恋活リハビリ①〜マッチングアプリは自転車と同じ〜
「ホテルに行こう」
渋谷の安い焼き鳥屋で、たらふく食べて喋って、気づけば終電が近い
最悪歩いても帰れるし、タクシーでも帰れる。
もうすこし、こんなふうに楽しく喋りたいなぁとふわふわした感情で浮かれていた。
お店を出ると、少し雨が降り出して、ポツポツ強くなっていく。
雨予報だったから傘を持っていたのに、焼き鳥屋に忘れたことを思い出した
「あー、傘!」
取りに戻ろうかなぁと悩んでいると
田中が
「ホテルに行こう」
と言った。
「ホテルに行こう」
が最上級パワーワードすぎた、私は34歳の女とは思えないほどの動揺と、呼吸の仕方を忘れ「え?」目が点だったに違いない。
田中とはマッチングアプリで出会った。
その日のうちに「今日どう?」でタイミングがあって、飲みに行くことになった。
「恋活のリハビリと思ってやってみなよ。自転車と同じ。一回乗れたらイケるから。」
友達の一言に「そんなもんかぁ」と納得し、目の前で、そのままアプリを入れて登録。
数日放置していたら、あれよあれよとマッチが増えて「うわー、いいんですか、こんな、選んでいいんですか」謎の緊張感と、申し訳なさと、よくわからない感情のまま
器用でもマメでもない私は、一人だけメッセージを返した。
田中くん、私より4つ年下。
顔は写ってなかったけど、服装の感じがいいなぁという理由で選んだ。
車、時計、筋肉、寿司、肉の写真の人は無意識に省いていったけど、その作業にも「私なんかが選ぶようなことして申し訳ないな」と思いながら、作業のように進める
アプリ内には様々が方がいらっしゃると伺っていたため、いま思えばかなり律儀に初球から正直にメッセージのやり取りをした
「バツイチです。子供もいます。」
変化球など持ち合わせていない。
野球もボーリングも、真ん中めがけてなるべく一直線を目指す投げ方しか知らない。
相手がどういうスタンスかわからなかったので、はじめにお伝えしたところ田中はまったく気にしてない様子。
「ちょうど渋谷に行く用事があって、その前の時間まで会いませんか?」
トントン話が進みタイミングもいい
バッターボックスに立たないと試合は始まらないし、ホームランもヒットも、アウトにすらならないのだ
20時にハチ公前で待ち合わせした、わたしたちは「観光客みたいだね」と笑いながら焼き鳥屋に向かった
その数時間後に「ホテルに行こう」と誘われるとは、1ミリも思っておらず…
ポツポツ雨が降る中
「人様にお見せできるような体ではございませんのでー!(すみません、すみません、すみません)」通行人が振り返るレベルで私ははっきりお伝えした
カタブツすぎるし、その光景を想像したら笑える…我ながら、笑える
「そういえば、予定あるんじゃないんですか?」
私は悪くない、しかしこの気まずさからは脱出したい
田中は友達のLIVEがあるから、顔を出すために22時には帰ると言っていたはずなのに、もう0時前
「もう一軒だけ行こうか」
雨も強くなってきて、田中は自分が被っていた帽子を私かぶせて
ちょっと小走りで坂を下ったところにある居酒屋チェーン店で雨宿りをすることにした
気まずいのと、よくわからない悲しい思いで、わたしは言葉が出なかった
「マッチングアプリってこういうことなのか。なるほど、なるほど、、、」
田中はいつもこうしてるのかなと思うと、さっきまで「いい人だなぁ」と思ってた感情もフラットになっていく
(やりたかっただけなんですね、全然平気ですけど)を装うのに必死で、私は一体何をやってるんだろう~この時間は何なんだろう、早く雨やんでほしい、気まづい、、、
これは、マッチングアプリ界ではあるあるであり、むしろ、この流れがオーセンティックであることは後ほど知る
34年生きていても、世の中には知らない世界がまだまだあるもんだ
このシステムは合理的っちゃ合理的だな
でも、昔からこの類はあった
facebookやらmixiだって、そんな使い方もあるわけだし
スタービーチとか前略プロフとか
あ、全然関係ないけど昔、新宿で友達を待っているときにサラリーマンに声をかけられたことがあった
「テレクラで待ち合わせしていた女の子にすっぽかされちゃったので、よかったらご飯に行きませんか?」
私は穴埋めかい
しかし、その根性はすごいなと感心したものだった
新宿すげぇ、こんなことあるのかと、そのときも世の中の知らなかったシステムを新たに知り
声をかけてきたサラリーマンには、苦笑いをお返しし、もちろん一緒にご飯にいくようなことはなかった
気まずい空気の中、何を話したか覚えてないけど、切り出したのは田中だったと思う
徐々にまた楽しい会話に戻って、育った家庭環境が似ていること、好きな音楽が似ていることに気持ちがほぐれていった
もう25時で電車もない
「さっきはごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそ、、、私は歩いて帰ります」
「家どこ?」
「○○駅です」
「タクシーで帰ろう」
「え、でも田中くん○○駅だよね?全然違うから、大丈夫だよ」
「途中まで一緒だよ」
「タクシーなんて、もったいないので、歩きます!気にしないで」
「じゃあ、途中まで一緒に歩くよ」
雨も上がって、私達は歩いて帰った。
途中から右と左に分かれ道。
「また連絡していい?」
田中が少しさみしそうに言ったような気がした。
「もちろんだよ、今日はありがとう」
家に帰ってから、よくわからない消化不良の感情と、少なからずまだ女として見られたことに安堵したのは間違いない
マッチングアプリデビューの報告を親友に入れると、私のカタブツ具合に大爆笑してくれたので救われた。
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