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ミックステープ KOMEMX - The TAPE 02 side A 全曲紹介

オールジャンル、オールリージョン、オールジェンダーをモットーに選曲するミックステープシリーズ。Mixcloud で公開して現在は全9本を数えています。今回はその2本目A面の収録曲についてご紹介します。


https://www.mixcloud.com/kiichi-ogura/komemx-the-tape-02-sidea/

T1. The Narcissist / Blur

2023年にリリースされたBlurのアルバム『The Ballad of Darren』からの一曲。ミニマルなギターとオーソドックスなバンドサウンドが特徴。その中でも、デーモン・アルバーンが落ち着いたトーンで一つ一つの言葉を丁寧に紡いでいくスタイルが印象的だ。シンプルでありながら、作曲の妙はさすがBlurというべき完成度。

何かが静かに始まる予感を感じさせる空気が漂っており、聴く者をじっくりと引き込んでいく。その洗練されたシンプルさは、かつてのブリットポップのエネルギーとはまた異なる深みを感じさせ、Blurが現在進行形で進化し続けていることを証明している。

T2. アイドル / YOASOBI

僕にとってこの曲との出会いは、Twitterで見かけた鈴木愛理がパフォーマンスする動画だった。見た瞬間、彼女の完璧なルックスと圧巻の歌唱力、そして振り付けにノックアウトされてしまった。メチャメチャ難しい曲を、迷いなくバッチリ決める姿に釘付けになり、自然と曲そのものにも惹かれていった。

「アイドル」は、僕にとって多くの固定観念を壊してくれた曲だ。かつてメタルやプログレばかり聴いていた頃、アイドルに対してどれだけ偏見を持っていたことか。特に、2年前の紅白歌合戦でアイドルグループが総出演するシーンでは、勝手に「大したことしてない」と評していた自分を振り返ると、あのパフォーマンスが「お前にコレができるのか」と問いかけていたように感じる。キツイ体験でもありながら、新しい世界を開いてくれる瞬間でもあった。

それ以来、YOASOBIの「アイドル」は、僕にとって飽きることのない、何度も繰り返し聴きたくなる名曲になった。この曲のカッコよさと独創性は、既存のジャンルやアイドルという枠に収まらず、音楽そのものの魅力を純粋に引き出してくれる一曲だ。

T3. Crisis / Jaco Pastorius

ミックステープの面白さは、全く異なるジャンルや曲を大胆に組み合わせ、移り変わりの瞬間にそれぞれの曲が持つ共通点を浮かび上がらせることにある。YOASOBI「アイドル」の次にどんな曲を繋げるかと考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが、ジャコ・パストリアスの「Crisis」の冒頭で鳴り響くトランペットの音色だった。

ジャコ・パストリアスのベースは、まるで空間そのものを埋め尽くすかのような迫力を持っている。彼の演奏が生み出すベースの嵐は、YOASOBIの「アイドル」が持つプログレッシブな構造美と驚くほど響き合い、まるで両曲が一つの流れの中に存在しているかのように感じられる。「Crisis」は、ジャズやフュージョンという枠を超えて、ロックファンをも唸らせるスリリングなプログレロックだ。

T4. If I Could / Linda Lewis

次は打って変わって、リンダ・ルイスが届けるかわいらしいレゲエソング「If I Could」。この曲は、まるで絵本の読み聞かせのような純粋さと美しさに満ちている。リンダ・ルイスの透き通るような声が、「もしも私が木だったら」「もしも私が山だったら」という夢見るようなフレーズを紡ぎ、聴いていると心が自然と和む。

T5. Hynek Maneuvre / ASA MOTO

ベルギーのエレクトロニック・デュオ、アサ・モト。オールドスクールテクノのスタイルではあるが、彼らのトラックはすべてキャッチーで聴きやすいのが特徴だ。朝からBGMで流せば生活に心地よいリズムと活力を与えてくれる。まさに朝の元気な素。セクシーさを一切排除した二人の絶妙な出で立ちも憎めない。

ASA MOTO のお二人

T6. C.C. Rider / The High Marts

東京のガレージトリオ、ザ・ハイマーツが届けるロックンロールクラシックのカバーは、これまで数々のレジェンドが取り上げてきた名曲に、軽快でパンキッシュなアレンジが加えられている。荒削りながらもパワフルなギターリフが耳に飛び込み、ボーカルのSuzuによるハスキーな声が曲に独特のエッジを与えている。コーラスの掛け合いではテンションがマックスとなり、改めてロックンロールの楽しさを堪能させてくれる。

T7. I WANNA BE WRONG / Jeff Rosenstock

NY出身のジェフ・ローゼンストックは、これまで数々のバンドを率いてきたロックンロール界のアクトであり、このジャンルにおいて良き導き役とも言える存在だ。僕も彼のメールニュースを愛読していて、彼がレコメンドするバンドにどれだけ日々の音楽ネタ探しを助けられているか計り知れない。

シャーラタンズのティム・バージェスや、今年惜しまれつつ亡くなったスティーブ・アルビニもそうだが、ロックンロールに愛されるイコンたちは常に新しい音楽シーンにアンテナを張り巡らせ、リスナーに新しい窓口を提供してくれる。そんな彼らのライフスタイルが、時折一介のリスナーである僕にも「私たちはみな兄弟なんだ」という安心感や帰属意識を抱かせる。それが、さらに彼らとこのロックの世界を深く愛する理由でもある。

ジェフ・ローゼンストックのキャリアは非常に多産なので、どこから手をつけるべきか迷うかもしれないが、まずは最新アルバム『HELLMODE』からの一曲をセレクトした。エレキギターのキラキラとしたアルペジオが印象的なロックナンバーだ。

T8. PARDON / Otoboke Beaver

A面ラストを締めるのは、我等がジャパン、おとぼけビ〜バ〜の最新アルバムからの悶絶パンクチューン。直訳すると「は?」である。

あるメディアで「ロックの衰退は、ロックのメッセージが対立項の文脈でしか成立しないことが理由」などという記事を読んだ。僕に言わせれば、まさに「は?」である。我々の日常には依然として多くの対立項が存在し、それに対する反発がロックの核をなしている。おとぼけビ〜バ〜は、その現実を鋭く見据え、全女性から全男性に向けた怒りをまっすぐに歌い上げている。

しかも、そのメッセージは、圧倒的な演奏力で炸裂するからこそ説得力がある。男性からの「何をそんなに目くじらを立てているんだ?」というお決まりの問いに対して、彼女たちは「怒ってるんだから怒ってるんだろうが」という当たり前の返しを、そのまま全力で叩きつける。

おとぼけビ〜バ〜のこの曲は、全世界にはびこるマッチョ的な価値観を本物の力技でひっくり返してしまう勢いがある。このまま彼女たちには、そのパワーでパンクの精神を再び世界に広めてもらいたい。


おわりに

今回はテープの片面収録曲を一気にレビューしてみました。一曲でも好きな曲、気になる曲があったら、ぜひMixcloudでミックスを聴いてみてくれたらうれしいです。

KOMEMX - The TAPE 02 side A

https://www.mixcloud.com/kiichi-ogura/komemx-the-tape-02-sidea/

次回はB面を紹介します。


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