樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第六話
【富士の樹海の都市伝説 後編】
【一度入ったら二度と出てこられない迷いの森】
この噂は、富士の樹海について調べると一度は聞いたことがあるだろう。
樹海の中に一歩でも足を踏み入れると、二度と出てこられなくなるという都市伝説だ。
「樹海」という名前は、山頂から眺める様が、広大な森が風に揺られ、海原でうねる波のように見えたことから付けられたという。
地図で見るとわかるが、富士の樹海は広大である。
富士山を中心に山梨県と静岡県にまたがるその森は、「一度入ったら二度と出てこられない迷いの森」という表現がぴったりだ。
前回でも触れたが、これだけ広い森の中で、コンパスまで狂うという噂が合わされば、森から抜け出せなくなるという結論になるのは自然な流れだろう。
では実際はどうなのか?
【見渡す限り同じ景色】
迷って出られないと噂される理由は、コンパスにかんすることや森の広さの他にもある。
樹海に入ってみるとわかることだが、中の景色には変化がなく、迷った際の目印になるものもない。
茶色や緑を中心に形成されている森は一度方角を見失うと、GPSやコンパスの力をかりなければ元の場所に戻るのは困難だと言われている。
遊歩道から10メートルほど入ったところで、目を瞑って3回ほどグルグルと回転してみるとわかるだろう。
目を開いたときに見える景色に変化はなく、わずか10メートル先にあった遊歩道の方向さえも見失ってしまう。
樹海に吸い込まれるように奥深くに進んでいき、気付いたときには現実世界から隔離されたと感じてしまう……。
この都市伝説については、様々な体験談を耳にするので一つの結論に絞るのは難しいだろう。
迷ったという話は聞くが、その人たちは生還できているのだ。
本当に迷って出てこられなくなった例は皆無だ。
なかにはコンパスもGPSも持たず、あえて迷いに行ったという変わり者もいた。
その人物もどんなに頑張って迷おうとしても、どこかの道路もしくは遊歩道に出てきてしまうため、迷うことができなかったと話していた。
【迷えない森】
人は方向感覚がない状態で真っ直ぐ進もうとすると、利き足とは反対の方向に円を描くように逸れていってしまうものだ。
この現象は「リングワンダリング」、「輪形彷徨」、「環形彷徨」と呼ばれている。
真っ直ぐに歩いているつもりでも、利き足の力が強いため、少しずつ円を描いて反対方向に逸れていく。
利き足が右足の場合、一歩一歩の小さなずれが蓄積され、次第に左へ大きく円を描いて進むことになる。
それに加えて樹海の足場はとても悪く、そもそも真っ直ぐ進むことができない。
凹凸の激しい地面を歩きやすい方向へ進んでいくうちにルートを大きく外れてしまうことにもなる。
迫りくる崖のような急斜面、数メートルの深さの谷のような場所、天然の洞窟もあるためそれらを迂回して進むうちに、いつの間にか自分が向かっている方向がわからなくなってしまうのだ。
樹海探索に慣れている者がかなり奥深くまで入り、その場所で装備を全て捨ててしまえば、迷って出てこられないかもしれない。
しかし、樹海に初めて入る者がGPSも持たずに、遊歩道からはずれて樹海の奥に向かって進もうとしても、上記の理由からなかなか真っすぐに奥へと進むことはできない。
それどころか、いつの間にか遊歩道に行き着いてしまうのだ。
これは私自身も何度も経験している。
【人を近づけない何かがある?】
最後に、『迷わない』ということとは少し違う話を2つしたい。
樹海の奥に行くため、探索仲間と1時間半ほど樹海を進んだ時のことだ。
どこかの遊歩道にぶつかったので、その場所を確認するとスタート地点に戻っていたということがあった。
確かに樹海の地形は歩きづらい。
私は右利きなので、上記に書いた通り少しずつ左に逸れてしまった可能性もある。
しかし、1時間半近くも歩いて全く同じ場所に戻ってくることに不気味なものを感じた。
この時ばかりは状況を理解するのに時間がかかった。
富士山自体がパワースポットのため、その力の影響なのだろうか?
樹海の奥深くには秘密が隠されており、それを守るために結界が張られているという噂を聞いたこともある。
その結界が入ってくる人を遮っているのだろうか?
富士山の周辺には宗教施設が数多くある。
私が調べただけでも1400以上の宗教施設が富士山の近くにはあった。
このことは都市伝説要素を強めるうえ、話自体が長くなるため詳しい内容は次回にまわそう。
富士の樹海には人を寄せつけない何かが存在していることでもあるのか……。
【遭難遺体】
樹海の遺体には、自殺とは思えない状況のものも存在した。
自殺志願者の多くは私服やスーツ、もしくは少しだけ登山しやすい格好が多いが、そのとき目撃した遺体は登山をする格好でコンパスや地図も持っていた。
迷って出られなかったことが死因とも考えられたが、足を怪我して脱出できなくなってしまったことによる遭難だと私は考えている。
樹海の中では迷うことよりも、怪我をして動けなくなることを心配しなければいけない。
かくいう私も樹海の中で迷った経験があるのだ。
樹海の奥深くで、景色を撮影するためにレンズを覗いていたのだが、5分ほどしてからふと回りを見渡すと、自分がどこから歩いてきたのかわからなくなってしまった。
「このまま抜け出せないのでは?」と冷や汗をかいた経験は今でも鮮明に覚えている。
しかし、2時間ほど歩いているうちに遊歩道に戻ることができた。
探索慣れしていた気の緩みのせいで不用心になっていたことを反省する、しかし私は樹海から無事に抜け出している。
【一度入ったら二度と出てこられない迷いの森】
この都市伝説について、私の経験を踏まえた上で現時点の結論は
「樹海の中で迷うのは実際には難しい」
である。
次回につづく
文・写真:ココペリコ
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