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樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第十五話
【遺留品から読み取れる自殺者の背景】
樹海内に落ちている多くの遺留品。
空のペットボトルやお菓子の袋など、普段目にしているものでも、樹海にあるだけで深みを感じてしまう。
飲み水ひとつにしても、用途は人によって異なる。
生きるために飲む水か、それとも睡眠薬を飲んで命を絶つための水か。
もしあなたが自殺を決意したら、最期を迎える場所に何を持っていくだろう?
最後の晩餐は何を食べるのだろう?
多くの自殺遺体、遺留品を通して見えてきたもの。
今回は遺留品について考察していこう。
【自殺者の気持ちになる】
鳴沢風穴の入口にある売店、森の駅「風穴」
店の前のベンチには、名物の「とうもろこしソフトクリーム」を食べながら、楽しそうに雑談する観光客の姿がある。
そんな楽しそうな姿を横目に見ながら、 売店の横に設置されている自販機でペットボトルの水を購入した。
水をバックパックに入れ、洞窟を見にくる観光客に混じって遊歩道を進んでいく。
50メートルほど進むと「風穴」の料金所が見えてきた。
ほとんどの人が料金所に進むなか、横の細い山道へと入り、溶岩でごつごつとした道を10分ほど進んでいく。
平日の昼間にこのあたりを歩く人は少ない。
誰もいないのをみはからい、遊歩道から樹海の奥深くへと入っていく。
一人で大きな荷物を背負い、姿を消す。
もしも誰かに見られていたならば、私は自殺志願者に見えるかもしれない。
私は樹海を探索するときは、自殺志願者の気持ちを想像して行動するようにしている。
気持ちを想像することで、亡くなった方の心情に少しでも近づけると思うからだ。
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【樹海入口の自販機で
睡眠薬を飲むための飲み物を買う】
樹海には多くの遺留品が残されている。
遺体の近くに落ちているものは、警察が遺体を回収する際に一緒に運ばれるが、どこまで回収するのかは担当した警察官によって異なるという。
空のペットボトルやお菓子の袋、小さなゴミまでしっかりと回収する人もいれば、首を吊ったロープや遺留品を残したままの人もいる。
おそらく見落としたものであろう、小さな骨がその場に残っているケースもある。
ただのゴミである場合もあるが、飲み終わった空のペットボトル容器を遊歩道に捨て、その後命を絶ったとしたら、それも遺留品と呼べるのではないだろうか?
普段、道端で目にするゴミに対して思いを馳せる人は少ない。
「こんなところに捨てて」など、捨てたことへの感情は湧くかもしれない。
しかし、そのゴミを捨てた人物の背景を深く考察する人はいない。
空のペットボトルの容器ひとつにしても、樹海に落ちているものには重みが感じられる。
「樹海の入口にある自販機で、睡眠薬を飲むための飲み物を買う」
学生時代に先輩に聞いた樹海の話である。
この話が本当か嘘かはわからない。
しかし、樹海に落ちている空のペットボトルは、入口の自販機で売られているものと同じものであることが多い。
コーヒーが好きだったのか?
なぜ最後にこれを選んだのか?
睡眠薬を飲むためにあえて水を選択したのか?
購入する人によっては、一つの水でも用途は違ってくる。
富士山を登りながら水を飲む人もいれば、自分の最期を迎えるために水を使用する人もいるということだ。
苦労して登り、山頂で飲む水の味は格別だろう。
それとは違い、ある覚悟をもって樹海にやってくる人には、同じ水でも全く違う味がしてしまうだろう。
自販機で買う水も、樹海のなかに落ちていれば、背景の深いストーリーまでが感じられるのではないか。
どうせ味わうのなら、澄んだ気持ちで味わってほしかった。
命を絶つ覚悟で樹海に来たとしても、大切なのはそこで思いとどまることだ。
昨日までの自分は、死を決意してここに来たことで死んだ。
今日この場所で、新しい自分に生まれ変わる。
そう考えてやり直すことができたらどんなにいいだろう。
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【遺留品の考察】
もしあなたが死を決意したとき、最期を迎える場所には何を持っていくだろうか?
樹海の遺留品には、その人にとって思い出深いであろうものが混じっている。
特に印象的だった現場は、遺体の足元にアニメの抱き枕が落ちていたことだ。
何のアニメかはわからないが、可愛らしい女性のキャラクターがプリントされている。
この場所で亡くなった方の“推し”だったのだろう。
遺体のすぐそばに置かれた抱き枕は、キャンプの燃えかすと共に少しずつ自然に還ろうとしているように見えた。
このように印象的なものが落ちている現場は、数ある自殺現場のなかでも記憶に残りやすい。
キャンプ跡には、顔写真付きの免許証も落ちていた。
樹海のなかに置かれた抱き枕を見ていると、この写真の人が、生前にアニメを見て小さな幸せを感じている様子が目に浮かぶ。
心の支えだった大好きなアニメと共に、最期を迎えたと思うと胸が締め付けられるようだった。
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【最後の晩餐】
多くの方は、樹海に入ったあとすぐに命を絶つわけではない。
キャンプの跡から見ると、ほとんどの人は半日〜1日、長ければ数日間、樹海で一人の時間を過ごしている。
その際に食べたパンやお菓子の袋、弁当の空き容器なども多く落ちている。
おそらく最後になるであろう食事を、どのような気持ちで選んだのだろうか。
「最後の晩餐では何を食べたい?」と聞かれたことがある人は多いと思う。
人生のなかで一度は話題にあがる質問だろう。
それを聞かれるたびに私は頭のなかで考えてきた。
妻か母親の手料理か?
もしくは大好きだった店のメニュー。
仲間と楽しく食べた思い出の味も悪くない。
その背景には少なからず、愛情や楽しかったときの記憶があるものだろう。
「最後の晩餐」とは食事そのものではなく、その時に抱いた感情が大きく影響しているのかもしれない。
樹海で命を絶つ人は、近隣のコンビニなど、限られた範囲で最後の食事を選ぶ。
何を選ぶのかはわからないが、どんなに美味しいものであっても温かい味はしないだろう。
もし自分が命を絶つ直前で最後の晩餐を考えたら、家族や友人の顔が浮かぶだろうか?
浮かばないから樹海(ここ)に来たのだろう。
最後の晩餐を想像できるというのは幸せな証拠である。
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【遺留品から読み取れること】
学生は樹海で命を絶たない。
ゼロとは言えないが、樹海内で命を絶つ学生はほぼいないと言って間違いないだろう。
樹海で命を絶つ人のほとんどが県外の人間であり、公共の交通機関か、車で来るケースがほとんどだ。
県外の学生にとって、電車とバスを乗り継いで来なければならない樹海はハードルが高い。
また、学生の自殺は、感情による突発的なものが死因の多くを占めている。
そのため、自殺を計画して遠方である樹海に足を運ぶ可能性は非常に低い。
樹海内で命を絶つ人のほとんどは社会に出ている大人であると考えて間違いないだろう。
落ちている遺留品は男性のものが多く、私が遭遇した遺体は作業着のようなものを着ていることが多かった。
実際に樹海内の自殺遺体のほとんどが男性であり、女性の割合は少ない。
状況から見て、おそらく30代〜50代ぐらいの男性が多いと思われるが、なかには20代の若者や、60を過ぎていると推定される高齢者の遺体もある。
そのため、年齢については何歳〜何歳と特定するのは難しいだろう。
放置された遺体のなかには、自殺でないものも存在する。
登山中に誤って怪我をしてしまいそのまま衰弱して亡くなることもある。
ここに詳しく書けないが、不自然にぶら下がっている遺体もあった(こちらについての考察はあなたに委ねる)
未だに解明できない謎や闇が、樹海にはまだまだ存在する。
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【多くの自殺遺体を見てきたなかで】
自殺遺体を目の当たりにすると、命について深く考えてしまう。
もし私が命を絶ったとしても、それはこの世界に存在する命が一つ消えただけに過ぎない。
自分の代わりなどいくらでもいる。
身近な人も最初は悲しんでくれるかもしれない。
しかし、徐々に記憶は薄れていき、いつもの日常が回りだすだろう。
社会や家庭で疎外されるから孤独になるのではない、人はもともと孤独なのだ。
そんななか、自分ひとりが命を絶って何になるのだろうか?
もし何かに追い詰められているのだとしたら、そのすべてを放棄して自分勝手に生きればいい。
命を絶つ前にもう一度深く考えてもらいたい。
あなたの決意した自殺は、本当に意味があるのだろうか?
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【電話やSNSによる相談窓口】
・# いのちSOS(電話相談/毎日24時間受付、WEB相談/毎日8時~22時まで受付) TEL. 0120-061-338 https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
・生きづらびっと(SNS相談/毎日8時~22時まで受付) https://yorisoi-chat.jp/
厚生労働省「まもろうよ こころ」では上記以外にも悩みや年代によって選べる様々な相談窓口が紹介されています。
・まもろうよ こころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
文・写真:ココペリコ
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