静かな帰省③


帰省中の予定第2弾、中学からの友人とご飯を食べに行く約束の日がやってきた。

彼女とは、中学の吹奏楽部で一緒に打楽器パート担当になり、別の高校に進学してからもずっと仲良くしてもらっている。

倒れる前の春、私のアパートまで遊びに来てくれて、2人でランチや花見をした。遠くまで来てくれたのに、おやつなどを奢ってもらっていた。
ちょうど8月が彼女の誕生日だったから、お返しにお菓子を買って渡そうと準備していた。

彼女はこの日は仕事だったため、夜、仕事終わりに家まで迎えに来てもらった。
あまり家から遠くに出掛けると、万が一救急車騒ぎになった時に困ると思い、実家の近くにある小さなイタリアンのお店に連れていってもらった。

店に入ると、私たち以外に2組しか客がいない。

まだ1cmくらいしか髪が生えていなく、手術痕とその周りは完全に禿げているから、帽子をかぶって隠していたが、店内が空いているため帽子を取った。

幸い、ほかの客は食事に夢中で驚く様子もなく、私も蒸し暑さから解放されて良かった。

注文を終えてから、倒れる前からの話をひたすら話した。もう何度か病気の話を人にしているため、随分順序よく説明できるようになったと思う。
そして彼女は看護師をしているため、話がすぐに通じる。

オペ室やICUを担当する彼女に、手術後すぐに1度麻酔を切られて喉の管を抜かれたあの件を、初めて理解してもらえた。
全身麻酔をした患者には、全員する行為なのだそうだ。ただ、すぐに眠らされてしまうため、覚えていない患者のほうが圧倒的に多いらしい。
しかも、腰椎穿刺の経験もあるため、あの痛さも理解してもらえた。これはなかなか嬉しい。

彼女はとても真剣に話を聞いてくれ、手術痕も「剃りこみみたいでかっこいい」と言ってくれた。
後遺症も障害も残らなかったのは、やっぱり奇跡だよね、と話した。

他にも、退院後の話、彼女の同棲の話、とにかく喋り倒した。

昔から、彼女とはとにかく話が尽きなくて、学校帰りに暗くなるまで道で立ち話をしょっちゅうしていた。
仕事帰りの担任の先生に見つかって「早く帰れ!」と注意されたことも何度もある。

しかし、今回は私が食後の薬を飲まないといけないため、2時間ちょっとでお開きにした。
名残惜しかったが、ちょっとでも無理をして痙攣でも起こしたら迷惑がかかってしまう。何より、看護師である彼女が心配してくれる 。

お互いに落ち着いたらまた遊ぼう、と別れた。
ご飯も美味しかったし、たくさんお喋り出来たし、大満足の1日だった。






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