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あの名作に法的観点から突っ込む~桃太郎Vol.1

はじめに
 誰もが知ってる昔話・桃太郎を法律家が勝手に法的観点から突っ込みを入れてみようと思う。桃太郎は、簡単に言うと、おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきたので、これをおじいさんと一緒に食べるために持って帰り、割ろうとしたところ、中から桃太郎が出てきて、おばあさんにきび団子を作ってもらい、これで、猿、鳥、犬を家来にして鬼退治に行き、鬼から財宝を奪い村人に分けるというお話である。
 ざっとあらすじを書いただけでも、いくつかの法的問題が浮かんでしまうという代物である。これを一度に書いてしまうと、長くなるので、今回はVol.1として、川に洗濯に行ったおばあさんが流れてきた大きな桃を持ち帰ったところまでの部分に突っ込んでみようと思う。本来なら、全何回で、何回目にどこまで書くのかを俯瞰するのが望ましいけど、その時の気分等により、筆の進み方が変わるので、申し訳ないけど、行き当たりばったりということにさせてほしい。

物語の始まりはおばあさんが川に洗濯に行くところから
 桃太郎では、おばあさんが川に洗濯に行く。桃太郎がいつの時代のお話かよく知らないが、現代には、河川法という法律があり、河川管理の在り方が規定されている。河川法の適用があるのは、1級河川と2級河川のみ。それぞれ細かい要件があるのだが、ざっくりいうと、1級河川は国土交通大臣が指定した河川、2級河川は都道府県知事が指定した河川である。関東だと利根川、荒川等が、関西では淀川、大和川等が1級河川の例である。2級河川は、1級河川よりも小規模の河川というイメージでざっくり理解しておけばOK。桃太郎の舞台がどこなのかよく分からいけど、おばあさんが洗濯に行った川はそんなに大きな河川ではなく、1級河川はもちろんのこと、2級河川にも指定されていなさそうである。1級河川、2級河川のいずれにも指定されていない河川を普通河川といい(厳密には河川法が準用される準用河川もあるけど、細かいので割愛)、必要に応じて市町村長が条例を制定して管理している。河川は公共物として私権の対象にならない。そして、おばあさんが洗濯に行った川は河川法の適用がない河川なので、法定外公共物と呼ばれる。
 法定外公共物は、従前、国が所有し、都道府県が管理するとされてきたが、平成12年から始まった地方分権化の促進により、平成17年3月31日までに法定外公共物は国から市町村に譲与され、現在はすべての法定外公共物が市町村の所有になっている。

 市町村が所有する普通河川をおばあさんが私的に利用することができるのか?
 どうやらおばあさんが洗濯をしていた川は現代なら市町村が所有し管理する普通河川のようである。法定外公共物をおばあさんが私用で勝手に利用してもいいんだろうか?
 おばあさんの足で洗濯ものを担いでいき、帰りは濡れた洗濯物を持って帰るくらいだし、のちに触れるようにおばあさんは大きな桃まで持って帰ってきたのだから、きっと洗濯をする川はおばあさんの家からそれほど遠くないと推認される。
 それに、おばあさんは絶好の洗濯ポイントとして一人でこっそりを洗濯をしているわけでもなさそうで、きっと村のほかの人も日常的に洗濯をしているのであろう。そうすると、村人たちは入会権(いりあいけん)という権利を持っていて、村が所有し管理する普通河川を利用することができたのだろうと推認される。入会権というのは、慣習法上、認められた権利で、一定の地域の住民が生産・生活に必要な物資を得ることを目的に村落共同体がそう有する山林原野等(入会地)に立ち入る権利である。おばあさんが所属する村落の入会地である川で洗濯をしていたとみるのが最も素直だろう。

 大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきた。
 桃は、土地に定着するものではないから動産である。おばあさんは、動産である桃を家に持って帰ったわけだが、この行為は民事・刑事両方の問題を含む。
 まず、民事的な観点からは、桃が誰かの所有か否かという問題である。もし誰かの所有であれば、流れてきた桃は落とし物にほかならない。おばあさんは、遺失物法に基づいて警察(おばあさんの時代なら代官だろうか?)に届け出る必要がある。他方、桃に所有者がいない場合、無主物先占(むしゅぶつせんせん)といい、所有者のいない動産を所有の意思を持って占有した場合、その人の所有になる(民法239条1項)。
 桃太郎の流れてきた桃に所有者はいるのだろうか? これは難しい問題である。あれだけ大きな桃だから品種改良されたものである可能性があり、そうであれば誰かが栽培していた可能性を否定できない。他方、桃太郎が入っていたという事実を直視すれば、それは人の手によるものではなく、人知を超えた存在によって作り出された可能性の方が高いように思える。所有権の主体は、飽くまでも「人」でなければならない。そうすると、桃が人知を超えた存在によって作り出されたものであれば、所有者がいないことになり、おばあさんには無主物先占の適用があり、桃の所有権はおばあさんにある。
 次に、刑事的な観点からは、桃を無断で持ち去った行為が犯罪に当たらないかを検討する必要がある。動産を勝手に持ち帰った場合、まず考えられるのは窃盗罪である。窃盗罪は、他人が占有する財物を奪うことで成立する(ほかにも要件はあるけど、今は割愛)。桃は他人が占有していると認められるだろうか? おそらく認められないだろう。というのも、川をどんぶらこどんぶらこと流れてきたのだから、仮に持ち主がいたとしても桃をうっかりと川に流してしまったとしか思えない。だから、おそらく、桃は誰かの占有に属するものではなく、占有離脱物(せんゆうりだつぶつ)であろう。占有離脱物とは端的に言えば、落とし物である。乗り捨てられた自転車も占有離脱物である。
 占有離脱物を勝手に持ち帰った場合、占有離脱物横領罪が成立する可能性がある。占有離脱物横領罪が成立するには、不法領得(ふほうりょうとく)の意思が必要である。不法領得の意思とは、端的に言えば、物の本来的・経済的用法に従って利用・処分する意思のことである。おばあさんは、流れてきた桃をおじいさんと一緒に食べようと思って持ち帰っており、これはまさに桃の本来的・経済用法に従って利用・処分する意思があるといえるだろう。ということは、おばあさんには占有離脱物横領罪が成立するであろう。

 ここまで読んでどんな感想を持ったでしょうか?
 くそつまらないという感想をお持ちの方もおられるでしょうし、法律って意外に身近なもんだなという感想をお持ちの方もおられるでしょう。皆さんの反応を見て続編を書くかどうか考えることにして、今日はここで筆をおきたいと思います。
 お読みいただきありがとうございました。

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