛んでいなかった場合、ATCの呼びかけを徹底することを勧告した。

着陸時にギアが正常に降りているかを確認することは重要なことですが、乗員がそれに執着すると、aviation-firstが損なわれてしまう。最新鋭旅客機の自動操縦装置を信頼しきってしまったことも、事故発生の要因だったでしょう。機械より人間が勝っている部分もあり、人間がミスをすることもある。この微妙な関係を常に意識して操縦しなければならないと感じさせられる事故でした。
このような事故を防止すべく、後年NASAはCockpit Resource Management, CRMを研究・実用化していくこととなったのです。

機長は事故後の剖検で脳腫瘍が見つかっています。事故発生まで全く症状がなかったとは考えにくい所見ですが、NTSBは事故原因とは直接無関係な事実と結論しています。機長はかなり注意力散漫な癇癪もちの性格なようでしたが、それこそ脳腫瘍の影響ではなかったのか、気になりました。

墜落したのがMiami郊外のEverglades湿地帯と聞くと、まずワニに襲われないか?という心配が頭を過ぎます。実際ワニに襲われた者は死者を含めていなかったようだが、それだけ大惨事でワニも逃げ去ったのでしょうか?ガス壊疽が8名に見られたことは、災害医学の知識として重要です。生存した客室乗務員が燃料や滑油が漏れ出しているから、火を起こさないように!と大声で呼びかけていたが、救出活動の様子を映像libraryで観ると、タバコ片手に担架を運んでいる者がいました。当時はまだ非常事態でも喫煙が普通だったのだと思い起こされました。

知らぬ間に自動操縦装置が解除されて墜落に至ったファーストエア6560便墜落事故もご一読下さい。



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