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火遊び。

誤算だった。


まさか離婚していたなんて。
私と同じで家庭がある前提で会ったのに。
彼が自由の身になっていたなら、
私と同じ身勝手な淋しさは、もう無くない?
私なんかと会っても懐かしいだけで、
その場の、その時間を楽しむだけ。
次の日にはまた普段の生活だよね。


それより、もっと誤算だったのは、
何かと繊細に見えた大学時代とは違い、
敏腕ビジネスパーソンになっていたこと。
私に接する態度も発言も、
昔と変わらぬ面影は所々あるにしても、
どこか堂々としている雰囲気が、
もはやあの頃の彼ではなかった。
お店選びも、オーダーも、話す内容も、
リードが大人でスマートすぎた。


油断してた。


格好よかった。


これは、大きな大きな誤算。


あの時のまま、
年だけを重ねて、
少し大人になった二人で
ただ再会するもんだと思ってた。


再会して、
お酒を飲みながら、
何で別れたんだっけとか、
冗談まじりに昔話をして、
あれからどうしてた?とか、
最近こんなだよ、とか、
お酒が少し回ってきて、
最後はキズの舐め合いをする。
正直、そんな感じかと思ってた。


彼はとても優しかった。
普通に話をしている中でも、
何度も今の私を褒めちぎってくれた。
お世辞なのは分かってるけど、
それを加味しても嬉しかった。
一緒にいたら落ち着くなぁ、
あの時に僕たち結婚してたら
今どうなってたかなぁって、
たらればまで言ってた。
それを間に受ける訳じゃないけど、
そんなセリフを軽々言えるくらいな感覚、
ズルいなぁって思った。
嫌な気しないじゃん。


ま、昔の女じゃ余裕か。
最後こそ喧嘩別れしたけど、
一緒にいる間は常にカラダを重ねてた。
もはや久々の再会に恥ずかしさより、
慣れの方が強かったかも。


久しぶり。そう言った後は、
時間があっという間に過ぎた。
話しても話しても
あの頃からの積もる話は到底追いつかず、
今の彼をよく知ることは出来なかった。
それでも、距離はどこか近い。
別世界に行った彼と、
とても近く感じた僅かな時間。
好き、とはまた別の話な不思議な感覚。


帰り道、酔った彼にキスをもらった。
私はそれを当たり前に受け入れた。
影に隠れて、濃厚で、情熱的に、
たくさんキスをした。
長く、キスをした。
私も、したかった。


でも。


落ち着いたら二人で駅に向かった。
彼は手を繋ごうとしてきたけど、
何となく、誤魔化してやめた。
また明日からは普通の日々だ。
ここで浮かれてはいけない。

きっと彼にも誰かいる。
ちゃんと聞かなかったけど、
今の彼を見ていたら全く不思議じゃない。


彼にはちょっとした火遊びな時間。


今日が、すっごく楽しかった。
だから、それで終わらせる。
またいつか会うかもしれない。
また、会いたいと思った。
でも、それもその時。
その時も、その日を楽しむだけ。


もし仮にも私が追いかけたら、
完全に終わってしまいそうな、
そんな儚さがした。

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