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【短編小説】12/31『108の鐘の音とコタツを彼女と』
近所のお寺で鐘を突く音が聞こえる。最初のうちは二人で数えてたけど、二十を超えたあたりから眠くなってきて、やめた。
「羊じゃないのに眠くなるんだ……」
彼女がコタツの天板に顔を乗せて言った。
「単調な作業が眠さを誘導するんでしょ。あと、やっぱコタツって眠くなる」
「んー。なんかやることあったっけぇ」
「ないよ。全部昼間のうちに終わらせたもん」
「だよねぇ。洗濯も掃除もして、年越しそば食べて、明日のおせちもできてて……完璧すぎない?」
「すぎるすぎる。俺にはもったいない奥さんだよ」
「ありがとう。お互いさまだよ」
普段から同じようなことを言い合ってるから、褒めるのが普通になってしまっている。
「去年の大晦日ってなにしてたっけ……」
「えー? 大晦日は覚えてないかも。元日なら、午前中に初詣行って……そういえば水餃子、作ってくれたよね」
「えー? あー、そうかも。アイス買ってきてくれて寒かろうと思って作った気がする」
どうだったっけ、と彼女が呟いて、本棚から日記帳を取り出した。
「あー、書いてた。『手作り水餃子おいしかった。買ってきてくれたアイスも美味しかった。』って」
彼女の日記は【食べた物ログ】になっていて、その日に食べた物とちょっとした感想が書かれているらしい。
「すごい、便利だね。俺も書こうかな」
「毎日ほぼ同じもの食べてるのに?」
「俺は食べたものログじゃなくて、作ってもらったものログだもん」
「写真で保管してくれてるじゃない」
「確かに」
俺のスマホのカメラロールには彼女の手作りご飯の写真がたくさん保管されている。名案だと思った矢先に覆され、俺の唇が尖った。
「えー、じゃあどうしよう」
「なにを?」
「来年の抱負……目標か」
「いまから決めるの難しくない?」
悩む俺に彼女が言った。なんだか楽しそうに笑ってる。
「考えてるうちに年越しちゃうよ」
「お、ホントだ」
テレビの下に置かれたHDDレコーダーの時計を確認したら、あと数分で0時を迎えるところだった。
「じゃあ、来年の抱負は来年決める」
「決まったら教えて」
「うん。あ。あと10秒」
二人でカウントダウンして、新年を迎えた。
あけましておめでとうって頭を下げて、ニコニコと笑い合う。
ホントはもう、決まってるんだ。来年の抱負。
オレと結婚してくれた彼女――妻を、一生かけて幸せにする、って。
だから来年も再来年もこの先もずっと、一緒にいてもらえるように頑張るんだ。
「よし寝よう。で、起きて晴れてたら初詣行こう」
「はぁい」
テレビを消してコタツも消して、照明も消して寝室に移動した。繋いだ手はコタツの熱でぬくもってあったかくて、あぁ、幸せだぁって……結婚できた幸せを噛み締めた。
「今年もよろしくね」
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
この先なにが起こるかなんてわからないけど、二人一緒なら大丈夫。どんな困難でも立ち向かって、乗り越えてみせる。
二人はきっと、もっと先の未来へ――。