教員は日々学ぶのだけど
言うまでもなく、教員の最も大切な業務は授業である。36年間の高校で化学を教えてきた私にとって、授業とその準備を何よりも優先している。教科書の内容は、その時代に合わせて学習指導要領が変更されて、変わっている。しかし、化学は化学の内容はほとんど変わらず、今まで教えてきたことを授業していればよかった。
昨年度実施の新学習指導要領が発表されたときも、理科の科目名と単位数に変更がなかったため、今と同じように授業していればいいと思っていた。
しかし、新しい教科書を見て驚いた。特に「化学反応とエネルギー」の分野で大きな記述の変更があったのだった。「反応熱」が「反応エンタルピー」に変わり、今までの熱化学方程式の形も変わっていた。
(旧課程)CH4(気)+2O2(気)=CO2(気)+2H2O(液)+891kJ
↓
(新課程)CH4(気)+2O2(気)→CO2(気)+2H2O(液) ΔH=ー891kJ
大学生の頃使っていた物理化学の教科書を開くと、大学で教わってきたのと同じ形になっていることがわかった。大学との連携を意識しての変更であったのだ。そういえば、若い頃日本化学会発行の「化学と教育」という雑誌に東大の某教授が、「高校で教えている熱化学方程式は意味がない」と書いていたのを思い出していた。それならもっと早い段階で変更すべきだったのではないかと思いながらも、もう一度大学の物理化学を学び直すチャンスとなった。
反応熱と反応エンタルピーは絶対値は同じだが符号が逆である。反応熱は反応に伴って系に出入りするエネルギーであるのに対して、反応エンタルピーは系の内部のエネルギーの変化である。化学反応は圧力が一定の状態で起こるので、エンタルピー変化で表すことが最も適切であることもわかった。
また、エントロピーも高校の教科書に登場した。大学生の頃、どうしても理解できずに悩んでいたものである。しかし、教科書を読み込んでいくと、私が高校生の頃、当時の化学の教科書に記載されていた「乱雑さ」を示す値であることがわかった。30年以上高校の化学の教科書から消えていた「乱雑さ」が復活したのである。そして乱雑さを数値で表したものとしてエントロピーが登場したのである。
大学の物理化学では、きちんと数量的に扱うことになるが、高校で生徒に理解させることは、化学反応は「エントロピーが小さくなる方向に起こりやすい」「エントロピーが大きくなる方向に起こりやすい」「実際の化学反応はエンタルピー変化とエントロピー変化のどちらが影響が大きいかで方向が決まる」くらいである。後はどのように授業を展開すればいいかを研究すればいい。
教科書の発展の部分では「ギブズエネルギー変化」も扱われている。これが化学反応の方向を決めるものであることも書かれている。これも簡単に扱うことにした。大学生の頃は理解できていなかったことの要点が理解できたように思う。
今回の改訂では、2族元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)のすべてがアルカリ土類金属と呼ばれるようになった。しかし、Be、Mgとそれ以外の元素とはかなり性質が違うので、ひとくくりにすることは無理があるように思う。また、12族元素(Znなど)も遷移元素に加えられた。細かいことではあるが、注意していないと間違って旧課程の内容を教えてしまいそうになる。
以上、授業する上で学び直したことを書き並べてみた。教員は常に学び続ける必要がある。教員としての人生も終わりに近づいたが、常に学び続ける自分でいたい。