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#14 かなえちゃんはたぶん、最高に素敵な女の子だった。

小学生の時、クラスにかなえちゃんという女の子がいた。かなえちゃんは背が高くて、ぱっちりした目をしてたけど、いつも鼻水を垂らしていて、オドオドしていて、たぶんクラスでは嫌われ者だった。汚いとか、何を言ってるのかわからないとか、そういうことを言われて、からかわれていた気がする。

私はかなえちゃんが嫌いじゃなかった。別に好きというわけでもなかったし、あまり話した記憶もないけど、かなえちゃんの悪口を言ったり、プリントを回さないなんてことはしなかった。したくなかった。そういうことは、意味がないと思っていた。だから普通に接していた。

時が経って、今度は私もいじめられた。友達はいたけど、どこか同級生から浮いていた自覚もあって、何で私が?というよりは、ついに来たか、という感覚に近かった。でも、すごくつらかった。

必死に平気な顔をしてたけど、本当は息が苦しかったし、脚は震えていた。しばらくして、私は学校を休んだ。担任の先生が慌てて家に来て、おそらく学級会議なども開かれ、説得され、しばらくして私は恐る恐る復学し、また何ともない日常が戻った。

でも、その間も、かなえちゃんはずっとみんなに嫌なことを言われては、泣いていた。泣きながら、やめてほしいと訴えていた。私はそれを見ると、前よりも胸が苦しくなった。私にできることはなんだろうと思った。記憶が曖昧だけれど、たぶんみんなに「やめなよ」という勇気はなくて、でも前よりも積極的に、かなえちゃんに話しかけるようになった。

何年かして、かなえちゃんとはクラスも離れて過ごしていたころ、私は転校することになった。一度はいじめを経験したその学校を離れることは、思っていたほど嬉しくもなくて、でも悲しくもなかった。お別れ会をやってくれたけど、内容はほとんど記憶にない。かなえちゃんのこと以外は。

かなえちゃんは、違うクラスになって何年も経っていたのに、私のクラスのお別れ会に来てくれた。引っ込み思案の彼女にとっては、すごく勇気のいることだったと思う。さらには、みんなの前でお別れの言葉も言ってくれた。そして、泣いてくれた。

幼馴染のまさのりくんや、みなちゃんとは比にならないほど、大号泣してくれた。まいちゃんが普通に接してくれたこと。普通に話しかけてくれたこと。それがすごく嬉しかったといって、何度も「ありがとう」といってくれた。

私は面を食らってしまって、そしてかなえちゃんのまっすぐな言葉がこそばゆくて、なんて答えたらいいかわからなかった。キョトンとした顔をしてしまった気もするし、照れ臭くて下を向いてしまった気もする。あの時の私には、かなえちゃんの大きな大きな想いを受け止める度量がなかった。

そしてしばらくして、私は引っ越した。かなえちゃんとは特別、連絡をとったりはしなかった。しばらくは、またいじめられていないかな・・と心配だったけど、新生活はそれまでよりもずっと楽しくて、いつの間にかかなえちゃんを思い出すことは減っていった。減っていったけど、数年に一度、ふと思い出す。かなえちゃん、どんな大人になってるかなぁ、と思い出す。

さっきも、ちょうどお風呂から上がって髪を乾かしているときに、かなえちゃんのことを思い出した。そして「結局かなえちゃんが最強だったんだなぁ」と、唐突に悟った。唐突だった。

私はちょっといじめられただけで、学校を休んで、全身が世界の終わりみたいな感覚になって、絶望した。でも、かなえちゃんが学校を休んだのを、少なくとも私は聞いたことがない。

私はつらいと言えなかったけど、かなえちゃんはちゃんと泣いて、ちゃんとつらいと訴えてた。そしてお別れのときは、寂しいといって、ちゃんと泣いてくれた。ありがとうもちゃんと言ってくれた。そんな素敵なかなえちゃんに、私はあの日、こちらこそありがとうと、ちゃんと言えたんだろうか。記憶にないけど、たぶん言えていない。

かなえちゃんはすごい子だった。幼い私たちはそれを、受け止めきれなかった。あの時ちゃんとお礼を言えなくて、ごめんね、かなえちゃん。素敵な大人になって、かなえちゃんも幸せな人生を送っているといいな。

こまつまい

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