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神仏探偵・本田不二雄が案内する 「TOKYO地霊WALK」 vol.5
江戸情緒を秘めた上野で
“穴場”の神仏名所をめぐる
【前編】
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神仏探偵・本田不二雄が案内する「トーキョー地霊ウォーク」。今回は上野です。今でこそ花見とパンダ、動物園や博物館や美術館のある「公園」ですが、かつてはそっくり東叡山寛永寺という大寺院の境内地であり、江戸人らが物見遊山で詣でる人気エリアでした。そんな風情を求めて、今も残るご利益寺社と知られざる“穴場”を巡り歩きます。
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絶景の不忍池に浮かぶ祈りの聖地・弁天堂へ
今回は、上野駅「不忍口」および京成上野駅からスタート。
まずは不忍池へ向かいます。すると、思わず声が出る絶景――見渡すばかりのハスの群生とその奥に浮かぶ弁天堂の景観――がお出迎え。7月に見頃を迎えたハス池は、8月下旬まで堪能できます。
「朝ひらき炎昼に閉づ蓮の花 命短し4日なりとて」(愚拙詠み)
一輪のハスは朝に開花し、午後に閉じるを4日くり返して散ります。なので、できれば午前中のうちに詣でましょう。
不忍池弁天堂は、琵琶湖の竹生島宝厳寺(日本三大弁天の一)に見立てられ、池中に築造されたお堂。ご本尊は八臂の辯才天(秘仏、お前立ちの像あり)です。
もし参詣の日にちを選べるなら、今年の8月は9日(金)と21日(水)がおすすめ。両日は「巳の日」にあたり、弁天堂の縁日です。この日は護摩祈祷が修され、特別な祈りの空間に包まれます。さらに、「巳成金」にあたる9/14(土)は、年に一度の秘仏御開帳。この日に合わせた特別なお守りも頒布されます。
辯才天は辯財天とも表記され、金運・財運のご利益でも知られますが、そのはたらきをもたらすのが辯才天の神使・宇賀神です。
宇賀神はとぐろを巻いた蛇体のお姿で、八臂辯才天像の頭上にもおられます。縁日の「巳(十二支の第六、動物ではヘビ)」の日はそれにちなんだものなんですね。近年、弁天堂の前にその蛇体神像が登場し、注目を集めています。
なお、巳の日には弁天堂脇の聖天島につづく扉が開かれます。この小島は、江戸初期の寛永年間、弁天堂がここに築造される前からあったそうです。霊験がスゴい反面、拝む行者にも手厳しいという聖天さんが、池中にぽつんと祀られていたわけですね。
そんな秘めやかな聖所に、「むむむ」な石造物がひとつ……。ぜひ、直接あなたの目でご確認ください(写真参照)。
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“お江戸の清水さま”で江戸風情に浸る
上野の山は、お江戸・東京を代表する一大パワースポットです。
寛永寺の山号「東叡山」は、「東の比叡山」の意味。平安京の鬼門(北東)守護を担った比叡山延暦寺になぞらえ、江戸時代のはじめ、江戸城の鬼門にあたる上野の山(現在の上野公園一帯)に寛永寺が建立されました。
そして、国家鎮護にちなんだ社寺ゆかりの神仏が山内に集められました。先の弁天堂もそう。そしてもうひとつが、弁天堂参道の反対側の高台にそびえ建つ清水観音堂です。
文字通り、京都の清水寺をモデルにしたお堂で、ご本尊は、清水寺の和尚から奉納されたという千手観音像。かつて坂上田村麻呂の蝦夷征討を守護したといわれる清水観音にあやかり、開運・祈願成就の“江戸の清水観音”として信仰を集めてきました。
ご本尊は秘仏(2月初午の日にご開帳)ですが、お厨子の両脇に立つ勝軍地蔵尊と勝敵毘沙門天、その左右に居並ぶ守護神・ニ十八部衆の雄姿にもぜひご注目を。
また、向かって右には「子育て観音」。たくさんの人形が奉納されていますが、これらは観音さんに祈って子を授かった両親が、子の成長の無事を願って奉納された“身代わり人形”。そしてその手前には、賓頭盧尊者像。祈願者の身体の悪い箇所を撫でて祈られた結果、お顔が摩滅した“なで仏”です。
このほか、堂内に掲げられた絵馬や奉納額なども見逃せません。注目は、懸造りの“清水の舞台”から望む「名所江戸百景」(廣重画)の一場面、「月の松」の再現です。その円い枝から弁天堂を望む景観は、物見遊山・上野編の鉄板ポイントです。
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上野の山にも前方後円墳が残されていた!
さて、上野の山はかつて忍岡と呼ばれていました。そのさまは「昔、このあたりは萱すすきが生い茂り、道の境すらわからない」寂しいものだったようです(『江戸名所記』1662年)。逆に、麓の不忍池のあたりだけ景観が開け、「忍ばず」と呼ばれていたのと対照的に、上野の山は人跡もまれな「忍びの丘」だったわけです。
そして江戸時代に入り、寛永寺の諸堂が建ちならんで上野の歴史が動き出す……のですが、実はこのエリアに、知られざる古代史の痕跡が潜んでいました。
清水観音堂から東京文化会館へと進む道の途中にあるこんもりとした小丘。案内板には、「摺鉢山古墳」の文字が見えます。そう、ここは古墳だったのです。東京都教育委員会の調査では、「5世紀後半に築造された前方後円墳とされ、弥生式土器や埴輪の破片が出土」したとのことです。
しかも、現在の上野公園の各所に小型の古墳が点在していたようです。「摺鉢山」をのぞくそれらは江戸時代以降の土地整備のあおりで均され、跡形もなくなっていますが、ここは往古、上野古墳群ともいうべきエリアだったのです。
思えば、連載第1回の芝公園・増上寺もそうでした。芝・増上寺と上野・寛永寺。ともに徳川将軍家の墓所を擁する江戸の二大聖地は、いずれも東京を代表する前方後円墳に隣接していたのですね。これは偶然でしょうか。
両者はいずれも、江戸湾に突き出す台地の突端にあたり、見晴らしの良い雄大な景観が望める場所でした。ここに寛永寺を開き、江戸の都市計画に深く関わったとされる天海僧正も、上野の山を新たなまほろば(聖地)として上書き更新したのではなかったか。ホンダはそうも思うのです。
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江戸以前の歴史を今に伝える“穴場”
さて、「摺鉢山古墳」の墳頂にあたる広場を後に、不忍池方面へと下ると、朱の鳥居群が見えてきます。吸い込まれるようにくぐって下った先には花園稲荷神社。縁結び祈願の白羽の矢で知られるお社ですが、その社前に注目のスポットがあります。
通称「お穴さま(穴稲荷)」です。
こんな伝説が伝わっています。
「天海僧正が寛永寺を開いたとき、忍岡に長年棲んでいたキツネの山も無残なことになった。このため棲む場を失ったキツネらは嘆き悲しみ、僧正の夢の中にしばしばあらわれ、窮状を訴えた。僧正も不憫に思い、この地を与えて住処の上にお社を建て、稲荷大明神として拝ませることとなった」(『江戸砂子』1732年より拙訳)
お穴さまの拝殿に入ると、崖の前の石壁が円形に穿たれ、その奥の洞穴を拝むようになっています。そして崖上を見上げると、確かにお社が――。
まさに“穴場”と呼ぶべき奇観。もとは崖にあった横穴で、キツネが棲みついていたのでしょうか。あるいは、そこはかつて古墳の羨道だったのかもしれません。
いずれにせよ、天海僧正はこの場を、寛永寺以前の先住者が棲まう地主神(土地神)として祀ったわけです。こうして、結果“キツネ穴”は残されました。摺鉢山古墳と同様、上野の山に残る江戸以前の風情といえるでしょう。何とも奥ゆかしい場です。
穴稲荷に隣接する五條天神社もまた、古くから当地の鎮守社だったといい、医薬の神(オオナムチ神、スクナヒコナ神)が祀られています。何と、かつては摺鉢山古墳の墳頂に鎮座されていたとのこと。芝や上野と同様、ここにも古墳の場が聖地として更新されていった経緯が見て取れます。
ともあれ、こちらで健康と病気平癒を祈願するのが吉でしょう。
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さて、上野の山巡礼はまだまだつづきます。次回はいよいよ、近年改修が完了し、往時の輝きを取り戻した上野東照宮を詣でます。
【後編へつづく】(8月16日公開予定!)
文・写真:本田不二雄
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【著者プロフィール】
本田不二雄(ほんだ・ふじお)
「神仏探偵」として、全国の神仏方面の「ただならぬモノ」を探索することを歓びとするノンフィクションライター。駒草出版の三部作として好評を博した『ミステリーな仏像』、『神木探偵』、『異界神社』(刊行順)のほか、そこから派生した最近刊『怪仏異神ミステリー』(王様文庫/三笠書房)、『地球の歩き方Books 日本の凄い神木』(Gakken)などの単著がある。Xアカウント @shonen17
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2021年8月2日発売 A5変形 214ページ
ISBN:9784909646439 定価 1,980円(税込)
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2020年4月10日発売 A5変形 256ページ
ISBN:9784909646293 定価 1,870円(税込)
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2017年2月11日発売 A5変形 256ページ
ISBN:9784909646293 定価 1,650円(税込)
【関連書籍】
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2016年7月14日発売 四六判 336ページ
ISBN:9784905447696 定価 1,650円(税込)