不動産屋のお姉さんに推されて
推すことはあっても誰かに「推しです」と言われる日が来るとは思わなかった。
しかもそれが不動産屋のお姉さんだなんて。
「恋人と一緒に暮らしている」
そう言うと大抵「じゃあもう結婚だねえ」と言われてきました。同棲の期間は1年、また1年と続いて、3年経つ頃には「ここはまだ結婚しないでしょ」に変わってきました。笑いながら言われて「そうだねえ」ってへらっとしながら返して。だけど、へらっとしながら心はもやっとしていました。気にすることもないんだろうけど、なんとなく引っかかって。こういう日は、宙ぶらりんな現在や未来への不安を乱暴に恋人にぶつけていました。勝手に哀しくなって自分が惨めに思えてめそめそして。困った顔の恋人に「”今”結婚したいの?」って聞かれると全然そんなことはない気がして。自分の気持ちすらも分からなくなって。
「次はこむぎの番だね」とか「もうすぐ結婚なんじゃないの」と言ってきた本人たちから次々に結婚報告を受ける度に心はずっしりと重たくなりました。人それぞれだって分かっていても、もやもやしないわけじゃなかった。どろりとした言葉を一方的に投げつけて不貞腐れたように眠った翌日、先に起きるわたしに合わせて恋人が暖房のタイマーを入れてくれていたことがありました。申し訳なさでいっぱいになって、優しさが沁みて。寝顔を見ながら泣いたあの朝を境に、自分の中でようやく何かが吹っ切れました。
わたしは無意識のうちに「こうしなくちゃ」「やらなくちゃ」に支配されていることがあります。「みんなそうだから」って。本当にそれってみんな?って思うことも「一般的には」なんて理由をつけて。一般的に同棲5年って長いんじゃないの、って勝手に思って不安になったりして。
恋人は一緒にいることでわたしをより自由にしてくれるひとだなと思います。ひとりでいる時よりも彼といる時の方が自由になれる。「こうしなくちゃ」「やらなくちゃ」の呪縛から解き放ってくれるひとです。
周りに言われた言葉で不安になって焦って結婚、なんてそんなの望んでいなかった。「”今”結婚したいの?」と聞いてくれた恋人は、ちゃんとふたりでの話し合いを促してくれた。わたしたちにはわたしたちのタイミングがあるのだと、そう思えて安心できた。
そのタイミングは同棲を始めて6年11ヶ月目にやってきました。
2022年2月22日、スーパー猫の日。
本日、結婚してきました!わーい!!
本当は別日の予定だったのですが、タイムラインに猫さんがたくさん溢れる幸せな日なので毎年嬉しくなりそうです。しかも今年はスーパー猫の日ですしね。にゃおんにゃーにゃー、にゃーにゃーにゃー。
とはいえ同棲約7年。長かったなあという気持ちもやはりあるのです。
だけどそんなわたしたちに真っ向から「おふたりはわたしの推しです!」と言って下さった方がいました。タイトルにもある通り、不動産屋さんのお姉さんです。
結婚を機に引っ越しをすることになり、訪れた不動産屋さん。そこで担当して下さったお姉さんは、わたしたちが約7年一緒に暮らしていて…という話を聞くなり目を輝かせました。「素敵です!憧れます!」と。同年代の友達に話すと心配されることの多かった年数です。自分でも「恥ずかしながら7年同棲していて、」なんて気持ちでした。それを「憧れる」だなんて。
お姉さんは自分の同棲失敗談を話し、わたしたちにコツを尋ねました。なんだろうと思いながら話すわたしたちの会話を真剣に頷きながら聞いて「優しい!」「素敵!」と手放しに誉めてくださいました。仕事だから悪いことを言うはずないのは分かっています。それでもそのお姉さんの言葉にこれまでの暮らしが誇らしく思えました。
一般的な同棲期間より長いであろう6年11ヶ月のこの期間を、長くて恥ずかしいものではなく、素敵な生活だったと思えたことがものすごく嬉しかったのです。
お姉さんに紹介してもらった家で来週から新生活が始まります。
新婚生活というほどの新鮮さはさすがに今さらないのですが、わたしたちなりのペースで日々の暮らしを楽しんでいけたら良いなと思います。
ずっと暮らしたかった街での新生活、楽しみです!
こちらの件、突然の質問に「え、まあまあ…?」と答えたところ、後輩から「紅茶とお菓子どっちが良いですか」と直接質問されましたのでご報告致します。