女性で、理学で、研究者として。
今回の記事は、理学部出身で、今は雪にまつわる研究を行っている女性技術者/研究者の私が、感銘を受けた展示について書いたものです。
初夏の頃、北海道大学 大学文書館を訪問しました。
訪問した理由は「数学者 桂田芳枝が切り拓いた女性研究者の道」という特別展示があったからでした。2024年8月頭にこの展示は終了しましたが、チラシのURLリンクを記載します。
https://www.hokudai.ac.jp/bunsyo/images/Exhibition/flier-Katsurada202310.pdf
桂田芳枝さんの略歴紹介
桂田芳枝さん(1911-1980)は、数学分野で女性で日本初の博士号を取得し、さらに海外の大学との共同で行った研究成果を基に、北海道大学で初の女性の教授となり、大学の運営にも携わり、名誉教授となられた方です。¹⁾ ²⁾
大学という教育・研究機関でも、企業と同様、上位職になるほど、女性の比率は低くなっています。私も大学、大学院で理工系に属して、学生も教官も、女性が少ない環境で過ごしていました。
しかし、私が大学や大学院の入試を受ける際には、性別による制限があった訳ではありませんでした。一方、今回紹介する桂田芳枝さんが学生だった戦前は、大学入試において、男性の入学で定員に欠員がある場合のみ、女子学生も例外的に入試を受けることが出来たという時代でした。この仕組みも明文化されている訳では無く、当時の入試に関わる大学の通知文書を丁寧に読み解くと例外的に許されることが分かるというレベルです。この厳しい大学への扉をこじ開けた女性の大学入学者が、全学で数名程度ではあるけれど存在したという、パイオニアの姿に圧倒されました。
初めて女性の入学が許されたのは1913年、東北帝国大学(現:東北大学)でした。³⁾ 北海道帝国大学(現:北海道大学)でも初めての女性の入学者が誕生しました。²⁾ 東京大学に女子学生が入学したのは戦後の1946年だったこともあり、東京の女学校から東北大学や北海道大学に入学していた女性たちが何人も居たというのも意外でした。
戦前、女子高校生は学ぶことが難しかった「数学」
戦前の女学校(高校)の授業では、男子学生(旧制高校)の半分のコマ数しか数学の授業がない状況でした。その中で、桂田芳枝さんは高校の先生から補講のような形で数学を追加して学んだり、その後、東京の大学では質問が許されない聴講生として過ごす中で、熱心な姿を見た講師により、家族ぐるみ支援があったりしたという逸話がありました。
本人の努力と才能はもちろんのこと、裕福な立場も背景に子供の学びに理解を示した親や、大学受験を許す職場など、周りの理解ある支援者に恵まれたために辿りついた側面もあるのだと思いました。
昭和の時代の、女性の大学でのキャリアの形成
展示物には桂田芳枝さんが北海道大学に勤務していた頃の手書きの議事録も多数ありました。大学の運営に関わるまでの学内投票結果など、生々しい記録がありました。
桂田芳枝さんの大学入学時の名簿も、北海道大学理学部に採用された際の職員名簿も、当然のように男性ばかりのものでした。
中谷宇吉郎先生の足あとを見付ける
展示物の職員名簿の中に「物理学教室 教授 中谷宇吉郎」の名前を見付けた時は嬉しかったです。また、こちらの北海道大学 大学文書館には中谷宇吉郎先生直筆の墨による絵手紙も保管されていて、達筆な目にすることが出来たのも嬉しかったです。
おわりに
私が生きてきた時代は、戦前そして戦後の昭和の時代よりずっと、女性の教育機会も就労の機会も与えられるようになりました。そのうえでも、まだまだ女性の理工系在学者、就労者、研究者は少ない現状があります。
まずは性別に関わらず、理学の道に進む(その進路は大学だけとは限りません)後輩たちを励まし育成したい思いがあります。さらに女性の、これから進路を決める学生に、理工系の楽しさのかけらを伝えて、その道に進む困難があった場合にも encourage(勇気づけ)したいという思いが私にはあります。
参考文献
¹⁾ 北海道大学 ダイバーシティ・インクルージョン推進本部, DEI NEWSLETTER, 号外, 2023年12月発行
https://www.dei.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2023/12/DEI_Newsletter_gougai_231215_web_2.pdf
²⁾ 北海道大学生活協同組合 機関紙「きぼうの虹」第405号, pp.8.
https://www.hokkaido-univcoop.jp/hokudai/univcoop/pdf/facultymember/backnumber/no405_n.pdf
³⁾ 東北大学特設サイト「日本初・女子大生誕生の地」
https://www.tohoku.ac.jp/tohokuuni_women/chapter1/