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牧場の看板

天気の良い週末、田舎道でオットが突然Uターンして牧場の入口に車を停めた。牧場入口の看板に見たことある絵が・・・

それは数年前に夫が描いた絵。

「ああ、そういえばこの仕事をくれたお客さん、羊毛刈り職人って言うてたな。」と夫がぼそり。

羊の毛刈りのみならず、アルパカもヤギもラマの毛も刈ります---と看板に書かれてた。
これだけは今後もまず機械化できない作業やろう。

夫はこの看板をただ黙ってしばらく眺めてた。

夫は無口で強面で無表情、だけどこの時はちょっぴり嬉しそうだった。

夫は50歳を過ぎてから長年勤務した製鉄会社の早期退職者募集に手を挙げて、フリーランスのイラストレーターになった。そしてちょうどその頃に私たちは結婚した。

若い頃から趣味で新聞社に風刺画や似顔絵を投稿して、掲載されるとご褒美もらったりしてたらしい。今でも絵画展に出展して賞を取ったりする兄弟姉妹がいるので、もともと絵心がある家族の中で育ったんだと思う。

夫は早期退職後に再度学生となって商業美術を学んだ。クラスメートは20代の若者がほとんどで、講師陣ももちろん夫より皆若かった。

夫は恵まれている。たいした宣伝費も使わずに沢山の方々から色々な仕事をいただいて、自営のイラストレーターという夫の新たな生業は順風満帆。商店街のチラシの絵、児童図書の挿絵、塗り絵、似顔絵・・依頼があれば何でも描く。

日本にまだ住んでいた頃含めて、私はいつも好きな仕事をしてきたと思う。特にオーストラリアに住み始めてからは、ずーっと仕事が楽しかった。西原恵理子さんという漫画家が「指輪とお寿司は自分で買おう」とおっしゃっているが、私はその言葉におおいに頷きながら生きてきた。

会社勤めをしていた頃、仕事が楽しいと思ったことはなかった・・・とある日夫が言った。

え? 30年近くも?

私たちは超晩婚である。夫が会社勤めをしていた頃のあれこれを私は知らない。

今は好きな仕事をしてるから、どんなに忙しくても苦にならない。とても幸せだと夫は言う。

3年前、私はこの人と結婚すると同時に迷わず専業主婦となった。絵を描くこと以外の雑用と家事はすべて私が担っている。

今のところ後悔はない。


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