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思い馳せたり、請け負ったり

HONEY ROSIE HOUSEでおしゃれを営む寺田蘭世さんがNoteに引っ越してきてしばらく、私の日々はうるおっている。

ただそれにしても、かの日記を読んでいると改めて思う。なんとも大変な人であると。元より、目に見える力によって自分の生き方を肯定してきた人ではない。しかしそれにしたって、難儀な道を歩いているように映る。

昨今さっこんは個性の時代だが、それゆえ個性のスペックがものを言う。だが、個性を何より重んじる蘭世さんの在り方は、個性のパワーゲームとはまた違ったものを感じさせる。ささやかさであり、それでいて粘り強く、不思議とたくましい。

多様性の世界というのは時に残酷であり、尖って目立つものや物量ぶつりょうで押せるものが結果的になんもかんもを塗り潰していくことがある。そんな中、あの人は自分と自分の活動をベタ塗りにさせまいとしている……ように見える瞬間がある。

あるいは、HONEY ROSIE HOUSEに通うお客さんに対してすらそうなのかもしれない。みんなに買って欲しいが、みんなを全く同じにしたいわけでもないようで。それぞれがより良くカスタマイズしていくよう、うながしてもいる。

見たまんまでわかることもあれば、数周おくれでわかることもあり、未だ全然わかってないことも多々あろうが、私はそのあたりに何かを感じていた。

そんな蘭世さんがこのたび、2025年1月8日から有楽町マルイでポップアップを行うという。今回は委託形式で、おもに自前のトートバッグを販売する。

トートバッグと言えば、忘れもしないHONEY ROSIE HOUSEの第1回ポップアップの商品でもあった。丁度たまたまトートバッグが必要になるタイミングでもあったので、渡りに船と意気込んでもいた。

しかし「住所入力が亀よりも遅すぎる」というかなしい理由によりチケット争奪戦に記録的惨敗を喫し、手にすることができなかった。

だが、だからといって、そのためのお金でよその立派な代替品をがっつり買うのはしゃくだったので、ダイソーに200円で売ってるやつでしのぎ続けた。

流石はダイソーと言うべきか、運用上の支障はなんもなかったわけだが……、ここまでくるとそういう問題ではない。遂にときが来た。

今回販売されるトートバッグは新型であり、あのとき買えなかったものとは違うが、元よりHONEY ROSIE HOUSEは一期一会いちごいちえが連なったお店である。望むところだと言いたいところだが……、さてどうしよう。

今回、私は年末年始で入り用だったので回せる予算がさほどない。その上、8年使い続けたiPhoneを流石にそろそろ新調しないといけない。端的たんてきに言ってお金があんましないのだ。しかし会場は電車で1時間くらいの距離であり、五種類あるトートバッグを1つ買って帰るぐらいのことはできる。ならばそれで……、

……ん?

ふとしたことからXで検索している際、「私の代わりにHONEY ROSIE HOUSEで買ってきてくれませんか」というむねのポストを見かけた。関東住みではなく、来店が難しい人のようだ。フォローしあってはいるがさほどの関係性はない。素通りしても良かったのだが……、私の中の気まぐれな部分が顔を出す。

それも良き……か。

1つの感触として、ここで不義理を働く人間ではなさそうだ。どのみちHONEY ROSIE HOUSEの売り上げがちょびっとあがることだけは変わらない。

そういうわけで請け負ってみた……が、インフルエンザがこええのなんのって。請け負ってなくても怖いのだが請け負うと輪をかけて超こええ。

しかしなんやかんやで1月8日。無事、五体満足で電車に乗る。定刻より1時間も早く出発したが、私という人間の絶望的な移動能力を舐めてはいけない。

もっとも今回は順調だった。持病の影響からいっぺん降りてまた乗ったりもしたが、そういう儀式にはもう慣れたものだ。無事、開店より1時間早く到着する。あとは店の位置を特定してその辺の小粋なカフェで時間を潰せば……。

あれ? どこだ……?

私は知らなかった。有楽町マルイとは言うほど有楽町マルイではない。有楽町イトシア(ITOCiA)の中に有楽町マルイがあるからぱっと見は有楽町イトシアであり、現地の地図にもその名で載っていたり載っていなかったりする。

今考えると、iPhone様のお力に頼り切らず、建物を遠くから見た画像をあらかじめ探しておけばこんなことにはならなかったのだが……、嗚呼あぁ、反省。

……とまあ、今回もまた絶望的な移動能力を発揮しつつ、なんやかんやで有楽町マルイにたどり着く。案内板に「ポップアップスペース」の文字があるから流石にここだ。やったぞ。遂に……遂にたどりついた!(※駅前徒歩30秒)

例によって例のごとく、不要なくだりでだいぶ時間を使ってしまったが、トイレにいきたくなったので近場のスタバに入っていったんしきりなおす。インフルが流行っているので当社比1.5倍で手を洗い、任務を請け負っているのでさらに1.5倍で手を洗う。前回買ったネックレスは出かけたときから付けてある。

よし、いくぞ!

ここまですったもんだしてきたが、開店5分前にここにいる時点で勝ち確と言っていい。今回のターゲットは新商品のみであり、そして今日は初日だ。大量に用意しているはずのものを2つずつ買えばいいだけなので気楽な気分で……。

あ、ヤバい。緊張してきた……。

おそらくこれは有楽町マルイの雰囲気がそうさせるのだ。デパート的な大きい建物の開店前には独特な空気感がある。開店3分前のあの感じ……、悪くない。この緊張感は良い緊張感だ。楽しい緊張感だ。

開店!

場所は2階と聞いている。エスカレーターで2階に上がって首を振る……あ、あった。HONEY ROSIE HOUSEのロゴがぶら下がっている。

なんとも……感慨深い……。

かつておとずれた、この世のどこかに出没にする隠れ家的なポップアップともまた違う、広い世界に接続しているこの感じにも別の熱さがある。両方やるというのも、これまた蘭世さんらしさなのかもしれない。

それではお買い物をしよう。トートバッグは全五色。実はまだ、どれを買うのか決めていなかった。イエローかグリーンにしようと考えてはいたのだが、そこから先は現地の自分に任せたかった。はてさて……、

グリーン、良いな。

グリーンが写真より良く見えたのでグリーンを選ぶ。写真より良く見えたので写真は載せない。これから長い付き合いになることを予感しつつ、ひとまずは他の物にも手を伸ばす。とりわけ、缶バッチにらしさが感じられる。有楽町マルイのあのビシッとした空間の中にふわっと隙間すきまが空いているかのようだった。

あ、そうだそうだ。忘れてはいけない。フォロワーから請け負った分をキープしなければ……、よし、確保。ここまでくれば一安心。あとは清算を……

蘭世……さん?

物陰に一瞬、見慣れたシルエットが視界をよぎる。そういえば、現地にいるかもみたいなことを言っていた。いるならいるで大っぴらに登場しないなんてことが有り得るか? アイドルやってた人でそんなことが有り得るか?

……有り得る。なんとも困ったことにそのひとなら十分有り得る。

さあどうするか。私は答えを知りたがる人間だ。本当に蘭世さんなのか確かめるなら、ここでいったん粘った方が……、いや、違う。

仮にあれが蘭世さんであったとしても、ここで粘るのは考えものだ。このスペースにおける人の密度や場の空気は下手に長居するもんじゃない。

ならば!とすみやかにお会計を済ませ、いったん離れて違うフロアにいって、フォロワーからの請け負いがちゃんと正しかったかどうかをすみっこで今一度確かめて、いったんまた降りてきて、後ろ髪を引かれつつもすぐ建物を出た。

後日、知ったことだが、ほんの一瞬ちらっと垣間見たあの姿はやっぱり蘭世さんであったらしい。なんとも奥ゆかしい人だ。

買いたいものを買えた。さあ、ここからがひと仕事だ。

建物を出た後、電車にすぐ乗りたくない病を発症しつつも、請け負ったブツを安全に運ぶ使命感により昼食ちゅうしょくを食わずに帰宅する。ラーメンの汁とかかかったら一巻の終わりだ。何が地雷になるかわからんし余計なことはしないに限る。

帰宅。そして作業。送ること自体はそう難しいもんでもない。住所を聞いて、アプリを開いて、送り状を作って、郵便局に持ち込めばそれで終わる。ただそのかん、可能な限り丁重に扱うべきなので、そのひりつきはちゃんとある。

いざ送ったら送ったで、ちゃんと届くかとそわそわする。日本の輸送機構を信じてはいるのだが、万が一が起ころうもんならややこしいことになる。

そしてなにより、相手方をぬか喜びさせたくない。DMの文面越しに伝わってくるウキウキ感が台無しになるところを見たくない。

そわそわ。そわそわ。1日って、2日がって……、

届いた! やったー!

初めて代行なるものを行った感想としては……、たまにやる慈善事業というやつは心にうるおいってやつをもたらすようだ。行けなくて哀しかった経験は私にもある。喜んでもらえたのは私も嬉しい。実に良い経験をさせてもらった。

機会があればもう一度やりたいか否かで言うと、費用がそこそこのものならまたやってみるのも良きである。万札を何枚も積む案件となると「もしも」のリスクを背負い難くなるし、金属系のほそいやつはなどは心情的にちょい怖い。

……なんてことを考えつつ、ふと思う。

蘭世さんのHONEY ROSIE HOUSEは個人経営であり、加えて一期一会いちごいちえのポップアップ方式だ。アイテムの扱いについて、これと比べるのは失礼なぐらい大いに気をつかうことになるのだろう。きっとすごい大変だ。

しかし蘭世さんはそれをやりたかったのだ。おしゃれに対するいろいろな関わり方の中でそれを選んだ。あのかたはそういう人なのだ。私が多少なりとも知っている寺田蘭世とは確かにそういう人であり、今もそういう人なのだ。いざ言葉にしようとすると難しいのだが、とにかくそういう人なのだ。

そんなこんなに思いを馳せつつ、今日も私はトートバッグを持って外に出る。


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