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夢夢 第4話
この同居生活が始まってからというもの、特に事件という事件はなく全てが順調に進んでいた。このままもう何十年か先までこんな生活が続くような…でもまぁ実際、記憶を無くした男、複雑な家庭環境で一人暮らしをしていた女が2人揃って暮らして、何事もなく日々が続いているってのも不思議な話である。まぁ、これに関しては非常にありがたい。さくらという女の子と2人で暮らせるなんて機会何度人生を繰り返してもそうそう巡り会えそうにない。この機会を大事に使わせてもらおう。
まぁでもしかし、そんな奇跡みたいな日常ってのは案外すぐに壊れてしまうものだったみたいだ。
「あれ?無いな…」
「いや…?昨日はどこにも出かけてないし…外に忘れるなんてことありえないし…」
今俺は、絶賛無くし物中である。そうネックレスをだ。家を出る時に母から貰った銀のネックレス…俺が昔から大事にしていたらしい…別に母親の形見とかそういう訳じゃないがこういう家族との繋がりみたいなのは割と大事にしたい派なのである。捜し物あるあるの「まだ本腰を入れて探してないからないだけでもうちょい本気で探せばすぐあるだろ」フェーズに突入した段階の俺はそう焦ってはいなかった。
だがしかし…無い…どこにも…
「嘘…だろ…無い…」
『おはよ…○○…』
「あ、あぁ…おはようさくら…」
『どうしたの?そんな悲しそうな顔して…』
「あ、いや…ネックレス…無くしちゃってさ…」
『え…あの大事にしてたやつだよね?お母さんから貰ったっていう…』
「うん…」
『確か昨日、私のカメラと一緒に置いてなかったっけ?』
「あ…!」
「そっかじゃあこの引き出しに…!」
『「あれ?」』
「カメラも無いね…?」
『な、なんで??』
『昨日ふたつ一緒に置いてたよね…??』
「う、うん…」
「さくら、昨日出かけた?」
『ううん、出かけてないけど…』
『あ……○○…昨日私、夜なにもしてなかった…?』
「いや、ごめん完全に寝ててわかんない…」
『もしかしたら…私、夢遊病で…』
「いや、それは考えすぎだよ…」
『ごめん…なさい…ほんとうに…』
「だからさくらは悪くないって…!」
『迷惑かけてばっかだね…私…』
やめてくれ、迷惑なんて思った試しもない。俺の人生が君がこの家に来てからどれだけ楽しいものになったか…そんないまにも涙が溢れてしまいそうな目でこっちを見ないでくれ…
これ以上は、言わないでくれ…
『出ていくね…○○…今日のことは本当にごめんなさい』
「いや…まっ」
『また!いつか会えたらその時は今までの分のお返しするから…!』
『お世話になりました…』
呆然とする俺を残して彼女はこの家からいなくなってしまった。
「無理やりにでも止めれたよな…俺…」
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prrrrr…prrrrr…ガチャ
「あ、店長!ごめんなさい急に…今日俺バイト休みます。理由…は…が、学業です!すみません!」
携帯片手に街中走るなんて昼ドラみたいなことをしながら全力で俺はさくらを捜索中である。
幸い?彼女は荷物も最低限にほぼパジャマみたいな服装で出かけで行ったから目立つ格好はしているはずである。
ちょうどあんな風にピンク柄のパジャマを着たスタイルのいい女の…子…!
さくらだ!!
「さ、さく…」
いや、待てよ、男といるだと…??
おいおいおいどういうことだ…、いやさくらがそんな当てずっぽうに男の家に泊まりに行くような女の子じゃないことは知ってる…。
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「はぁ…これじゃストーカーかな…」
捜索の次は尾行である。もう次の昼ドラは俺が主人公でいいのではないだろうか…
しかし、さくらがついていった男、なんだ?若いようにも見えるけど、ちょっと老け気味じゃないか?清潔感もないし…
ワン!ワン!
「うお!!」
『っ!○○!?』
「あっ…ど、どうも」
犬公め…余計なことを…
『着いてきてたの、もしかして…』
「う、うん…やっぱさ帰ろうよ…」
『でも…私がいると○○に迷惑かけちゃう…』
「そんなこと!」
「ちょっと待った!さくら、この人だれ?」
『あ、この人は今まで私を家に泊めてくれてた…○○くん。』
「あぁ、君が○○くんか、さっきさくらに聞いたよ…」
「ど、どうも」
「僕は、遠藤徹、さくらの叔父です。」
あぁ、こいつがさくらの叔父か…さくらから慰謝料全部巻き上げたクズ人間
「さくらの叔父さんが今更さくらに何の用ですか?」
「君にそれを話す必要はない…さくらはこれから僕と暮らすんだ。」
「だいたい、さくらをパジャマ姿で外に出しておいてその言い草はなんだ…?」
『叔父さん!それは違くて!』
「まぁ、そんな目立つ格好してくれたおかげでずっと探してたさくらに出会えたから良かったけど…」
「おい、あんた、さくらに何するつもりだ…」
「何って…僕は彼女の保護者だよ?戸籍上ね…」
「クソ野郎!お前がさくらの人生を台無しにしたくせに!何ほざいてんだよ!」
『○○…』
「人生を台無し…、あぁもう聞いてたんだ、僕が彼女の慰謝料をって話」
「じゃあもういいや、親になるなんて体にしなくても…」
「さくらは姉さんに似て顔がいいからね、ちょうど振り込まれた慰謝料も使い切ったところだし…この子にはもう少しお金を稼いで欲しいんだ」
人生で初めてだった。こんなに人の顔を気持ち悪いと思ったのは…
人生で初めてだった。こんなに絶対に俺が守らなくちゃって思う人に出会ったのは。
その瞬間、俺は初めて人の顔を殴った。
「お、お前…何すんだクソが!」
「どっちがクソだよ!」
初めての瞬間からそう時間は経たずに2発目は訪れた。
「お前が、さくらの叔父だと!?」
「弟なら!姉ちゃんの大切にしてたもんくらい守ってみせろよ!」
『○○…やめて!』
「さくら…!」
『ごめんね…また迷惑かけちゃったね…』
「戻ろうよ…さくら…俺さくらがいないとさ寂しいよ…」
『でも…』
「迷惑なんかじゃない…だってさ俺、さくらが」
このクソガキが…
俺が好きって2文字を言う前に、俺の意識は途絶えた。
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『○○…!!』
「お、おれを殴ったからだ!お、、お前が悪いんだぞクソクソ!!」
『だ、誰か!!誰か助けてください!』
私がそう叫ぶと、幸いちょうど日曜日だったためだろうか大勢の人が家から顔を出してきた。
「や、やべぇ俺捕まるかも…」
『○○!○○!大丈夫!!?』
○○が大丈夫じゃないことは、わかってる…だってこんなに頭から血を流してるんだから…
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命に別状はありませんが、このまま意識が戻らない可能性が高い、私が医者から聞いた言葉だ。どうやら昔の事故の影響もあり、頭への損傷は特に大きなダメージとなったらしい。
彼の母親は私から事情を聞くと、私を責めるでもなく、しばらくは彼の家を使っていいと言ってくれた。
私は彼の言いかけた言葉を頭の中で反芻しながら彼の家のベッドの上でこう呟いた。
『また…迷惑かけちゃった…』
涙なんか流したって何にもならないのに止まらない涙と共に私はいつの間にか眠ってしまった。