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Peter Barakan: Getting the word out on pronunciation(ピーター・バラカン:発音から言葉を知らせる)(Asahi Weekly 2021年11月28日号より)  『ピーター・バラカン式 英語発音ルール』刊行記念インタビュー

※週刊英和新聞『Asahi Weekly』(2021年11月28日号)の記事を翻訳し、 
 転載した記事です

 日本人は正確な発音ができない、なんて言われるのにうんざりしましたか? あるいは、自分の発音が理解されなかったり、最悪の場合それによって笑われるのを恐れて、あなたは英語が話せなくなったのでしょうか?

 しかしもう、心配はいりません。ヴェテラン・ブロードキャスターのピーター・バラカン──ロックスターから国のリーダーに至るまで、名前の発音の間違いをいち早く指摘し、彼の番組のリスナーや編集者たちにとっては苛立たしい存在かもしれません──が、あなたの理解に役立つ実用的な英語発音のハンドブックを刊行しました。
 『ピーター・バラカン式 英語発音ルール』は、2009年に刊行された書籍(『猿はマンキ お金はマニ』NHK出版)をアップデイトしたものです。この本は、いわゆるネイティヴにとってはあたりまえでも、日本の英語教育では教わることのないいくつかの発音ルールについて説明しながら、自然に発音することを妨げる、その背景にある原因や癖についても明らかにしています。


 バラカンが(以前刊行された)オリジナル版を書いたとき、日本は外国人観光客を誘致するための活動を始めた頃でした。新ヴァージョンのこの本も、当初は(東京)オリンピック/パラリンピック開催のタイミングに合わせての刊行を計画された企画でしたが、この新しい本を出した現在でも(オリジナル版の出版時と)状況はまったく変わっていないと彼は言います。
「なんら状況は変わっていないと思います」──日本における英語を取り巻く状況について、最近のインタビューで彼はこう述べました。
「日本でよく目にする英語としてまかり通っているもののほとんどすべてが〝ローマ字〟で書かれているんです。日本語を翻字することを目的としたローマ字のアルファベットの綴りを参照してね」と。
「そしてその多くが、絶望的に間違っている」
 彼は本の全体を通じて「ローマ字は英語ではない」というマントラを、繰り返し唱えています。ローマ字は、日本語に不慣れな人々(外国人)が日本語を読むための手助けとなるように考案されたアルファベットで表現されたシステム(方式)であって、逆の目的(英語を読む)のために使われるべきではないと。
「どういうわけか、皆さんはそれを誤解しているのです」
 本書で、バラカンは44のルールを設定しています。このルールは、どうすれば英語の(正しい)発音法を獲得できるかということについて、ひとつのアイディア(=ヒント)になるものです。一例をあげると、二重子音を含んだ単語の場合、二番目の子音は発音されず、よってその単語は子音がひとつの言葉のように発音されるということです。
「ほとんどのネイティヴ・スピーカーは、そんなこと考えもしません。なぜなら、それは育っていく間に自然に体得したもので、ルールであるということ自体、思いもしないからです」
 彼は、正しい発音を習得しようと奮闘している多くの人々にとって、大きな障害となる2つのポイントを挙げています。
 第一に、英語(特に日本の教育現場で教えられているアメリカ英語)は、「非常に多くの例外がある」ため理解するのが難しい、ということ。
英語以外の多くの言語、特に日本語では母音を完全に発音するのに対して、(英語では)母音を完全には発音しないため、知らない英単語を発音する際、英語学習者はそれぞれの母音を(すべて)発音してしまうことがよくあるのです。
「そのため、英語のネイティヴ・スピーカーが理解するのが難しくなってしまう。なぜなら、英語のリズムが崩れるからです」
 第二に、ローマ字的な考え方が、教育現場とそこでの体系的な使用により、日本人の心に深く浸みついてしまっているという点。それは特にメディアにおいて顕著であるといいます。日本のメディアで広範に活動しているバラカンにとって、これは看過できないことです。
「なぜ間違った発音をするのかといえば、新聞、雑誌、そして本においても、間違った英語が書かれており、それが常に身近にあるからです。放送メディアにおいても、間違った発音で話されています。なぜなら、そう習ったからです」
 自分も間違った発音をすることはある、と彼は言います。彼にも正しく発音するのが難しい言語があり、興味深いことに、それは“Irish”なのです。彼は自分がよく知らず、推測もできない言葉に出会った時は、すぐにウェブで調べるようにしていると言います。
 そして誰かに間違いを指摘された場合は、謙虚に間違いを認め、修正するようにしているとも。
「言葉を使うことによって、人は理解してもらうことができますよね。しかし、正しい発音で話さなければ、人に理解してもらうことは難しくなってしまいます」
 「革命でも起きない限り、(日本の)学校での英語教育方法を変えるのは無理でしょう。でも少しでも多くの人が声を上げれば、ゆっくり、でも確実に、『よい発音は、よいコミュニケーションにとって重要なものだ』ということに多くの人が気づくのではないかと期待しています」

 最近、彼はある高名な音楽ライターに、ソウル・シンガー、アリーサ・フランクリンのファースト・ネイムの発音(呼び方)を変えるように説得しました(彼女はよく「アレサ」と間違って発音される<編集者注:『ピーター・バラカン式 英語発音ルール』には、間違って発音されることが多い固有名詞の発音集の付録がある>)。
「 “間違っていることはわかっているんでしょう? だったら正しく書いた方がいいですよ” と彼に言ったんです。そうしたら今は……正しい発音で<アリーサ>と書いています」
「ひとり、あるいはふたりの小さな影響力から、変化は起き始める」
そう言ってバラカンは微笑みました。
「できれば、他の人たちにも気づいてほしいですね。僕が生きている間は難しいかもしれませんが、必要な変化だと思います」

インタビューからの抜粋
Q: 間違って発音してしまう背景には、取り組む姿勢の問題があると思われますか?
A:思います。ですが、精神的な部分の問題というのは、日本独特のものではありません。多くの人にとって、正しい発音で流暢に(外国の)言語を話すことは、かっこをつけているように感じるものです。僕が発音についての話を始めると、防御的になって、「そうですね。でも、英語圏の人が日本語を話す時だって、ひどいアクセントで話すじゃないですか」と言う人がいます。もちろんその通りです。でも、最悪のアクセントで話す人は、努力していないということです。言語を学ぶということに限って言えば、自分が努力しないことの言い訳のために、他の人の欠点をあげつらうやり方は通用しないと思います。

Q: 読者に何か実用的なアドバイスはありますか?
A:できる限りたくさん聴くことは、役に立ちますね。例えば映画を観るとしたら、何度も繰り返し観ることでよくわかるようになります。最初は、筋を把握するために字幕を追います。そして次は、字幕のことを考えないようにして観ると、発音に気づきます。あるいは、英語の字幕で観ることもできますね。ほんのちょっとの努力があれば前進できます。


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ピーター・バラカン…1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年、音楽出版社で著作権関係の仕事に就くため来日。
80年代にはYMOとそのメンバーの海外コーディネイションを担当。
84年から3年半、TBSテレビのミュージック・ヴィデオ番組『ザ・ポッパーズMTV』の司会を務めた。
現在はフリーランスのブロードキャスターとして活動し、『ウィークエンド・サンシャイン』(NHK-FM)、『バラカン・ビート』(Inter FM)、『ライフスタイル・ミュージアム』(Tokyo FM)、『ジャパノロジー・プラス』(NHK BS1、NHK World)などの番組を担当している。
また、2014年から毎年音楽フェスティヴァル『Peter Barakan's Live Magic! 』のキュレイターを務め、内外の素晴らしいミュージシャンを紹介している。
おもな著書に『ロックの英詞を読む──世界を変える歌』『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『ピーター・バラカンのわが青春のサウンドトラック』(光文社知恵の森文庫)、『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、 「新版 魂(ソウル)のゆくえ」(アルテスパブリッシング)、『テイキング・ストック ぼくがどうしても手放せない21世紀の愛聴盤』(小社刊)がある。

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ピーター・バラカン 著
『-面倒な発音記号がなくても大丈夫- ピーター・バラカン式 英語発音ルール』
四六判/並製 144ページ
ISBN 978-4-909646-46-0
定価(税込み) 1,100円(税込)

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