天使は見えないから、描かない/島本理生 感想

帯にハッピーエンドって書いてるから、ネタバレしてるじゃん、って言う人もいると思うけど、私はいいと思った。こういうネタバレの仕方、大好きなので。バッドエンドだとなかなか手に取りにくいテーマだし。



以下感想

永遠子が何故実の叔父に惹かれるようになったのか、大人になった今もどれほど遼一に愛情と執着を抱いているかが丹念に描かれている。両親があんな人達で、あんな状況で救ってもらったら、そりゃあ遼一が世界で唯一無二の人になるよね…って納得した。近親相姦がテーマだけど、気持ち悪さは全く感じなかった。

永遠子の遼一への想いが痛いくらい丁寧に描かれているのに対して、遼一の永遠子への想いの変化はどうなのかと読み進めていくけど、なかなか分からない。なにしろ遼一は好きとか愛してるとか君が必要だとか直接言わないし、彼の本心もなかなか掘り下げられないから。

永遠子が迫ったから、遼一はただ受け入れてるだけなのか?と疑問を持ちながら読んでいたけど、遼一の行動描写を拾っていくとそうではないことが分かる。帰ろうとする永遠子の腰にしがみついたりと、序盤から永遠子への執着が垣間見える(その直後にもう来ない方がいいとか言ってるけど)。久しぶりに永遠子が会いにきたときも嬉しそうにしてるし(可愛い)、離婚したあと永遠子からの連絡を待ってたとか言っちゃうし、ただ受け入れるのではなくて、遼一もこの関係を続けたいと思ってるのだと分かる。同居がスタートした夜の「終わった後も私の髪や頬にじっと顔を寄せているから(略)」がすごく良い。尊い。遼一さん、永遠子のことめちゃくちゃ好きじゃん。好きとか愛してるという言葉は使わずに、登場人物の仕草や表情で相手を愛している、執着しているのが分かるさりげない描写、良い。文章だけでそのシーンが目に浮かぶ。遼一は決して受け身なわけではない。でも、本心や好きとか愛してるとはなかなか言わない…。終盤で永遠子に指摘されてたけど。「遼一さんがどれくらい私を必要としているかは今も分からない」、そう、読者も分からない。だから、物語を読み進める。遼一が好きとか必要だとか一緒にいたいとか口にしないのは、口先だけならなんとでもいえる、そんな言葉を口にしただけでは意味がないと思っているから…??でも永遠子も読者もその言葉が切実に聞きたいんだよ。

祖母の家で「一緒に耐えてくれますか?」とプロポーズして、父親に打ち明けたあと、永遠子のことを「好きな人」とやっと言ってくれた。ああやっと言ってくれた…。


遼一が女性として永遠子を愛している、という結論は良く分かった。でも、永遠子を受け入れる覚悟を決める→永遠子を(受け身ではなく)自分から愛するようになった、何故永遠子が必要になったのか?の心境の変化が良く分からなかった。永遠子の気持ちを受け入れる(覚悟を決める)→永遠子を女性として見始めて一緒に過ごすうちに、どんどん自分も強く惹かれるようになったのかな?と分からないので勝手に解釈した。子どもの頃から年齢関係なく話が通じてた、話の合う身内同士という下地があったからなのか。改めて女性としてみたときに、「馬鹿みたいなことも真剣なことも話せて、自分を本気で好きになってくれて、正義のある女性」が永遠子であると気付いたのだろうか。

初めは女性として全く意識してなかったけど、告白されて、前からものすごく慕われていて、自分の行動一つ一つに笑顔を見せたり喜んでくれたり本気で愛されているのを感じたら、気付かないうちに相手に沼っていった(愛するようになった)っていう恋愛もあるよね…。

叔父と姪の恋愛って、描くのはものすごく難しいと思う。まず大前提として、男性側は相手が子どものときは女性としてみていない。つまり、男性側の気持ちが動くのは相手の女性が成人してから。そうでないと性虐待・グルーミングっていわれるしね。本作品のヒロインである永遠子は人並みの恋愛もしたし、結婚もしたけど、その上でやっぱり遼一が世界で唯一の愛する人だという想いは揺るがなかった。だから遼一を選んだ、という過程が大事。

Redやナラタージュは男性が何故ヒロインを好きになったのか、特別な存在になったのかという理由がはっきり示されていたけど、本作品は男性側の心理があまり掘り下げられなかった印象だった。遼一の永遠子へかける言葉や仕草が一々尊くて、何回も読み直したくなるんだけど、もう少し遼一の具体的な心情や心境の変化を知りたい…!正解は島本先生のみぞ知る、なのでいつか島本先生教えてください…!

でも、このテーマでハッピーエンドで本当に良かった。ヒロインの名前が「永遠子」なのは、二人の愛は永遠だということを示しているのだろう。素敵だなあ。最後まで読んで、とても幸せな気持ちになれた。本作品を読むまで、島本先生の作品で1番好きなのはRedだったけど、更新された。Redの塔子も、天使は~の永遠子も、決断したあとはもう揺るがないところがとても格好いい。塔子が最終的に選んだものは最愛の相手ではなかったが、永遠子は貫いた。萌と同じく、今度こそ永遠子には幸せになってほしいと思う。

ヤフコメとかレビューで近親相姦なんて気持ち悪い、モラルがないと書いてる人がいたけど、そういうテーマが苦手なら最初から読まなければいいのでは。わざわざ読んで、批判的なレビューを書き込むって理解不能。だってネットの紹介文でも帯でも叔父と姪の恋愛の話って書いてあるんだから。私は気持ち悪いとは思わなかったが。年の差CPも禁断の関係も大好物だし、叔父と姪の恋愛小説でここまで透明感のある作品は他にないと思う。

遼一の心理の変化の考察もしたいから、また読み直したい。島本先生、美しいハッピーエンドの物語を描いてくださり、ありがとうございました。

そして、永遠子を受け入れる→離れたくないと思うくらいに彼女を愛するようになった遼一の気持ちの変化について、他の読者の皆様の解釈を教えていただけると嬉しいです。

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