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【読書記録】 いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件


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大崎善生さんの『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』という本を読んだ。2007年に起きた名古屋闇サイト殺人事件についての記録。正直、当時東京で生活していからか、そういう事件があったなくらいの感じで記憶にほとんどなかった。それを思い出したのは、ずっと後になってhonzの書評を読んだのがきっかけなんだけど、それを見てからまた時間が経ってしまい。再度思い出したタイミングで購入し、そこからは一気に間に読み切った。

この本が他の事件のルポタージュものと異なるのは、大部分が被害者の磯谷利恵さんの側から綴られていること。母親や友人、恋人とのやり取りの中で、被害者がどのような女性であったかを丹念に描き出している。凛とした女性、というのが読んでいて感じた印象。そしてきっと魅力的な女性だったのだろうなと。

一方で、加害者側が犯行を計画し実行する過程も記載されている。事件の描写は読んでいて目を覆いたくなるようなものだけれど、そこに至る過程から胸糞が悪くなる。二つのストーリーを読んでいて本当に同じ本を読んでいるのかと錯覚するくらい。水と油くらい交わらない。それは被害者が殺害されることになる描写でもそう。生きようとして戦い抜いた利恵さんと、残虐な暴力を振りかざす加害者側で、こんなにも見えている世界、感じている世界が違うのかと。事件後の裁判の描写になって交わって、ああやっぱりそれは現実に起こったことなのだと再確認してまた苦しくなる。

読み終わった後は、いや、読んでいる間ずっと、何で真っ当に生きている女性がこんなにも理不尽な殺され方をしなければならないんだろうと、やりきれなさが残って仕方なかった。この本に描かれているエピソードのどれか一つでも違っていたら、こんな最悪な結果にはならなかったんじゃないかって。そのまま名前を知られることもなく、恋人との幸せな生活を築いていたんじゃないかって。文字通り幸せの絶頂から、理不尽に無残にも命を奪った犯人は許せない。

書籍あとがきにはその後のことも触れられていて、恋人が家庭持ったという記述もあって、それは素直に良かったと思った。数学博士になるためなら身を引くことも考えていた利恵さんだからこそ、恋人の結婚を祝福してるだろうなと。
あと何よりびっくりしたのが、書籍でも触れられていた利恵さんのブログが今でも残っていたこと。そこには遺族の強い意志が感じられて、また確かに一人の女性が生きた証があって、胸につまった。読み終わって数日経つけれど、ふと思い出しては喪失感を覚えてしまうような、そんな一冊。


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