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「待つ」にまつわる心の風景
春が来た!
今年は寒い冬だったから、春の暖かい陽射しはありがたく嬉しい。
月1回開催しているアートセラピーグループで春の絵を描いた。
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描きながら、雪国で暮らしていた子ども時代のこと、春を待ちわびていた気持ちを思い出していた。
今年は日本海側、北海道はかつてないほどの豪雪に見舞われている。
私が暮らしていたのは新潟県上越。半世紀も前のこと・・・
当時の記憶では、年越しのあたりから雪が本格的に積もった。朝起きると家のまわりには雪の壁ができていて薄暗かった。学校へ行くためには、まず母が玄関から通りに出るまでの道を雪かきをする。
バス通学をしていたので、除雪車がすでに通ったあとの道にある停留所でバスを待つが、バスは大幅に遅れることがよくあった。学校へ着いたらお昼になっていたなんてこともあった。
学校近くのバス停で帰りのバスを待つ間、除雪されてうず高く積みあげられた雪山で友だちと遊んでいたら、足がズボッと腿の付け根まで埋まって、足を引き抜くことに難儀した。なんとか足は抜けたけど、長靴は脱げて、雪の中にしっかりと捕らえられ、取り出すことができない。足はジンジンと冷えてきて半べそ状態だった。友だちが学校まで先生を呼びに行ってくれて、先生がスコップ持って駆けつけてくれて長靴を救出してくれた。
冬場の登校スタイルは、ズボンの上にゴムズボンを重ね履き、ゴム長靴、スキー用のアノラックという重装備。学用品が濡れないようにビニール袋に教科書やノートを入れてリュックに入れる。(今ほど、リュックの性能は良くなかった)
雪の降り始めの頃は、雪遊びに夢中になり、週末は社宅のみんなでバスを借りて日帰りスキーに出かけるなど楽しみももちろんあった。けれど2月になるともう雪にはうんざりしていて、ひたすら春が待ち遠しかった。
スカートが履きたくて履きたくて、3月の声を聞くと「今日はスカート履いていい?」と母にせっつくが、まだ雪が多いからダメと言われたものだった。
3月下旬になると、ようやく雪が少し溶けて、地面が見えるようになるけれど、雪かきあとにできる雪の小山はそのまんま。でも地面が見えることがすごく嬉しかったのを覚えている。やっと自転車にも乗れる!と。
こんなふうに、子ども心に春を待ち焦がれる想いは特別だった。
私たちは人生のなかで実にたくさんの「待つ」を経験するものだ。
サンタさんを待つ、お留守番で母の帰りを待つ、夏休みを待つ、発表会の出番を緊張して待つ…
東京の大学に行っていた姉の帰省を心待ちにしていたときもあった。
恋人からの電話を待ちわびて、眠れない夜もあったっけ。
初めての出産を待つときの不安の混じった、そして早く我が子に会いたい気持ち。
のんびりな子どもの行動を待つときには忍耐が必要だった。
イライラして「早くしなさい!」って急かしたことも多々あった。
子どもたちの入学試験の結果をドキドキしながら待ったり…
夫の手術が無事終わるのをひたすら祈って待ったことも。
家を離れていった息子たちが実家に帰ってくる大晦日は朝から、布団干し、お節を作り、慌ただしく、そしてウキウキしながら待つ。
「待ち遠しい」「待ちきれない」「待ち焦がれる」「待ちくたびれる」「待ちぼうけ」「待ってました!」「待っててね」「じっと待つ」・・・
「待つ」の向こう側には大切な誰かがいて、時があって、季節があって、情景があって、たくさんの想いを抱えて待つ。
そして私たちは、「待つ」ことで生じるさまざまな気持ちをときにもてあまし、しんどくなり、苦しくなり、じれったくなり、気を紛らわしたり、向き合ったり、折り合いをつけたりして、日々を生きている。
世の中の動きはますますスピーディーになり、効率性が重視され、待たせること、待つことは、ネガティブに捉えられてしまいがち。だけど「待つ」という行為には、心を豊かにしたり、育んだりする大事な要素もいっぱい詰まっているように思う。
「待つ」ことは、時間をかけること、心を使うこと。こんな時代だからこそ、「待つ」ことから生まれてくる心の風景に目を向ける感受性を大切にしたい。
子ども時代の春を待つ思い出から、こんなことが頭の中を巡ったのだった。
「待つ」ことについて考えている人、誰かいないかな?と探していたらこんな本のタイトルが目に止まった!
「『待つ』ということ」鷲田清一著(角川選書)
哲学者の考える「待つ」はどんなだろう。早速、読んでみたいと思う。
雪国にも早く春が来ますように!
最後までお読み頂きありがとうございました。