航空機事故から学ぶ:力任せで堕ちた
1996年10月31日、TAM航空402便(Fokker 100型機PT-MRK)は、ブラジルのSao Paulo空港からRio de Janeiro空港へ向けて35分のフライトに午前8:26離陸を開始した。機長はベテランで、副操縦士27歳は副操縦士に昇格して1週間の新人であった。
RWY 17Rを滑走中にautothrust outの警報が点灯し、機長は問題ないとしてmanual modeで離陸を継続した。機体が浮上後に右へ傾き、上昇速度が一旦落ちたが、機長は水平に回復させた。ところが機体は再びにrollして、今度は回復できず、離陸から25秒後に滑走路先にあるJava Clara地区へ墜落。乗員乗客95名全員と、地上の住民4名が巻き添えとなって死亡した。墜落地点の近くには小学校があり、事故当時800名ほどの学童がいたが、難を逃れた。
ブラジル空軍事故調査予防センターの調査官らは事故現場へ赴き、thrust reverserがパカパカ開閉していたとの目撃者談を得た。エンジンは墜落時点まで高速で作動していたこと、フラップは規定通り8°出されていたことを確認した。
回収されたFDRは米国NTSBへ送付され、専門の調査官が解析を担当した。当時は半導体からのデータ読み出しの経験が少なく、106項目に及ぶデータが無事に抽出できるか冷や冷やであったという。
これらFDRの情報から右側2番エンジンの推力が、idle→full→idle→fullと不自然に上下していた。thrust reverserは作動していたことが確認されたが、これはタイヤが接地していなければ作動しないよう設計されている。バケットのアクチュエータは作動試験で問題なく、センサーが誤作動してバケットが開閉したことが考えられた。この問題に対する安全対策として、同型機にはthrottle retard back to idleというシステムが設定されていた。
CVRを解析すると、発進から4秒後にautothrottle out #2が警報され、乗務員は何が起こったのか分からず、困惑していたことが音声から察せられた。FDRとCVRを経時的に解析すると、安全システムとしてthrottle idleになったのを、副操縦士が誤解して無理な力でfullに3回も戻していたことが分かった。このため左エンジンはfull、右エンジンはfull reverseとなってしまい、機体が裏返しとなって墜落したと結論された。
事故を受けてTAM航空へはこのような事例への訓練強化、Fokker社に対して警報表示の改善を勧告した。
副操縦士が無理に戻していたthrottleレバーのケーブルは、事故後の検証実験で900Lbもの力でコネクタが外れて切れていました。Safety cableは632Lbの力まで耐えるとされていましたが、いずれにしても副操縦士は渾身の力でthrottleを押し上げていたのでしょう。火事場のバカ力と云っては気の毒ですが、警報が点灯している中、何故throttleが3回もidleになることを異常と思わなかったのでしょう?バケットが展開していたことは気付かなくても、片肺で水平飛行が安定していたのだから、余計なことをして墜落してしまった訳です。機長は”No!No!No!No!No!No!”を繰り返していましたが、ベテランと新人のCRMが不完全だったと思わざるを得ません。Fokker機のreverser malfunctionは1/100万回とのことですが、TAMではsimulator訓練していなかったのは残念でした。
操縦にcriticalな場面で何が起こったか分からない状況となった時、まずは操縦機器から両手足を離して様子を観てごらんと教官から教わるものです。これは最新鋭機でも同じことが云えます。そして機体が安定していたら、それに無闇に手を出して壊す必要はないのです。
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