「ウクライナの子ども絵画展in加須」を終えて
戸恒和夫(埼玉・加須市)
いよいよ開催まで1週間を切った6月4日、宅急便で送っていただいた箱を開梱したとたんに、ウクライナの子どもたちの作品が、まるでカラフルな花びらと無数の蝶が一斉に飛び出して来たように広がり、その見事さに大変な衝撃を受けました。
どの作品にも溢れているのは、戦時下のウクライナで、命を、夢を、家族を、友人を失いたくない!という心の叫び。世界中に届けたい平和への渇望。
同時に、際限ない悲しみと恐怖、渦巻く敵愾心と怒り、肉親への愛、愛国の意気と葛藤とが、混在しているのです。
長野の原さんから聞いてはいたものの、112枚の絵には、何と言っても実物のみが持つ無二の迫力があり、例えば裏を返したときに、机の板面で黒くこすれた跡が見えたりして、
「そうか、何時間もこの画面に向かっていたんだなあ…」
と気付かされます。画面に向き合った作者たちの、眼差し、息遣いまでが感じられ、直に胸を打つのです。
この絵画展を田舎まちの加須市で開催するについては、私自身経験もなく、成功できるかどうか全く自信がなかったのですが、話に共鳴してくれた数人の励ましを受け、
「子どもたちの絵を展示するにあたっては、今までにないほど、できる限りいろいろな市民団体が幅広く協力して運営する形を実現したい」
「これまでの議論やいきさつはさておき、子どもたちの絵をまんなかに置いて、改めて静かに考え、語り合える場にしたい」
ということでした。
実際、〇〇党系、△△教系といった違いは超えて、市内の9つの団体が実行委員会に入ってくれ、さらにアトリエを主宰するご夫婦やそのご友人が会場のデザインを含め設営を請け負ってくださったこと、またそこに新しい感覚で弾みを与えてくれた方もいて、元気百倍!準備が進んだのです。
その中心になったのは市内の子ども食堂と、フードパントリーの連絡会で、「子どもについては立場を超えて町じゅうで協力」の活動実績が広く信頼されていたことが大きかったと思います。
加須市、加須市社協の後援を付けたのですが、一番神経を使ったのは市教委でした。
結果はOKで、市教委事務局からチラシとポスターのセットを全30校に送ってもらったのですが、彼我共に、どうも腰の引けた対応が大きかったように感じました。小学生はともかく、中学校・高校生徒に食い込めなかった点が最大の反省点でした。
当日は、3日間とも、こちらの不安を打ち消すように朝からにぎやかに来場者が続き、子どもたちはお絵かきなどに夢中になって、平気で30分位ずつ居てくれました。
大人たちもゆっくりと構えてくれて、また感想文には腰を据えて取り組んでいたのが印象的でした。
来場者は3日間で418名を数えました。この人数だけでも「大成功!」と大喜びしたのですが、さらに感動したのは、アンケートの感想文をまとめ、スタッフで共有した時です。
・せんそうがきたらこわい。(ママと)
・人によって「希望」を描いている人と「絶望」を描いている人がいて、とらえ方がちがうんだなと思った。また、白と黒の絵がいくつかあって、自分はそれがかなり好きだなと思った。(14才男)
・とても考えさせられる企画でした。子どもの絵に武器が描かれているのはショックです。でも、これが現実なんですね。戦争は本当に良くないです!(50代男)
・絵はもちろん、文章もショックだった。考えさせられる。戦時下の子どもたちが大人や社会からどんなメッセージを受け取っているか、想像できる部分が、あった。(50代女)
・ウクライナの絵画展、ありがとうございます。21世紀には、世界中から戦争がなくなり、平和な社会になると思っていましたが、ウクライナを始め、むしろ多くの国で争いごとが起きていることがとても残念でなりません。なんの罪もない人たち、特に子どもを犠牲にする戦争は、許してはなりません。平和のため、ウクライナの子どもたちのため、私にできる行動をしていきます。ありがとうございました。(60代)
・もっと広く公開してください。(60代)
・この絵画展がいろんな地域で開かれて、たくさんの人に知ってもらいたいと思いました。(40代女)
・皆が自分の町、国を愛していることが分かり、文章を読んでから作品を見ると、心の内側から声を上げていることが分かる。戦争から救ってほしいのではなく、見知らぬ土地にいる私たちが戦争を知らないままでいてほしいと願っているのが、皆一様にキレイな心の持ち主だなと思った。いつかこの子たちが赤ではなく、澄み渡る水色を多く使う作品が描けるようになることを願います。絵画展を開いてくださり、ありがとうございました。(女)
・絵は国境を越えて伝えられるメッセージだと思いました。(20代男)
・すてきな絵がありました。けど、せんそうはいやです。(11才男)
・みんな大変なのに、私たち他の世界の平和を願ってくれていることに子どもたちが傷つきながらも、心の底から平和を願っていることはもちろんですが、「私たちは強い」と口をそろえて語っていることが苦しいです。強くあるしか生きる術がなかったということか…(50代)
・日本の戦前のような「必ず勝利する」などの言葉を、子どもたちが何の疑いもなく使っていることに複雑な感情を覚えた。(30代)
・絵画から、筆を執っている子どもの命を感じることができ、胸を打たれた。ウクライナの状況を身近に思うことが出来た。ぜひたくさんの人に見てもらいたい。(40代女)
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――以上は、回収したアンケートの感想部分234枚のごく一部ですが、会場を訪れた皆さんが、真剣に感想をしたためてくださる姿には、正直感動を覚えました。
会場では初めてお会いする方を含め、何人かの方と感想を語り合うことが出来たのですが、いちばん頭をひねったのは、作者たちの発する「私たちは必ず勝利する!」「国のために戦う!」というメッセージでした。
現実の戦争の渦中にあって、発せられる言葉だけに、さすがに重い言葉です。
そこで、「日本の子どもにもこのように切実に平和のために戦いをいとわない気持ちが必要ではないのか…」と語りだす方がいました。
なるほど、こうした考えから、防衛力を強化・敵基地攻撃能力・抑止力の必要といった議論が出てくるのでしょう。この考え方は、そう簡単には乗り越えることが出来そうにありません。
でも今回、生の声と最も近い形でウクライナの子どもたちの絵に接することが出来、戦争を起こさないためにこそ、団結が必要なことは、誰とでも共有できたと思います。
貴重な機会を与えてくれた、NPOチェルノブイリ救援・中部の皆さんに感謝します。