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胸騒ぎの膝枕② 「虫歯のブルース」…膝枕リレー3周年記念に自作外伝の続編を作ってみた

はじめに】


※この作品は、脚本家 今井雅子先生の【膝枕】の二次創作ストーリーです。朗読の題材としてお使いください。読まれる時はご一報くださると幸いです。

音声SNSクラブハウスで2021年5月31日から始まった脚本家・今井雅子先生の「膝枕」を読み次ぐ「膝枕リレー」
アレンジ作品、外伝もたくさん生まれ、2024年5月31日で3周年を迎えました。
ヒザーズ‼️
音声SNSクラブハウスでの「3周年記念お祝い」ルーム
  ↓

桜井ういよさん作の記念アイコン

2022年に私の初めての膝枕外伝「胸騒ぎの膝枕」をノートにアップさせていただきました。
「胸騒ぎの膝枕②」は↓の作品の続編になりますので、こちらを先にお読みいただけると幸いです。
もちろん、初めてお読みになっても結構です。

2023年の記念作品は「悪魔の膝枕」
私の誕生日が6月6日悪魔の日と呼ばれることからインスピレーションを得て書いたものです。

そして2024年の3周年に向けて、1年ぶりに膝枕外伝の新作を描かせていただきました。


胸騒ぎの膝枕②
「虫歯のブルース」

「ママ〜マ〜マ〜」

三連休の初日の朝

ヒサコは娘の栞に揺り起こされた。
連日の残業に疲れ、今日はゆっくり寝ようと思っていたのに一体何?

「歯が痛い〜〜」

マジかーー?

ヒサコは頭をかきながら起き上がり
「お口あーーんしてみ」
と、栞の口を開けさせ中を覗き込んだ。

寝ぼけた目ではよく見えない。
ヒサコは、スマホのライトを点灯させ、栞の大きく開けた口の奥を照らした。
左下の奥歯が黒ずんでいる。

「マジかーー!」
ヒサコは思わず声に出してしまった。

ヒサコは、歯の質が弱いというのか、幼い頃から歯医者への通院が耐えなかった。
我が子には辛い思いをさせたくなかったので、かなり早いうちから虫歯ケアには気を遣ってきた。

栞が自分で歯を磨けるようになっても、必ず仕上げ磨きを怠らなかった。

ところが、半年ほど前から会社で新しいプロジェクトのリーダーを任され急に忙しくなった。

栞の弟ケイスケも2歳になり動きも活発になり、追いかけ回すのに一苦労である。
保育所に子供達を迎えに行き、家事を終えると電池が切れたように寝てしまうことも多い。家事は夫のナオキと分担しているが、彼も会社では責任ある地位になり、キャパオーバーのはずだ。

「ん?どうした?」ナオキが目を覚ました。
スマホのライトが夫の顔に当たっていた。

「あっ起こした?ごめん!」
ヒサコは慌ててスマホのライトを消した。「栞が歯が痛いって」
「マジかーーー?」ナオキもヒサコと全く同じ口調でリアクションした。
歯医者…やってないよな…休日診療とか。…」
寝起きの脳みそを必死に回転させて絞り出したナオキの言葉を遮るように「桜井に電話しよう」とヒサコはスマホを手にする。

「桜井君って…桜井君のところも今日は休診だろう」と心配そうなナオキを無視して、ヒサコはスマホをつかみ電話をかけ始めた。

桜井は、ヒサコの幼馴染だ。
父の後を継いで、歯科医院を開業しているが、幼い頃は気弱で、しょっちゅう桜井を泣かせていた。
だが、なぜかヒサコに懐いて、子分のように跡をついてまわっていた。

「あ、あ?ヒサコちゃん?」
やはり寝ぼけ声で桜井が電話に出る。
「今日家にいる?栞が歯が痛いって言うのよ」
「今日は…えーと祝日だよね…だから…」

「誰なの?」と電話の向こうで声がする。
桜井の妻のエリだ。
桜井はエリにモタモタと状況を説明するが、突然うわっと叫び声がして、エリが電話に出た。桜井のスマホを無理矢理取り上げたらしい。
「ヒサコちゃん?すぐ栞ちゃん連れてきて!」
「エリちゃん…今日は祝日だから」後ろで桜井の弱々しい声がする。
「何言ってんの?栞ちゃん痛がってるのよ!かわいそうでしょ」

エリはヒサコの親友だ。
ヒサコは自分で圧が強い女だと自覚があるが、エリ圧はヒサコの数倍上を行っている。
桜井、相当なMだなと、2人の結婚が決まった当初ヒサコは思ったものだ。


栞は桜井デンタルクリニックのリクライニングされた治療用の椅子に仰向けに寝ている。
視線はライトのあたりに取り付けてあるモニターに釘付けだ。
モニターには栞の大好きなディズニーのアニメが流れている。
桜井が「うちは小児歯科もやってるから」
と胸を張るだけあって子供を和ませる設備は整っている。
桜井の着ている白衣も、白ではなくうすいピンクで、胸のところにミッフィーちゃんがプリントされている。
「似合わねー」とヒサコは心の中で思う。

桜井はデンタルミラーで栞の口内を見ながら
「んー虫歯来ちゃってるね」
「そんなこと言われなくてもわかっとるわ」
「ちょっとチクってするけど大丈夫だからねー」と桜井が麻酔薬の入った小さな注射器を手にした途端、今までご機嫌にディズニーアニメを見ていた栞が突然「いやぁーーーーー!!!」
と絶叫し足をばたつかせて暴れ出した。
栞のキックが見事に桜井のみぞおちに決まり、桜井は「うっ」と、うめいて座り込んだ。

数分後腹を押さえながらようやく立ち上がった桜井は、
「じゃあうちの秘密道具を出すか」
ともったいぶった態度でヒサコと栞を、診療室の横の小部屋に連れて行った。

「うわぁ可愛い」と栞が叫んだ。
そこには腰から下だけの人形のようなものが数体置かれていた。
それぞれ違うデザインのスカートを履いている。

「桜井デンタルクリニックの秘密道具、デンタル膝枕〜〜〜」とドラえもんぽく桜井はいい、
「どれでも好きなのを選んでいいよぉ」と猫撫で声で栞に声をかけると、
栞は「これ!絶対これがいい!らぷんちぇる」
と、ラベンダー色のスカートを履いた膝枕を抱きしめる。
ディズニーアニメのお姫様の中で、栞が1番お気に入りのラプンツェルが着ているドレスそっくりだ。

「説明しよう!このデンタル膝枕はお子様がリラックスして治療を受けられるように作られているのだ」
桜井が得意げに解説する。

ヒサコとナオキが共に愛用している「胸騒ぎの膝枕」より、ずいぶんサイズが小さい。
子供の頭にフィットするように作られているのだろう。

最近は娯楽要素だけではなく医療現場でも膝枕が活躍していると、どこかで聞いたことがある。
患者が膝枕に頭を預けると、リラックス効果があるだけでなく、患者の身体状況を細かく記録し、ナースステーションや医師の端末にデータを送ることもできるらしい。

「そんないいものがあるなら先に出せよ」
ヒサコは毒づく。

ラプンツェル膝枕に頭を預けて診療台に横になった栞は、さっきとは全く違う穏やかな表情だ。
「説明しよう!この膝枕からは、心が落ち着く成分の入ったミストが出ているのだ」
「わかった、わかったから早く治療はじめろ」

デンタル膝枕の効果は絶大で、栞の治療は滞りなく終了したが、何度か通院しなければならないようだ。

「栞ちゃんは、ケイスケくんが生まれてしっかり者のお姉ちゃんのように見えるけど、まだ4歳だから。歯磨き後のチェックはきちんとしてあげてね」と桜井。

「うんわかった。その点は反省してる」

かつて下僕扱いしていた桜井にこんなあたりまえな忠告をされるのは少し癪に触るヒサコだったが、自分でも後悔しているので、ここは素直に受け入れることにした。

待合室に戻り、「あ、そうそう。休みの日に診てくれてありがとう。助かったわ。これ、みんなで食べて」とヒサコはエコバッグから老舗ベーカリーショップの紙袋を取り出した。
早朝から営業している人気の店だ。
「ヒサコちゃん…」と桜井は目を潤ませながら手を出した。

「あっエリ!!!」
ヒサコは桜井が差し出した手を無視して、かけだした。 
エリが臨月のお腹をさすりながら、奥から出てきたのだ。
「これ買ってきたのよ。」
ヒサコはベーカリーの紙袋をエリに手渡す。
「きゃーアサヒベーカリーじゃん!ありがとう」
「エリのおかげでほんと助かったよ。美味しいパン食べてお腹の赤ちゃんにも栄養あげてね」
桜井は紙袋を受け取ろうとした手の形のまま「治療したのはオレなんだけど」と小さく呟きながら、2人のやり取りを悲しげに見つめている。

診療費を支払い、ふと栞を見ると
いつのまにかラプンツェル膝枕を抱えている。
「あっ栞ちゃーん、それはおじちゃんのだから返してもらっていいかなぁ」
「やーだー。らぷんちぇると一緒に帰る〜」
栞は駄々をこねたが「またここに来るから。ここにきた時いつでも会えるから」と説得すると、ようやく栞は膝枕を桜井に手渡した。

「じゃあ栞ちゃん、また来てねー」
と手を振る桜井に
「そこは『お大事に』だろ」とツッコミを入れて、クリニックを後にした。

夜、栞とケイスケが寝静まった後、ヒサコとナオキはそれぞれの「胸騒ぎの膝枕」に頭を預け、しゃららーずのナンバーを聴きながら昼間の話をしていた。

「胸騒ぎの膝枕」とは、しゃららーずという大御所バンドのファン向け仕様の膝枕だ。
ナオキもヒサコも共にしゃららーずのファンで、「胸騒ぎの膝枕」が2人の間を取り持ったキューピッドだと言っても過言ではない。

栞の歯痛でドタバタと始まった三連休の初日だったが、久しぶりのくつろぎタイムを迎えた2人だった。

「桜井のところに通院することになったからまたラプンツェルに会えると、栞は納得したけど…」
ヒサコはナオキに、クリニックでの出来事を話す。
治療最終日に、もうラプンツェル膝枕に会えないとわかると、ダダをこねるのではないか?

最近は子供用膝枕も売り出されるようになり、「子供にいつ膝枕を与えるか」は親の悩みの種である。

「うちには、むなちゃんがいるからなあ」とヒサコが頭を乗せている膝枕を指差してナオキが言う。

栞は、ヒサコの「胸騒ぎの膝枕」が大好きだ。
第二子ケイスケが生まれた当初は赤ちゃん返りをし、色々ワガママを言ってヒサコやナオキを困らせたものだ。
そんなある日栞が「胸騒ぎの膝枕」に頭を預けたのだった。栞が保育園での出来事を話すと膝を揺らしたり、パチパチと合わせたり…いつしか栞は胸騒ぎの膝枕を「むなちゃん」と呼んで友達のように接するようになった。
以前は栞はお友達と取り合いをしたりトラブルを起こしたものだが、むなちゃんと仲良くなってからは、お友達関係も良好なようである。
仕事で忙しくしている2人は、「胸騒ぎの膝枕」に本当に助けられたのだ。

むなちゃんのAIは栞が幼児だとわかっているようで、しゃららーずの優しいムードの曲を流す。

時々、栞がしゃららーずの曲を口ずさんでいると
…しめしめ、とヒサコは思う。
子供達をしゃららーずファンにして家族全員でライブに行くのがナオキとヒサコの夢なのだ。

「ラプンツェルが欲しいと言い出したら、むなちゃんが寂しがるよって言ってみたら」
ナオキがアドバイスする。
「そうだよね。うんうん」
栞は大好なむなちゃんが寂しがると思ったら、ラプンツェルを桜井に返すだろう。
「うちは胸騒ぎの膝枕があればもう何もいらないよね」とナオキが言う。むなちゃんとナオキの膝枕も膝を合わせてパチパチ拍手をした。

「だけどどんなに忙しくても、子供達の虫歯ケアだけは忘れないようにするぞっ」とヒサコが力強く宣言すると、膝枕たちは応援するように、膝を上下に揺らした。


拙い文章を最後までお読みくださってありがとうございました。

★ここに登場する、「栞が桜井のお腹をキック」するエピソードは実話です笑。子供時代、夏休みに母方の祖父母宅で私は急な歯痛に見舞われ
母ヒサコの同級生の桜井歯科で診察を受けた時、大暴れして、桜井先生のお腹に蹴りを入れたのでした。
大人になってからも、桜井先生から「この子には昔蹴られたんだ」といじられていました。
★「虫歯のブルース」はしゃららーずのモデルのサザンオールスターズ の曲です。

2024.5.31「うきと朗読人達の朗読部屋」でトップバッターで膝開きさせていただきました。
お聞きくださりありがとうございました。


膝開きをした翌日、毎日膝枕リレーを繋げてくださっている鈴蘭さんが、早速に作品連続で朗読してくださいました。嬉しいです。ありがとうございました。


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