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高い所へ行く人の血圧は低い方がいい

普段やけに頭が重い、眼の奥が痛む、首筋が張ることが続いているエアマンが血圧を測定してみると、かなり高いことがあります。日本の高血圧学会では座った姿勢で安静時血圧が140/90mmHg以上あると、高血圧と診断します。特に血管が脆くなる糖尿病がある場合は、更に5-10mmHg低めが良いと言われます。この数値は年々厳しくなってきていて、要は、血圧は低めに越したことがないようです。

年齢と共に徐々に血圧は上がるものです。何故なら誰でも加齢で動脈硬化が進行して、加圧に対して柔軟であった血管がカチカチになる為で、ある面避けがたい老化現象です。

血圧には最高血圧と最低血圧があり、例えば135/95mmHgなど最低血圧だけが高くても高血圧症です。最低血圧とは左心室から血液が大動脈へ放出され、その後大動脈弁が閉まって、左心房から新たな血液を充填している段階です。このような病態は動脈硬化があって血管の柔軟性が損なわれている場合や、心拍出量の1-2割が流入する腎の濾過機能に障害があって、謂わば血液が大血管や腎へ押し込まれない状態にあります。ですから高血圧患者の病態を理解するために、血液や尿検査で高脂血症や腎障害がないかを調べねばなりません。

高血圧状態が長らく続くと、脳卒中や心筋梗塞など、発病後生存出来てもエアマンとして致命的な病状となり易くなります。特にエアマンは上空の酸素や気圧が低い状態に繰り返し曝される訳ですから、一般人以上に積極的に治療を受けるべきでしょう。

内科医の中には受診者がエアマンであることを知らず、生活習慣を見直して、暫く服薬なしで経過を観ましょうと提案されることがあります。けれども特殊な環境に曝される仕事なので、本当は服薬したほうが安全なことが多々あります。受診時には自分がエアマンであることを必ず自己申告すべきです。

高血圧は安静時血圧値で診断しますが、安静時に血圧が低めでも、活動時の血圧が高いエアマンがいます。特に喫煙や睡眠時無呼吸症候群などで呼吸機能が低下気味であったり、鉄欠乏性貧血などで血色素量が少ないと、上空で血圧がかなり高めになっていることがあるのです。最近では、ウェアラブル端末で操縦中の血圧を確認できるようになりました。自宅でマンシェトを肘窩に装着して測定するほど正確ではないでしょうが、充分参考になる筈です。

1日の中で血圧は随分と変動します。一般的に日中の活動中に血圧は高く、夜間就寝中の血圧は低いものです。以前は1日の血圧変動を知るために検査入院をしたりもしましたが、近年では小型化された自動血圧計で、24時間もしくは7日間連続で活動時血圧を定時的に記録する機器が健康保険で利用できます。これなら外来でだけ血圧が上がる白衣高血圧も鑑別出来ます。

特に夜間就寝中に血圧が下がらず、むしろ上がっている方がおります。こういう方はディッパーと呼ばれて、寝ている間に脳卒中を起こしやすいタイプと言われます。自分が高血圧か懐疑的なエアマンは、乗務中も含めて活動時血圧を調べて見るのが良いでしょう。

治療を要する自然発症の本態性高血圧症と診断されて、航空身体検査が不適合となることはまずありません。降圧剤の種類は血管拡張作用で血管内圧(血圧)を下げる薬、副腎から分泌される昇圧ホルモンを阻害する薬、自律神経に作用して血圧を下げる薬、血管内の余分な水分を取り除く利尿剤など色んな種類があります。

一部、抑うつ作用をもたらす降圧剤(レゼルピン)などをエアマンは服用できませんが、他の薬剤で充分に適切なレベルまで降圧が出来るものです。どういう降圧剤を服用すべきか分からなかったら、航空身体検査医に相談して、処方を決めて貰ったらいいでしょう。

一部の高血圧があるエアマンは「死ぬまで薬を飲まねばならなくなる」等と言って、服薬を先延ばしにしたり拒絶したりしますが、これは大きな間違いです。このような態度を取って、「薬を飲まなかった為に早死にした」エアマンを何人か知っています。特に職業パイロットで、現役中は渋々内服治療をしていたが、引退してシップを降りて治療を止めた途端に心筋梗塞を起こした方もおりました。

どうしても内服治療を受けたくないと固辞するのであれば、生活習慣の見直しで血圧を下げるしかないということになります。日本人で特に重要なのは、肥満体のエアマンはまず運動と節食で減量すること。ボディーサイズが小さくなれば、心から拍出する血圧も自ずと下がります。次に、塩分摂取量を控えめにすること。体内のナトリウム血中濃度が下がると、余分な体液貯留がなくなり、血圧が下がります。これらの努力が成功すれば、降圧剤を複数飲んでいる患者では、種類を減らせる場合が多々あります。適度の運動も減量に寄与して、血圧を下げる筈です。

総合病院で働くドクターから伺った話ですが、入院して減塩食を出され、1日の塩分摂取量が6-9g程度に下がると、従前服用していた降圧剤が効き過ぎて血圧が下がり過ぎる患者がいるそうです。当然、降圧治療を緩和することが出来て有難いのですが、管理栄養士から食事指導を受けても、多くはその内容を退院後に守れず、結局元に戻ってしまうとのこと。こういう話を聞くと、高血圧症は生活習慣病なのだと納得できます。

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