しょくざいの日
昨日はやらかした。
洗濯機の31リットルを下の階に垂れ流した。
誰かに慰めてほしかったのか
昨日の夜は高校時代の友人と電話をした
別に慰めてもらえなかったけど
気持ちはだいぶ軽くなった
そうだ、罪を償おう。
今日は贖罪の日だ。
菓子折りでも包むか。
それくらいしかできねぇもん。俺。
昼食がてら駅近をぶらぶら。
新しいラーメン屋を見つける。
「びんびん亭」
名前がくだらな面白すぎる。
ラーメンをジャケ買いするのは初めてだ。
ニンニクとかそういうのが入っていて
滋養強壮的な意味のビンビンなのだろうか?
自分なりの解答を携えて入店。
チャーシュー麺が売り切れていた。
この店の稼ぎ頭なのだろう。
シンプルラーメンを注文。
こんな時だってのにうまい。
どうやら玉ねぎに拘っているらしく
わざわざ北海道から輸入をしているらしい。
正直ラーメンはラーメン。
それだけでもう美味いと思っていた。
玉ねぎという名バイプレーヤーがいなければ
ビンビン亭ラーメンは完成しない。
すごいぞ玉ねぎ
すごいぞ食材
今日は食材の日だ。
頑張ってる玉ねぎを見たら
「バイプレーヤーズ」を見たくなったぞ
大杉漣さん、元気かなぁ。
腹を満たした僕はケーキ屋を探す。
駅周辺には2つのケーキ屋さんがある。
あんまり距離が変わらなかったため
「食べログ」を確認する。
普段は「食べログ」など見ない。
もし見ても評価の低いところが
なんで低いのかの方が気になってしまう。
ただ、他人に渡すとなると話は別だ。
評価が高いところがいいに決まってる。
ましてや、昨日部屋を沈没させた相手だ。
ふざけて低い所に行く余裕などない。
彼氏、友達がいることを見越して
4つのケーキを買った。
自分のセンスが出ないように
それぞれ違うジャンルを選んだ。
1700円。
痛すぎる。あほなんか。
ドライアイスの有無を訊かれる。
いや、いらないです。…あっ!
大事なことを忘れていた。
ケーキには賞味期限がある。
米「冷蔵庫でどれくらい保存効きますか?」
店員「今日までですね。」
マジであほなんか?
店員「でも次の日に食べられる方もいらっしゃいますよ?」
アザース。
でも正直、次の日でも厳しいものがある。
もし彼氏がいなかったら?
今日暇な友達がいなかったら?
女の子1人で4個を平らげるのは難しい。
ましてやダイエット中の可能性もある。
そうか、
大抵のものは有限なんだ。
綺麗なものは薄命なんだ。
花火だって一瞬だもんな。
エモい気持ちを胸に秘め、
なるだけ揺らさないように
ケーキを持って帰る。
アパートに着く、
自分の真下の部屋番号が分からない。
ので指差し数える
1、2、3…
周りを歩く人々が懐疑的な目で僕を見る。
側から見たら確かに変質者だ。
真下の部屋を確認できた。
うちのアパートはチャイムがないので
ノック方式だ。
ノックをする。
就職活動で身についた三連ノック。
シーン…
あ!今日月曜だ!!
仕事や学校がある場合を考えていなかった。
自分の物差しで測ってしまった。
今日は本当にあほなんか?
「はーい」
あ、いた。助かった。
俺がアホじゃなくなった。
大丈夫だ。ちゃんと台本は用意してある。
「昨日はすみません。これつまらないものなんですが、いや、本当につまらないものは持って来てないんですけど。ッハハ!駅前に美味しいケーキ屋さんがあったんで、お詫びに。食べログで評価が高くて、ついさっき知ったんですけど。僕も食べたことないんですけど。ッハハ!よかったら彼氏さんとでも。あっ、お友達さんでも大丈夫ですよ。ッハハ!!」
完璧だ。爽やか。詫びすぎても重い。
ジョークと詫びの割合がちょうどいい。
亀田の柿の種の割合でちょうどいい。
よし、台本通りにいこう。
「あっ…。昨日はすみません。あのこれ…、よかったら…、ケーキです…。あっ、賞味期限今日までなんですけど…明日までいけるらしいです…。あっ、いえ。ありがとうございます。」
ある程度歳が近い女の子って緊張しちゃうね!
最後のありがとうございます。は
彼女の「ありがとうございます」へのアンサーだった。
ありがとうございます
に次ぐ
ありがとうございます
水掛け論だ。終わらない。
水浸しにした人にさらに水をかけてしまった。
とまぁ、僕の贖罪の日はこんな感じだった。
やはり、慣れないことは緊張する。
大人になるのはすごく難しいことだった。
水が漏れた原因は
洗濯機の排水ホースが外れていたことだった。
多分。
洗濯をすることが怖い。
でもやらなければならないことだ。
洗濯機をかける。
水漏れがないか確認するため、
かけてる間も洗濯機に張り付く。
楽しかった洗濯の時間が
今や命がけだ。
返してくれ。俺の洗濯時間。
怒りの矛先が見つからない。
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