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航空機事故から学ぶ:左席だけおかしい③

電波高度計の故障で地下を飛んでいることに!:2009年2月25日、トルコ航空1951便(B737-800型機)はBoeing社の従業員を含む乗員乗客135名を乗せて、トルコのIstanbul空港からオランダAmsterdam空港のRwy18Rに向かって、着陸アプローチに入っていた。機長は機種移行の訓練操縦士を右席の乗せ、教官資格をもつ副操縦士をsafety pilotとして後部ジャンプシートに座らせて航行していた。
同機は滑走路の手前まで順調であったが、突然急速に高度を下げて、10:26amに滑走路の手前1.5km地点に水平に叩きつけられるように墜落した。機体は3つに分断され、操縦室内の3名と客室前方に座っていたBoeing社乗員3名を含む9名が亡くなった。
オランダ航空機安全委員会が操作に着手したが、2002年製造の新鋭機であったので、米国NTSBの調査官らも調査に加わった。
墜落現場の実地検分ではエンジンに異常はなく、燃料も充分残っていて、機体にも異常を認めなかった。事故当時の視程が3,200mから2,200mへ悪化していたので、microburstによる墜落も考えられた。しかし回収されたFDRを解析してみると、風向風速は一定であり否定的であった。
CVRを分析すると、8,300ft上空からLanding Gear Configuration Hormから"Too low, gear!"がずっと鳴っていた。その際、FDRデータでは着陸装置が展開された時に、左席の電波高度計だけは水面下の-8Ftを差す異常が見つかった。またLocalizerの捕捉が滑走路の手前4NMと近かったため、いわば階段状に急速降下するslum dunk approachになっていた。これら2つの要因が重なって、エンジン出力を絞って急降下中のところ、500ftの高さで接地時のエンジン出力機能を調整するretard modeがidleとなり、失速状態に陥っていた。それに気づいた訓練生は機首を下げてthrottleを入れたが、機長が訓練生から操縦を代わった際にthrottleが再び自動でidleへ戻ってしまい、エンジン出力が上がらないまま機体の立て直しが間に合わなかったことが分かった。
電波高度計はAuto-throttle Systemと連結しており、左席の電波高度計のデータが入力される設計のため、これが-8Ftを表示していると、このような誤作動を起こしたことが明らかとなった。
事故機の電波高度計アンテナは4つのうち1つが破損せず回収され、動作状況に異常はなかった。整備記録を調べると、同様なトラブルが過去2回も起こっていて、コンピュータをシステムごと入れ替えていたことも判明した。以前の事例では、異常に気付いた操縦士が自動操縦を直ちに解除して手動で着陸したため、事なきを得ていた。
事故調査時点で電波高度計の故障は235件も報告されていたが、Boeing社は重大な問題ではないとして、抜本的な改善を行っていなかった。

滑走路へのアプローチが距離的に詰まってしまい、着陸をやり直さずに無理に下そうとしたため、自動操縦装置の誤作動も相まって、滑走路目前で墜落してしまったというお粗末な事故です。
それにしても事故機の電波高度計が-8Ftを事故前から時々表示していたのに、会社は何ら抜本的対策を取っていなかったのでしょうか?B737型機への移行訓練を受けているパイロットでなくとも、右席の電波高度計が正常な対地高度を表示していたので、まさかthrottleが自動的にidleまで落ちているとは考えなかったでしょう。一般的に着陸前は前方の見張りと速度計など計器類のスキャニングに集中すべきですが、一瞬ギアやスロットルレバーにも目を向けるべきです。事故の状況から推測すると、ジャンプシートに座っていた教官がこの危険な状態に一番気づき易かったと思われます。こうなる前に誰かが"Go-around!"と一声発すれば防げた事故でした。
この事故は機械的な故障よりプログラムのバグが原因だろうから、コンピュータをシステムごと入れ替えたというのは常套手段ではあります。けれども、その後のフォローアップが杜撰でした。様々な航法システムは機長が座る左席の機器と連動していますが、機器の故障は左右同率で起こることは前のシリーズでも述べました。左右双方の計測機器と連携して誤作動を防止するプログラムでないと信頼が出来ず、恐ろしいです。航空機運航システムの専門家が「今日の飛行機は複雑すぎることになっていないか?」という航空機メーカーへの問いかけは重大です。

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